隙をついて哀願



マリアは普段とても聞き分けが良い、素直ないい子だ。親の自分から見ても本当にそう思う。食事の時間を除いたら。

「マリア、にんじん残しちゃ駄目よ」
「やっ!」

ぷいっと顔を背けたマリアに、ノエルは小さく溜息を吐く。小さい子どもは好き嫌いが激しい傾向があることをすっかり失念していた。他のものは野菜でもなんでも好き嫌いなく食べられるのだが、マリアはどうしてもにんじんだけは食べられない。料理は得意な方なのでにんじんと視覚できないようにすれば食べられるかもしれないと、細かく切ってハンバーグに入れてみたりと工夫はしてみたが、子どもの味覚は敏感。「にんじんのあじがする」と器用に微塵切りにされた人参をひとつずつ除いていたときには敵わないと思った。けれど、栄養面のことも考えたら食べさせないという選択肢はない。だから最近の食卓はほぼ戦闘態勢だ。

「そんなことしてるとパパに怒られるよ?」
「パパ、マリアのことおこる?」
「え?!(僕に振るの?!)…そうだなあ。ちゃんと食べないと、」
「パパ、マリアのこときらいになる?」
「嫌いにならない!嫌いになんかならないよマリア!!」

アレルヤは駄目だ。あてにならない。娘溺愛のアレルヤはどうしてもマリアに甘くなる。本当にいけないことをしたらちゃんと叱ってくれるし育児には協力的だが、こういうところでは本当に役に立たない。ああもう、そのデレデレした顔にハンバーグを投げつけてやりたい!

「なんでマリアはにんじんが嫌いなの?」

とりあえず根気良く粘ろう・と、ノエルはマリアの頭を撫でながら聞いてみる。彼女は少し考えながら「あまいのかあまくないのかわからないもの」と答えた。ノエルはにんじんが嫌いではないのでマリアの言い分がよく分からないが、表情からして本当に嫌いなのだろう。そういえば小さい頃ににんじんを使った離乳食を食べさそうとしたとき、それだけは頑として食べなかった。…本当に嫌いなのね、きっと。

「ま、まあ。にんじんを食べなくても他のもので栄養は摂れるし…」
「アレルヤは黙ってて!」

パパーと甘え出したマリアを抱きしめながら彼女の味方をするアレルヤを怒鳴れば、彼はビクッ!と縮こまる。「ご、ごめん」なんて言ってる割にはマリアから離れようとしないし。マリアの好き嫌いをなくす前に、アレルヤの彼女への甘やかしぶりをどうにかしないといけない。きっとこれは一生治らないだろうけど。


END
(20081109)





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