※社会人設定


社会人三年目、ずっとやりたかった企画がようやく通り、そのプロジェクトのリーダーを任された。始めは順調に進んでいたけど、プロジェクトが何とか形になってきたという段階で思わぬハプニングに見舞われた。間違えたのはメンバーの一人だったけど、わたしの確認ミスでもあった。メンバー全員で何日か残業することでフォローできたけど、わたしが気付いていれば避けられたであろうミスに自己嫌悪で落ち込む。
やりたかったプロジェクトができることに舞い上がって、ここまで何事もなくできたことに安心していたのかもしれない。そういう心の隙が今回のミスを引き起こした要因な気がしてならなかった。
はぁ、と重いため息をついてパソコンの前で顔を伏せる。さすがに残業続きで可哀想だったから他のメンバーは帰した。だけど今回のミスで遅れた分、やることはまだまだたくさんある。今日も日付が変わるまでに帰れそうになくて、頭が痛い。もう一度ため息をこぼしたその時。

「あれ、まだいたんだ?」

一人きりのはずのフロアに響いた声に顔を上げると、入口によく知る人が立っていた。

「茂庭?」
「こんなに遅くまで残ってて大丈夫?」

心配そうな顔をして近づいてきたのは同期の茂庭。帰りたいのは山々だけど、これが終わらない以上帰れないので曖昧に笑って誤魔化す。

「まだ仕事残ってるんだ。茂庭こそ、こんな時間までどうしたの?」
「最近機械が不調でさ。いろいろと点検してる最中なんだ」

そう困ったように笑う。企画部署のわたしと技術部署の茂庭では仕事上で顔を合わせることは少ない。だけど数少ない同期ということで飲み会なんかでは何度か顔を合わせていてそれなりに仲はいい。そして、その茂庭も最近、ある作業班のリーダーを任されたと人づてに聞いた。

「これから休憩しようと思ってたんだけど、よかったらみょうじもどう?」

人好きのする顔で笑った茂庭の提案に一瞬考える。確かにそろそろ疲れて集中力も落ちてきているし、ここで休憩するのはいいかもしれない。そう思って、こくりと頷いた。



会社の一角に設けられた休憩所はいくつかの自動販売機とソファが置いてあるだけの簡素なものだ。ソファに座って眠気覚ましのためのブラックコーヒーを飲むわたしとは反対に、茂庭はカフェオレを片手に立っていた。

「そういえば班のリーダー任されたんだってね。おめでと!」
「あ、知ってたんだ。なんか恥ずかしいな・・・でも、ありがとう。俺なんかまだまだだけどせっかく任されたし、みょうじみたいに頑張れたらなって思ってるよ」

そうはにかむように笑う茂庭がなんだかとてもきらきらしているように見えて、現状の自分との差を突きつけられた気がした。

「わたしなんか、全然ダメだよ」

ポツリ、と言葉が落ちる。

「今日だってミスしたフォローのための残業だし。茂庭にそう言ってもらえるような頑張りなんて全然できてない」

思わず、泣き言が零れた。ずっとやりたかった企画で、リーダーを任せてもらえて嬉しい半面、責任の重さも感じていた。わたしにできるだろうかという不安。心配や焦り、恐れ。そういうもの全部を見ない振りして今まで走ってきたけど、一度止まるとそういう感情がどんどん溢れてくる。最近はそれらの感情にゆっくりと首を絞められていくような気がしていた。

「どうして、うまくいかないんだろう」

静まり返った休憩所にわたしの弱音が響いた。一瞬の沈黙のあと、みょうじ、と茂庭がわたしの名前を呼ぶ。そうして、ソファに座るわたしの前に膝をついて真正面から顔をのぞき込まれる。

「みょうじは頑張ってるよ。この企画、ずっとやりたかったんだろ。なかなか企画書が通らなくても諦めなかったのを知ってる。俺は、そうやって誰よりもまっすぐに仕事に打ち込むみょうじに何度だって励まされた。だからさ、みょうじ自身がそんなこと言うなよ」

そう言って、いつの間にか目尻に溜まっていた涙を指でそっと拭ってくれる。

「大丈夫。みょうじならきっとできるよ」

そう優しく微笑む茂庭にまた涙腺が緩みそうになった。だけど、ここで泣き出すのは憚られ、ぐっとこらえて小さく笑う。

「・・・ありがとう」

仕事が大変で、泣き言ばかり言いたくなる。だけど、わたしがずっとやりたかった企画だ。どんな困難があったって、諦めないで頑張ろう。大丈夫だと、わたしならできると言ってくれた茂庭に恥じないような自分でいたいと思った。
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