30




「んー…」

なまえは朝の気配を感じゆっくり目を覚ました。徐々に意識は覚醒していく。
ふと時計を見ると

「!!!じゅ…11時45分?!?!」

思わず隣で弔が寝ているのも忘れ、ガバッと勢いよく起き上がる。

今日は友達と午後お昼ご飯を食べたあと
学校で課題をする約束をしていたのに、
昨夜は思った以上に彼にがっつかれ、何度も身体を重ねているうちに
いつの間にか意識を手放して寝てしまった。



「なに…」


一方突然の睡眠妨害で起こされた当の本人は髪の毛をガシガシと掻きながら不機嫌に尋ねる

「あ、弔ごめんね、起こしちゃった?!
友達と出かける約束してたのに目覚まし忘れてたの」


そう言えばそんなこと言ってたな。
と珍しく大慌てするなまえをぼんやりと見ながら弔は昨夜の記憶を思い出した。

「今から行くの?」

「うん」

このままなまえが予定を諦めて一緒に居られたほうが好都合なのは本音。


元々男でも女でも自分以外の人間のことをなまえが構うのは総じて気に食わないけれど、
あまり他に興味がないなまえが珍しく昔からその友人とやらについてだけはやたら話すので、
なまえが予定を断らないのは分かっていたしそれくらいまぁいいかと許してしまう。

「あんま遅くなるなよ」

「はぁい」

弔はトタトタと軽く足音を立て、風呂場に駆け込みあっという間に身支度を整え出掛けるなまえを見送った。











「なまえちゃん、ちょっと遅れるって」

「ほんとだ」


珍しい。と二人は顔を見合わせた。

寝坊してしまってごめんね。待ち合わせに間に合わないから先にどこかお店入ってて。

という旨のメッセージが来ていたため、
2人は先に入るためのお店を決め、
居場所を送った。




「ほんとごめんね!お待たせして!」
申し訳なさそうに店に着いた途端謝るなまえに

大丈夫だよと伝えながら思わず彼女を見つめてしまう。

寝坊してしまったと連絡したなまえは準備する手間を惜しんだのかいつもより少し化粧っ気がなくて。髪の毛派いつものように綺麗に巻かれてはいなかった。
それでも彼女は同性の自分たちから見ても非の打ち所のない整った顔立ち。






それに、彼女はたまに同い年の自分たちとは比べ物にならない、なんと形容をしていいか分からない色気を纏ってることがあった。






例えば今日みたいに。






メニューを眺める伏し目がちな視線も
悩ましげに口許に添えられた指も唇も余りにも色っぽくて

思わず2人はドキリとしてしまった。




「なぁに?」

見つめられ視線に気づいたのか
不思議な顔をするなまえに二人は慌ててなんでもないよ。と言うと

「そう?」

と首を傾げられた。



注文して運ばれたランチを美味しそうに食べる姿は歳相応だけれど。



何となく、出会ったばかりのことを思い出す。
当時、特定のクラスメイトとつるむわけでもなく、かと言って誰とでも分け隔てなくしていたなまえと仲良くなりたくて。
思い切って2人で話しかけて、遊びに行こうと誘った。

なまえは驚きと戸惑いがを見せながら、それでも着いてきてくれた。

その時から時間が経ち、
最初の頃から比べなまえはよく笑うようになった。
前は強引に自分たちが付き合わせているんじゃないかと不安になったりもしたけれど、

今は一緒にいる時間も増え、こうやって休日に会ったり。ちゃんと3人で友達なんだと感じる。

本当はもっと頼って欲しいし、自身の事をあまり多く語らない彼女のことが知りたいと思うこともあるけれど。




「そう言えばもうすぐ花火大会だね」

お店に貼ってあるポスターにを見つけたなまえ。

「なまえちゃんも誰かと行くの?」

「私?行かない行かない」

「そしたら一緒に行こうよ」

「ふふ、気持ちだけでいいよ。2人のデート邪魔しちゃう」

なまえは2人がこの日友人がダブルデートを楽しみにしているのを知っていて、
わざわざそれについて行くデリカシーのない人間ではなかった。



「なまえちゃん、本当に彼氏いないの?」


当然2人はなまえがよく男性に好かれることを知っていたけれど
今までなまえから彼氏がいるなどの話を聞いたことがない。



「もしかしてなまえちゃん、不倫とかしてて私たちには言えないとか?!」

「ふ、不倫?!ないない!」


なまえちゃんがもしそうだとしても私たちはなまえちゃんの味方だよという2人に
思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「でもなんとなくなまえちゃんは歳上の優しい彼氏が似合いそう」

「わかる、なんか高校生だと釣り合わない気がする」

「しっかりしてるからこそ大人の優しくしてくれる人がいいよね」


段々変な方向に盛り上がる2人を苦笑いしながらもなまえは話を聞き続けた。







「歳上のやさしい彼氏が似合うって」

家に戻り、今日の出来事を弔に話す。



「おー、まさに俺のことだな」


餓鬼にしては話がわかる奴らだと機嫌良さそうに返す弔。

「自分で言うの?」

歳上は確かにそうだけど。


「こんな優しい彼氏、 他にどこにいねェもんな」

「…他の男の人なんていらない」


「知ってる」


けらけら笑う弔に
やっぱり自分はこの人が大好きだし、
花火も海も祭りも別に行かなくていいけれどずっと一緒に傍にいたいなあと
改めて思うなまえだった。