
身勝手な季節
進路希望調査・という題目のペラペラの用紙を学校で配られた。締め切りは明後日まで。
…正直さ、たった三日で今後の人生について結論出してこい!なんて無茶なこと、まだ14や15そこらの子どもに課すのは酷なんじゃないかって思ってしまう。
ルカは「あ゛ーー!」と、それで紙飛行機を折って飛ばしてやりたいのを懸命にこらえた。
進路?将来何になりたいか?考えたこともありませーん!じゃきっと通らないんだろうな。女の子だったら可愛く「お嫁さん」なんて言ったら許されそうだけど(いや実際駄目なんだろうけど)、正直男が「お婿さん」なんて言っても気持ち悪いだけだ。うん、…うわ、想像しただけで寒気がした。やめだやめ。
友人はそれなりに夢や希望があるようだが、自分にはあまりそういったものはない。昔父親の仕事場に行って働く彼を見てから医者もいいなと思ったこともあったけれど。正直、俺には無理。頭良くないしね、俺。
両親と相談した方がいいかもしれないが、それも何となく気恥ずかしい。というわけで、留学中の姉に通信を飛ばしてみる。時差を考慮すれば、あちらは夕方か。繋がるかな〜?と案じていたが、数回のコールの後繋がった画面には姉の姿が映った。
「やっほー姉ちゃん。今暇?デートとかじゃない?」
<<大丈夫だけど…。どうしたの?>>
あらら。デートって単語を出したってのにスルーですか。暫く好きな人に会えてないな、こりゃ。まあそれをからかっていたら本題に行きつけそうにないので率直に聞いてみる。
「姉ちゃんってさ、なんで留学してるんだっけ?」
その問いに、マリアは首を傾げながらもすっと答えてくれた。
<<アイルランドの方が私がしたい研究が進んでるからかな>>
「じゃあさ、その研究をすることで将来なりたいものとかあるわけ?」
今度こそマリアは大きく首を傾げた。「別に、」と口篭りながら答えた彼女は少し考えるような素振りをする。頭の中で言葉をまとめているようだった。暫く大人しく待っていたら、私は・と彼女が続けた。
<<将来に繋がるかは分からないけど、今しか出来ないことだから留学したのかな。他にもいっぱいしたいことあるしね>>
「例えば?」
<<んー…。出版社の編集者・ていうのもやってみたいし、ブライダル関係の仕事もしてみたいかなって>>
「ふーん」
やっぱ色々考えてるんだな、なんてぼんやり思う。黙ったままでいたせいか、ルカ?と彼女が呼ぶ。「ごめん!」とすぐに謝って、お茶を濁すように茶化してみた。
「てゆかさ、姉ちゃんはさっさと結婚しちゃえばいいと思うよ。父さんの説得が大変そうだけど」
<<…!ルカ!!>>
「ああ、ごめんごめん。まあいいや、ありがと」
強引に通信を切って一息吐く。あー多分怒ってるだろうな。また謝ろ。
そう思いながらひとつ伸びをして背もたれに思いっきり背を預ける。ギシと椅子が鳴った。
今しか出来ないこと、か。マリアが言っていたその言葉が妙に重く圧し掛かる。出来ないこと、ねぇ。暫く天井を見ながら考える。ならひとつしかないね。無造作に置かれた進路希望の用紙に今浮かんだ答えを書き連ねる。あー多分、呼び出しくらうな、これ。まあ、正直に書いたんだからいっか。嘘より絶対マシ。まだ時間はある。だから、もう少しだけモラトリアムを楽しもう。
END
(20081104)
「なぁルカ。お前、進路希望なんて書いた?」
「ん?“自由人”」