指先の熱



マリアはひとりにされることに慣れていない。慣れていないというか、自分たちがそうさせなかった。寂しい思いをさせたくなかったから、ノエルは彼女がもう少し大きくなるまではと仕事を入れていなかったし、アレルヤとて休みの日は出来る限り家族と一緒に過ごすようにしていた。ひとえに自分たちは幼い頃から肉親がいなくて寂しい思いを少なからずしてきたから、その思いを子どもにまでしてほしくないという理由から。
だがもうすぐ、マリアの妹か弟が生まれる。出産間近のノエルは大事を取って入院中。そのためマリアの面倒を見る人がいないため、アレルヤの仕事が終わるまで病院のナーサリーにマリアを預かってもらっている。職場のナーサリーとはいえ、自分達から離してマリアをひとりで過ごさせることははじめてだ。マリアは聞き分けが良いし、人見知りもしない子なので大丈夫だとは思うけど。やっぱり、心配。

「ごめんね、マリア。遅くなって」

空が暗くなって暫くして、アレルヤは仕事を切り上げてマリアを迎えに行く。病院内に勤務する親を持つ子どものために作られてたナーサリーだ。安全面でも信頼できる。でもさすがにこんな時間になるまで預けられている子どもは珍しく、今日の迎えは自分が一番最後。ひとり残されていたマリアを見て、もう少し早く来られれば良かったんだけど・とアレルヤは申し訳なく思った。四才になったばかりのマリアは、アレルヤを見つけてとことこと彼に歩み寄る。いつもならパァ!と笑って駆けてきてくれるのだが、今日は少し違う。

「マリア?」

足元にやって来たマリアと視線を合わすためにしゃがみ込んだアレルヤは、マリアの顔を覗き込む。笑っていない。何か、必死に我慢しているような顔。あ、泣きそう・とすぐに思った。
ノエルかな?と予想したら案の定、「ママは?」との声。ああやっぱり。

「ママは暫く病院にいなきゃならないんだ。でもすぐマリアのところに帰ってくるよ」

君の妹弟を連れて、と言おうとしたら、すぐっていつ?と返ってくる。しっかりアレルヤを見上げて問うてくるその顔はノエルにそっくり。ああ、そういう強情なところもそっくりだね、マリアは。

「それはマリアの妹か弟に聞いてみないと」

と言ってやれば、何となく納得したのか小さく頷いた。ちらりと時計を見やり、「ママに会いに行く?」と聞いてみれば、意外や意外。マリアは首を横に振った。

「もう暗いから、きっと赤ちゃん寝ちゃってる」

だから明日、聞いてみる・と少ししょんぼりしながら言うマリアを衝動的に抱きしめそうになったがそれを何とか堪えた。可愛い。本当に可愛い。抱きしめようと無意識のうちに伸ばした手を引っ込めて、代わりにその柔らかな髪を撫でてやる。くすぐったそうに首を竦める姿が本当に愛おしい。

「じゃあおうちに帰ろうか」

立ち上がりながら彼女の手を取る。マリアもそのまま立ち上がってアレルヤの隣に並んだ。今は空いているマリアの左手は、きっともうすぐノエルと繋げるようになる。そして自分の空いている右腕は、生まれてくる子どもを抱き上げるためにある。


END
(20081004)





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