同じクラスのみょうじさんは不思議な人だった。この学校は工業高校のため女子が少ない。そのため、必然的に女子は仲が良くなる。でもみょうじさんはその輪に入らずニコニコと笑いながら見てるだけだった。ただ見てるだけだった。クラスの女子が誘うも申し訳なさそうに断る。いつしか誰にも誘われず、ただ笑ってるだけだった。


「あ!!」
「おい、バカ!!ホームランするなよ!!」
「すみません青根先輩!!」
「大丈夫。」


二口の俺にも謝れよと言う声を聞きながら黄金川が外へ出してしまったボールを取りに行く。扉閉めとけばよかったと思ったが、今更思ったところでボールが外へ出てしまったのは事実だ。今後気を付けないと。そう思いながら転がったボールを見つけ掴むと小さな話し声が聞こえた。


「今日も話せなかったなー」
ニャー
「嫌いじゃないけど、関わるのが怖いんだ。」
ニャーゴ
「うん、どうしたらいいんだろうね。」


体育館の隅で猫と話していたのは同じクラスのみょうじさんだった。猫の頭を撫でながらポツリポツリと呟いていた。


「みんなとってもいい人なのはわかってるんだけど、どうしても一歩が踏み出せないんだ。この一歩を踏み出した事で何かが変わるのはわかってる。けどその変化が私はとっても怖いんだ。」
ニャニャー
「どうしたらいいんだろうね。」


笑顔だけしか見たことのないみょうじさんの悲しい顔は不謹慎だが、とても新鮮だった。俺が言えた事ではないが笑顔以外の顔をするんだなと思ってしまった。


「こんな所でクヨクヨしてもしょうがないよね。明日も頑張ってみる。話聞いてくれてありがとう」
ニャー


猫の頭を撫でお礼を言うみょうじさんの笑顔は教室で見るものとは違い自然な笑顔だった。作った笑顔ではなく自然で彼女にとても合う表情だった。俺はあの彼女の表情をコソコソ見るのではなく、近くで見てみたいと思った。



「おはよー」
「はよー」
「昨日のさー」


朝から話すテレビの話、部活の話、友達の話。それらを聞きながらみょうじさんはニコニコと笑っていた。自分から話しかけるのでもなく、待ってるのでもなくみょうじさんはただ笑っていた。
俺はそんなみょうじさんを見ながらゆっくり近付いた。


「……」
「青根君?」
「……おはよ」


俺が挨拶をするとみょうじさんはキョトンとした顔をしてハッとした途端、少し顔を赤らめて


「おはよう!!」


と昨日見た笑顔を俺に向けてくれた。
クラスの人は俺達の様子を見て不思議そうな顔をしている人もいれば、微笑ましそうに見ている人もいた。


「……誰も逃げない」
「え?」
「だから一歩踏み出せばいい」


みょうじさんは最初何を言われているのか理解できず不思議がっていたが、だんだんと理解していくと瞳に涙を溜めていた。


「俺は逃げない」
「あ、ありがとうございます」


瞳に涙を溜めた彼女の手を緊張しながら握ると想像よりも小さく柔らかな温かい手をしていた。
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