I can do anything as long as you are beside me.
カラン、と音を立てて扉が開く。いらっしゃいませ、と開いた口はそのまま、その扉の向こうに立っていた二人を見て驚きの声を上げた。
「ユリアとリーブ!来てたんだ」
「久しぶり。ちょっと旅行でね。クラウドもいる?」
「今は仕事に出てるけど、2時間くらいしたら帰ってくると思う。入って入って!」
ティファは笑みを浮かべて旧友を招き入れる。そう広いわけではない店のテーブル席は数組の客で賑わっていて、二人はカウンターに通された。座ってメニューを眺めていると、奥から酔っぱらった客がティファを呼ぶ。
「ティファちゃん!ビールのおかわりもらえるかー?」
「はーい、少々おまちください!あ、決まったら呼んでね?」
「うん、忙しい中突然ごめんね」
「大丈夫。お待たせしましたー!」
ティファは忙しなく働いているので、ユリアはリーブと顔を見合わせた。少し、くる時間を間違えてしまっただろうか。閉店1時間前。まだまだ店は閉まる様子がない。カクテルとつまみを注文すると、賑やかな空間で二人、静かに酒と料理を楽しむ。
「美味しいね、これ。どうやって作るんだろう?」
「さっぱりわかりませんねえ…」
「リーブは料理全然しないよね」
「なかなか時間が取れなくて…」
「なんだかんだで定時には帰ってるよね…?」
「…」
他愛のない会話を続ける二人の背中はもう、そうしてふたりでいる方が自然に感じられて、もう何度目かになるテーブルに新しいカクテルを置いたティファは微笑んだ。ようやくひと段落してカウンターへと戻り、皿を洗いながら二人のほうへ目を向けて、思わず持っていた皿をシンクへ落とす。カラン、と音がしてユリアが顔を上げた。
「ティファ、大丈夫?」
「…ユリア、その指、」
「…ああ。うん…実は、今日その話をしようと思ってきたんだよね」
それに驚いていたのか、とユリアが納得したように頷いてそう言うので、ティファは再び拾った皿を落としそうになり、慌てて握り直す。隣の男はいつもと同じように穏やかな表情でユリアを見ていた。
「…ちょっと、いま聞けないけど。閉店してクラウドが戻ってきたらゆっくり、聞くからね!でも…おめでとう」
「うん、ありがとう」
リーブの指が右手に触れる。ユリアがそれに気づいてリーブの方へ視線を向けて、二人で微笑み合うのを、正面から受け止めたティファはばっと音を立てて下を向いた。どこか、見てはいけないものを見ているような、そんな気持ちにさせられる。一瞬見てしまったユリアのどきりとするくらい色気に満ちた視線が、真っ直ぐに隣の男に向けられているのが目に毒だった。
(…クラウド、まだかな…まだよね…)
己の恋人の名前を心で呼んで、さっき自分であと2時間と言ったのだったと思い出す。時計を見れば閉店まであと20分。目の前の二人以外はもうオーダーもストップしてしまったし、先ほどから続々と帰り支度をしている。緩慢な動きで鞄から財布を取り出す常連客たちからお代を受け取って扉を開くと、千鳥足で出てゆく彼らを見送って。閉店5分前にはセブンスヘブンに残ったのはティファとユリアとリーブの3人だった。
「ティファ、お疲れ」
「ありがとう。…改めて、婚約おめでとう、で、いいんだよね?」
「ええ、ありがとうございます」
ユリアの右手の薬指には10カラットはあろうかという大きなダイヤモンドがキラキラと店の照明を反射して光っていた。
「今回はこれを取りにエッジにきたの」
「そうだったんだ…結婚式はどうするの?」
「近々場所を探しに行こうってリーブと話してるところ。まだしばらく先になると思うけど…ティファも、きてくれる?」
「もちろん!楽しみにしてるね」
幸せそうな二人を見ていると、ティファの心も暖かくなるようだった。
ユリアの苦悩は知っているようでいて実はなにも知らないに等しい。ユリアはあまり人に悩み事を話さないし、ティファには想像することしかできなかった。それもあの旅のときのようにいつも一緒にいるわけではなく――1年前のオメガの件以降WROの特殊任務を請け負うようになったというユリアはほとんど本部に駐留していて任務以外であまり外へと出ていないようだった。元々この世界に定まった家を持たない――正確には既に失ってしまった――ユリアなので、やっと定住するようになったことには少し安心していたけれど、同時にあまりエッジに会いに来なくなったことは心配だった。復興が進むにつれWROは軍事組織に変わっていったし、彼女が請け負っているだろう任務はただのモンスター退治などではないだろう。
そして、隣の男についてはユリア以上に何も知らない。4年前でさえ、共に戦ったのは彼ではなく彼の操るぬいぐるみだった。この4年間はリーブ自身との交流もあったけれど、それでもユリアほど親しいわけではない。ただ、デンゼルを可愛がってくれていること、そしてセフィロスのいない平和になったはずのこの世界で誰よりも人の死に近いところにもう4年も立ち続けているということを知っている。
ふたりとも一人でいるにはあまりに不安定な場所に立っている。それはティファとクラウドだって同じだったけれど、日常を取り戻したティファたちと異なり、二人はまだ戦っている。
「WROはまだずっと、続けるんだよね」
「そうですねえ、なかなか世界は落ち着きませんから」
神羅なき世界もいずれは、WROなしにも回るように産業や文化を育てていかなければならない。それを直接的に行っているのがまさにWROで、消えるためにある組織と言っても過言ではないけれど、まだその役目を終えるには時間がかかりそうで。
「…ジュノンもミッドガルも、テロは多いからね」
「いつもそんな任務ばかりで申し訳ありません…」
「まあ、わたしはそういうことをやるためにいるんだし」
リーブの表情には影が差している。きっとこうして二人は共にいることで、その闇に飲み込まれないように必死に戦っているのだろうと、そうティファは思った。
「あ、クラウド、おかえり!」
ティファもまた、ここで生き続ける限り、自分の心に残る痛みと、そして愛する男の中に残る罪と、戦いつづけなければならない。それでもティファは、クラウドが隣にいてくれるならなんだってできると、そう本気で思っている。きっとユリアも同じだろう。