光りおわらない朝の星



「おいおい、そっちは夜中だろう。まだ起きてんのか?」

まだ太陽が空高く昇り切っていない午前中、何の前触れもなく鳴った電話を取れば、ニール兄?と聞き慣れた妹分の声がした。
今日電話がかかってくることは毎年のことだから分かっていたが、こんな朝にかけてくるとは思ってもみなかったので少し驚いた。何てったって向こうは時差から考えると夜中に近い。ノエルはこちらの時間を考慮したのだろうが、俺としては向こうの時間の方が気になるわけで。茶化したように言ってみれば、電話越しながら彼女がムッとした気配を感じた。

『アレルヤが今日遅くなるって言ってたから待ってるんです。もう子どもじゃないからちょっとくらい夜更かししても平気ですよ』
「そうか?兄ちゃんにとってはまだまだお前もアレルヤも子どもなんだけどなあ」

私ももう二十歳過ぎですよ?と苦笑気味に言うノエルに、それでもまだ子どもだと言ってやる。六つも年下で、彼女が生まれたときから知っている俺の方からすれば、ノエルはいつまで経っても子どもで、たとえ血の繋がりはなくとも俺の妹に変わりない。今は遠く離れた地で暮らしているからといって、その気持ちが揺らぐことも薄まることも皆無だ。ちらりとテーブルの上に置かれている小包に視線を移しながら、ニールは言葉を続ける。

「ケーキ届いたよ。ありがとな」
『あ、無事届いたんですね、よかった。朝一に届けてもらうようにしてたから。ちゃんと仲良く食べてくださいね。独り占めは駄目ですよ』
「わかってるよ。つうか俺ももう28だぜ?そんな子ども染みたことしねぇって」
『ニール兄だから心配です』

ニール兄はいつまで経っても子どもみたいなところがあるから・と言うノエルに、そりゃないだろと声を上げて笑った。離れて暮らすようになって三年と少し経つ。一緒にいた頃は毎年誕生日にノエルが作ってくれていたケーキも、離れてからはもう食べられなくなるのかななんて思っていたりもしたが、彼女は毎年手作りケーキをアイルランドまで贈ってくれる。それも毎年微妙に仕様が違っていて、バレンタインの時同様さすがだなと思う。今年はどんなケーキなのだろう。今すぐ開けたい気もするが、それはまだ我慢。夜、食事の後に食べるつもりだから、それまでは楽しみを取っておく。

『本当に他に欲しいものはないんですか?毎年ケーキばっかりだし…』

そんなことを思っていたら、ノエルが申し訳なさそうに言ってきた。彼女が首を傾げながら言う姿が安易に想像出来て、何となく面白くて今度は声を出さずに口元だけで笑う。ケーキと、誕生日を祝ってくれるその気持ちだけで十分だなんて言っても彼女は納得しないから(少しからかってみようかな)。

「だから姪っ子が欲しいって」
『ちょ、ニール兄!それアレルヤにも言ったでしょ!?やめてください!姪以外はないんですか!?』
「じゃあ甥っ子でもいいぜ」
『からかうのもいい加減にしてください!』

俺が冗談で(いや、半分以上、八割九割は本気だけど)言っているのを分かっていながらも(ん?本当に分かってんのか?)、本気で照れてむきになるノエルはやっぱりまだまだ子どもだなと思う。だから可愛いし、からかいがいもあるってもんだけど。
ただちょっとアレルヤも含めて意地悪しすぎたかな、と思いなるべく真剣に取られないように気をつけながら言葉を選ぶ。

「悪い悪い。そういうことは夫婦で決めることだしな。あんま本気にしないでくれ。俺はお前の料理を食べれて、お前達が幸せならそれでいいよ」

平和な世の中で、それぞれの幸せを感じながら生きられたら。これ以上嬉しいことはないよ。穏やかな日々が当たり前になっている今、忘れてはいけないのは数年前までの世界のこと。今の暮らしが幸せで、それが当たり前だと思ってはいけない。大事な人達と一緒にいられる俺達は、とても恵まれているのだから。

『…いつか会わせてあげるように頑張ります。…こればっかりは神様にしか分からないし、頑張ってどうこうできるものではないから、絶対に、て約束はできないけど』
「え?何が?」
『、ニール兄が欲しいって!会いたいって言ったんじゃないですか!!』

ほとんど叫びに近いノエルの言葉に、思わず何のことだと呆けてしまった。絶対、今彼女は顔を真っ赤にしているに違いない。あのノエルからそんな答えが返ってくるとは思ってもみなかったので、ははっと笑いながら伸びた前髪をかき上げる。ありがとな、と声を掛ければ、ニール兄なんてお兄さんじゃなくておじさんって呼ばれればいいんです・と拗ねたように言われた。おいおい、おじさんは勘弁してくれ。俺は三十路過ぎてもお兄さんで通すつもりだ。

「じゃあありがとな。アレルヤにもよろしく」

早く寝ろよ・と、電話を切ろうとしたら、向こうから慌てたような声がする。まだ何かあるのかと尋ねてみれば、肝心なことを言い忘れてました!とノエルは声を弾ませた。

『誕生日、おめでとうございます』

優しく、穏やかに言われたその言葉に、俺は目元を和ませる。いくつになってもその言葉を言われるたびに心は落ち着くし、喜びがこみ上げてくる。きっとそれは、ノエルに言われるから余計そうなのだろうけれど。サンキュ・と、短く、けれど感謝の気持ちはしっかり込めて彼女にこの思いを伝えた。いつか貰えるかもしれないプレゼントに、少し期待をしながら。


END
(20080303)





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