
この感情を手にとって
雪を見るのはいつ以来だろうか。アレルヤはホテルの窓からしんしんと降り続けるそれを見やる。
ソレスタルビーイングが解散し、ノエルとふたりで生活をはじめてもう数年経った。新しく移り住んだ土地は気候が温暖なため、冬でも雪は滅多に降らない。だからアレルヤだけではなくノエルも雪を見るのはきっと久しぶりのことだろう。…子どもたちは、まだ見たことがないはず。
今頃空から降ってくる白いものに目を輝かせているかもしれない。それを想像してアレルヤは小さく笑う。
数週間、アレルヤは仕事の関係で家を離れていた。国外への出張ということでその期間も長い。正直それほど長い間家を空けるのは気がかりだったし、子どもたちをノエルひとりに任せるのは心苦しかったのだが、ノエルが快く送り出してくれたので暫くは仕事に専念できた。
そしてようやくこちらでの仕事も片付いて帰国の目処が立ったので、せっかくならノエルたちを呼んでこちらで観光でもしてから一緒に帰ろうかという計画が立ち、今は彼女たちの到着を待っているところだ。
枕元に備え付けられている時計を確認する。飛行機は着いたと連絡が入っていたから、きっともうすぐだ。本当は空港まで迎えに行ければ良かったのだが、自分も先程ようやく仕事が終わったのでホテルで合流することになっていたのだ。
久しぶりに会う家族の顔を思い浮かべたとき、来訪を告げるベルが鳴った。アレルヤは足早にそこへと向かい、ゆっくりとドアを開いた。
「久しぶり、ノエル」
ドアを開けた瞬間目に入ってきたノエルの姿。挨拶代わりのキスを彼女に贈れば、ノエルも「お仕事お疲れ様」とねぎらいの言葉をアレルヤにくれた。そして彼女の腕に抱かれているルカの頭を撫でて(なんでこの子は久しぶりに父親に会ったのに無表情なんだろう?ちょっとショックなんだけど)、先ほどから足に抱きついてきているマリアを抱き上げる。ああ、暫く会わないうちにまた可愛くなった(親ばか・て言われても、可愛いものは可愛いんだから仕方がない)
「マリアも元気だった?」
三人を部屋に招き入れながらマリアに問いかければ、マリアは大きく頷いてくれる。そっか・と頭を撫でてあげれば、あのね!と子ども特有の高い声で彼女は話し始めた。
「あのね、おそとでゆき?がふってるの!すごくつめたいんだよ」
目をキラキラさせて言うマリアに、そうだね・と相槌を打ちながら彼女を降ろして着ているコートを脱がせてあげる。外は寒いが室内は空調が効いているので温かい。ソファに座ってノエルも同じようにルカのコートと手袋を外してやっていた。
「雪が降るってことはすごく寒いってことだからね。マリアは寒くない?」
「てがね、すごくつめたいの」
赤くなった小さな手をアレルヤの眼前に掲げ、ちょっといたい・とマリアは言う。きっと寒さで麻痺してしまったのだろう。これほどの寒さには慣れていないため、きっと子どもたちにとってもはじめての経験。そっか、とアレルヤは頷いて、マリアの手を自分の手で包んであたためる。
「手足が冷えたらね、マリア。すぐあたためなきゃ駄目だよ?冷たくなった血液が心臓に流れたら心臓がびっくりしちゃうからね」
きっとまだ小さいマリアはアレルヤの言っていることを理解できていないだろう。けれど、心臓がビックリする・ということを聞いて、少し驚いたように目を丸くした。「しんぞう、びっくりしちゃうの?」と問いかけてくる彼女に、「そうだね」と頷いて、そのまま小さな身体を抱きしめてやる。
「だからね、こうやってすぐあたためなきゃならないんだよ」
覚えておいてね・と言えば、マリアはアレルヤの背中に頑張って手を伸ばしながら大きく頷いた。冷えた身体を温める一番手っ取り早い方法は、人の体温で直接温めることだ。だからこうやって抱きしめてやれば、自分の体温が伝わってすぐに温かくなるだろう。…別にマリアを抱きしめたいからとか、そういう理由だけじゃあないからね。身体を冷やして風邪でも引いたら大変だから。よしよしとその頭を撫でてやる。ソファに座ったノエルが膝にルカを乗せて、小さく笑っていた。
END
「どうしたの?ルカ。ルカもママをあたためてくれるの?」
「ん。あたためるの」
「(ルカがノエルに抱きついてる…!ずるい!!)」
(20080812)