INVITATION

「では、今夜八時」


優しい瞳が細くなる。整えられた髭のうちで、かたちの良い唇が弧をえがく。およそ「上司」ではないその表情の変化に、すべての思考が止まってしまった。





社名ロゴが入ったA4サイズの封筒を五通と、大きなクリップで留められた分厚い報告書を三冊。いつも通りのそれらを課長から受け取り、統括の執務室へ届ける。私の持つ書類は統括の手に渡り、私は彼の姿を目に焼き付けて、一礼して執務室を出る。

週に一度のこの仕事が私の楽しみだった。権力を鼻にかけない姿、物腰の柔らかい立ち居振る舞い、整い洗練された――それは美醜ではなく――佇まい。そのすべてが目を引いて、恋慕と勘違いしそうなほどに憧れた。そんな上司と、たった数分でもやりとりできる。私が浮足立ってしまうのは、女性なら誰でも理解してくれるに違いない。


「ああ、少し待って」


この日は、いつもと違った。私が両手で抱えた書類を右手だけで軽々と受け取った統括は、部屋を出ようとした私を制止させ、キャビネットから白い封筒を差し出したのだ。受け取ったそれは金糸の細やかな模様が入った上質な紙でできており、そして中には、八番街にあるホテルの高級レストランが印字されたチケットが二枚入っていた。


「先日お誕生日だったと聞いたので。当日に渡せなくてすまないね」


眉を下げて、統括は微笑んだ。


「いえ……ありがとうございます。うれしいです」
「良かった」


さて、誰を誘おうか。このような素敵な場所、せっかくならば特別な人と共有したい。しかし友人たちはしばらく忙しいと言っていたし、あいにく恋人もいない。できれば、統括と……贅沢な考えを断ち切るように、かぶりを振った。


「では、今夜八時」


思考が止まる。「直接祝おうと思って渡したんだよ」と、当たり前のようにそう告げる彼は、目の前でフリーズする私を見て、そして微笑んだ。いつも態々課長に直談判してここに来ていることを、部屋を出る前に見つめていることを、憧れてやまないことを、彼に気付かれてしまっているのだろうか。ひやりとした気持ちと、共に食事できる嬉しさで、心がぐちゃぐちゃになる。統括は、どう思っているのだろうか。彼の優しい微笑みからは、私はその真意を読み取ることができない。


「それから、明日は休みだと君の課長から聞いているが、合っているかな」
「はい。あ、え?」
「部屋も取ってある。それは君の気分次第だけれど」


いつもより低くなった、よく通る艶やかな声だった。やわらかくもぴんと張り詰めた空気は、私に「ノー」を言わせてはくれない。そんな外堀の埋め方、あまりにもずるいではありませんか。


社長秘書のみみさんから(?)お誕生日にいただきました。読んだときも思ったんですけどあの….統括の色気がやばくないですか……?すきすきのすき……えっっっちでした……(読むたび語彙力がなくなる)ありがとうございました……