Flower

報告書が出来てリーブさんのオフィスに行くと、忙しそうにキーボードを叩いて、眉間に皴を寄せてモニターと睨めっこしている。



「統括、報告書出来ました」
「あぁ・・・そこに、置いておいてください」



そう言いながら手も、視線もそのままで。
多分忙しくて余裕がないんだと思うけど、ちょっと。
ちょっとだけ寂しいな、って思いながらデスクの端っこの未処理、とタグが張られた棚の下の方に入れた。


視線だけ向けてもそのままで、心の中でため息をついた。


いつもならすぐ報告書を確認してくれたり。少しの間だけお話したり、私と一緒にいる時間を作ってくれるけど、今日は全然キーボードの音も止まらないし、視線はモニターに釘付け。




この部屋に来る時はちょっとだけその時間を期待して来たのだけど。



「(今日はお話も・・・無理かな)」



と思って、邪魔しないように部屋を出て行こうとドアに向かって歩くと、一瞬だけキーボードの音が止まった。




「ナマエ、待って」
「・・・?」



ナマエと、リーブさんが会社で呼ぶ時は「都市開発統括部長」、じゃなくて「リーブさん」の時のリーブさん。

相変わらず手も、視線もそのままだけど呼び止めてくれた事に、さっきまでガッカリしていたけど嬉しくなって。


そっとリーブさんのところまで移動する。
何か難しそうな書類を作っていたけれど、少し待つと書類は出来たのかリーブさんの手が止まった。
私の方に向いてくれてちょっと困った顔をしながら、はにかんでくれる。




「ごめんなさい、ちょっといい所だったので」
「ううん。お疲れ様」




お話出来るだけでとても嬉しいし、ガッカリしてた気持ちだってすぐに何処かに行ってしまう。
リーブさんが笑ってくれたら私も嬉しい。



「ナマエ、報告書ですよね?何処に?」



さっき未処理の棚に入れたので、そこを指さすと椅子ごと反転したリーブさんが未処理の棚から書類を出して報告書を探してくれる。
えーっと、と小さな声で言いながら探してくれてるリーブさんになんとなく、なんとなくだけどくっつきたくなって、椅子越しにリーブさんに手を伸ばした。



「ナマエ?」



椅子越しに後ろからリーブさんを抱きしめて、手は胸のあたりで組むと首だけ振り返ったリーブさんと至近距離で目が合った。
そのまま首動かせて顔をリーブさんの顔に寄せると、リーブさんも首だけ動かせて顔を寄せてくれる。




「どうしました?」
「ううん。ちょっとだけ、こうしてたいの」
「・・・いいですよ、報告書ありました」



会社だからくっつくのは駄目と言われるかと思ったけど、拒否されなくて嬉しくなって。
少しだけ腕に力を入れて抱きしめると片方の手で書類を確認しながら、胸の前で組んでいた手に手を重ねて軽く握ってくれる。




「・・・どう?」
「大丈夫ですよ。書くの上手になりましたね」




最初は報告書を書く事は苦手だったけれど、リーブさんの仕事を増やさないように、リーブさんの報告書を見てなんとなく勉強したのと、コツを教えて貰えた成果。




上手、と言われてまた嬉しくなって。
リーブさんに触れていた顔を少し動かしてリーブさんの顔にすり寄ると、ちょっと髭が頬に当たってちくちくした。


くすぐったかったのか、リーブさんが私の手を握っていてくれた手を頭に伸ばして優しく撫でてくれる。


頭を撫でてくれる手が気持ちよくて、くっついている部分がとても暖かくて安心できる。
褒めて貰えて嬉しい、こうしてくっついてられるのもとても嬉しい。



「よく出来ましたね、サインしますからちょっと椅子動かしますよ」
「うん」



名残惜しいけどリーブさんから手を離して、一歩後ろに下がった。
椅子を反転させたリーブさんは机には向かわず、座ったまま私の方を向く。
サインする、と言ったのにどうして私の方を向いているのだろうと首を傾げたら、はにかんで自分の太股をぽんっ、と音を立てて叩いた。




「どうぞ」




座って、と腕を引かれて一瞬迷ったけど、リーブさんの太股に引かれるまま座った。
恥ずかしかったけどリーブさんが私の腰に手をまわして落ちないようにするから、リーブさんに少しだけもたれ掛かると、デスクに向かうために椅子を回転させた。




「さて、と」




机に報告書を置いて、もう一度確認してくれてるリーブさんの顔を近くで見ながら幸せだな、って思って目を閉じた。




確認し終えたのか、万年筆のキャップを外す音が聞こえて。
ゆっくり目を開けて薄目で報告書を見るとリーブさんがサインしようと報告書に筆を滑らせた。









「あ」
「あ・・・?」








リーブさんの変な声が聞こえて、リーブさんを見ると口を開けたまま固まっているリーブさんが目に入る。
どうしたのだろう、とリーブさんの視線の先の報告書を見ると、上の方に書かれたのは、リーブさんのサインじゃなくて花丸マーク。

しかも割と大き目。




「・・・あ・・・っと」



しまった、と言わんばかりに花丸の上でリーブさんの筆が止まっていた。
ちょっと筆が震えていて、インクが花丸マークの上にぽたりと落ちた。




「・・・折角綺麗に書いたのに」




折角綺麗に描いた報告書に、花丸マーク。
これじゃ他に出せない。




「ご、ごめんなさい。つい、いつもの癖で・・・」




報告書がうまく書けなかった時にリーブさんがコツを教えてくれてた。
でも忙しくてすぐに確認して貰えなかった時は、文章の添削と、いい文章が書けていたら花丸マークをリーブさんは書いてくれていた。


ロースクールの先生がやってくれる、テストの採点みたいに。




「・・・むぅ」




片頬を膨らませると、困った顔をしながらはにかんで「ごめんなさい」とリーブさんが言うから。
そんな可愛く謝られたら怒るに怒れない。
でも、折角書いたのに・・・な。




「ナマエ、ごめんなさい」
「・・・むぅ、ぎゅーってしてくれたら許してあげます」
「・・・いくらでも」




万年筆を置いて両手で抱きしめてくれるリーブさんを私も抱きしめ返すと、私の頭に頬を寄せてくれた。

少し重い、でもこの不思議な感覚がある重みがあると、抱きしめて貰ってる時より何故かもっと安心できる。




「(ま、いっか・・・)」




暫くリーブさんの膝に座ったままぼーっとしていると、リーブさんの携帯が鳴って慌てて花丸が書かれた報告書を持ってオフィスを出た。

改めて見ると、書いてもらった花丸マーク。四重丸で、花弁がいっぱいついてる。
でもちょっと形がいびつで、それがなんだか面白くて。綺麗に折りたたんでポケットにしまった。



お誕生日プレゼントにリシァさんから頂きました、うっ、うれしい……!リシァさんにはすっっごい長文で感想文を送ってしまったのですけれど、実はこのネタはリシァさんとTwitterでお話ししていたネタなんです、それをこんな可愛らしいお話にしていただけてわたしは本当に幸せです……リシァさんの書かれる統括はいつも本当にかわいくて癒されます……これからもたくさん癒されにサイトに通いますね……!ありがとうございました!