罪なのか、罰なのか

私がこの世に生まれたとき、一番最初に貰ったものはこの名前でした。そして、その名前をくれたのは六つ年上の幼馴染の彼でした。あの人は、とても優しくて、いつもあたたかい人でした。本当のお兄さんのようで、そして彼も私のことを本当の妹のように可愛がってくれました。テロで家族を失ってからも、彼は自分の身を犠牲にしてまで私を守ってくれようとしました。それを申し訳ないと思うと同時に、私は本当に本当に嬉しかったのです。私の存在はあの人に与えられ、そして今ここに私が存在している理由もあの人がいるから。
だから、あなたがいなくなった今、私の存在している意味はどこにあるのでしょうか?
いやでも考えてしまう。あの人がいなくなったら私はどうなってしまうのか。小さい頃から何度も何度も考えて、怖くて怖くてそのたびに泣いてあの人に助けを求めた。そういうとき、あの人は、何も言わずにただ優しく頭を撫でてくれるのだ。彼がいなくなる日が来ませんように。もしもそんな悪夢みたいな日がやってきてしまったら、私は壊れてしまうから。そう、何年も何年も思っていたのに。

「アレルヤ。私汚いから、触らない方がいいよ」

目を覚まして一番はじめに見たものは、哀しそうな顔をした大好きな人の姿だった。切なげな声で私の名前を呼んで触れようとした彼の手を言葉で制す。
ノエルのその一声に、アレルヤは目を瞠って伸ばしかけた手を止めた。「なん、で?」と、心からの声が彼の喉から絞り出される。
ああアレルヤ、ごめんなさい。あなたにそんな表情をしてほしくないのに。

だって、と、ノエルは視線をアレルヤから少し外す。あの人の姿を探してみたが、やっぱりそこにあの人の姿を見つけることは出来なかった。自嘲にも似た溜息が零れる。

「あの人がもう帰ってこない、て分かったとき、安心した自分がいたの」

昔から何度も考えて、そのたびに同じ結論に行き着いていた。彼を失った自分は生きていけない。きっと、泣き叫んでどうしようもなくなって、あの人の後を追ってしまう。そして、こんな世界じゃない別の場所で彼と再会して、「しょうがない奴だな」て困ったように笑った彼に頭を撫でてもらうのだ。夢にまで見てしまうくらい、その“もしも”のときの行き先は決まっていたのに。実際は、違った。

「帰ってこないのがロックオン・ストラトスでよかった・て。アレルヤ・ハプティズムは帰ってくるから、よかった・て」

そう、思ってしまった。
自然と涙が溢れる。どうして自分はそんなことを一瞬でも思ってしまったのだろう。それでも、気づいたときにはそう思ってしまっていたのだ。アレルヤじゃなくて良かったと。アレルヤは帰ってくるから、大丈夫だと。そう、思ってしまった。

呆然と目を瞠ったままノエルを見つめているアレルヤに、ノエルは顔を歪めて笑う。そして首を振った。
汚いでしょう?
そう自分にも言い聞かせるようにノエルは呟いた。あの人もアレルヤも、同じくらい大切な人なのに。順位なんてないのに。なのに私はそう思ってしまった。…汚い、汚い、汚い。こんな私、いらない。大好きな人たちを比べようとした自分は、汚い。

「どうやったら、謝れるかな」

あの人にも、アレルヤにも謝らなくてはならない。でも、あの人にはもう謝れない。直接会って、ごめんなさい・と。その言葉を彼にもう二度と言うことはできない。

“もしも”のときの行き先は、少し道を間違えたけれど、最後に行き着く場所は同じなのかもしれない。そしたら、この世界とは別の場所であの人に直接謝れるもの。
そのときは頭を撫でてくれなくていい。笑ってくれなくてもいい。私のことを忘れてしまっていてもいい。
それだけ私は重い罪を犯してしまったのだから。


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。何を差し出せば許されますか?
声ですか?身体ですか?命、ですか?



END
(20080611)


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