The edge of glory


("Arms"のずっと先の未来。本編を読むと分かりやすいかもしれません)


わたしは気づくと、ただ白いだけの場所で汽車を待っていた。
どのようにしてここにきたのか、どうしてわたしが汽車を待っているのか、それらはなにも分からないけれど、わたしがここに至るまでの全てーー生まれてから成長を重ね、デュエルモンスターズに出会ったこと、それらは全て、昨日のことのように鮮明に思い出すことができた。そしてその最期の記憶は、生涯の伴侶とした男性の遺影の前で手を合わせて眠りについたことーーそのまま、此処へ来たというのなら。


「そう、キミはこれからくる汽車に乗って新たな旅立ちを迎えるんだ」


懐かしい、声。
振り向くと、そこにはわたしが生きていた頃に求めて止まなかったその、声。


「ユベル…」
「久しぶりだね。あのヨハンという男が死んでしまってから十代はキミたちの家へ寄り付かなくなってしまったから、君の声もとても懐かしく感じられるよ」


真っ白だった世界に、鮮やかな色彩。愛しい人の色。


「そうねえ、もう10年くらい見てなかったわ」
「こうして再び会えたのだからもう少しくらい話したいものだけど、そんなに時間はないんだ」
「でも、ほんの少しでも見送りにきてくれてうれしいわ」


ーーユベルはわたしの神様だと思い続けてきた。唯一絶対の、何者にも汚されない存在。それは間違いではなかったのだ。目の前に佇むこの美しい精霊をみて確信を得た。気づけばわたしは生涯口にすまいと思っていたことを言葉にしていた。


「わたしはねユベル、ずっとあなたが大好きだったのよ。ヨハンと結ばれてからもずっと…」
「知っている、キミはずっとボクを見ていたね」


ユベルは笑っていた。
わたしも笑った。


わたしの思いはずっと報われていた。そしておそらく、ヨハンのそれも。
わたしたちはいつも、幸福だった。互いの存在によって、十代の存在によって、そしてユベルの存在によって。


「キミは長いときを経てこの世界に再び生を受けるだろう、その時ボクのことはきっと記憶には残らない。十代がボクを忘れてしまったように。でももしまた会うことができたなら、またキミの甘いケーキを十代には内緒で食べたいものだね」


ーーさあ、もうお行き。
ユベルはそう囁くと、どこからきたのかも分からぬ無人の汽車の扉が開く。


「いつでもわたしを訪ねてね。おいしいお菓子をたくさん作って待っているわ」


人とは異なる時を刻む精霊は何度、人の旅立ちを見送るのだろう。彼の生きる途方もない時の流れを思う。人の体が死んでしまっても、それを覚えている人がいる限り本当の意味で死ぬことがないというのなら、この美しい精霊がわたしに微笑む限り、わたしが新しい旅路へと向かっても、わたしの存在は永遠に此処に在る。


ーーー
思春期にみたユベルが与えたわたしへの衝撃はとても大きく、今でも遊戯王GXをみるたび、ユベルの幸福を願わずにはいられません。そして声優の鶴ひろみさんの低く情感のある、そしてどこか艶やかな声がユベルを形作り、それは10年経ったいまもわたしの心に深く残り続けています。そんな美しいひとに、そしてその強い愛情に生命を吹き込んだ鶴さんのご冥福を心よりお祈りします。(11.18.2017)