夏、インターハイ。伊達の鉄壁という異名を持つ俺達伊達工業高校は、落ちた強豪と呼ばれていた烏野高校に敗れた。インターハイ後、引退を決めていた先輩達にとって高校生活最後の試合だった。先輩らは悔しそうにしていたけど、最後には笑ってお前らが俺達の希望だと当時レギュラーメンバーだった俺と青根の肩を叩いた。解散してから、先輩とするバレーはもうないのだ、今日が最後だと実感して一人ロッカールームで泣いた。あんなに憎まれ口を叩いていた自分が、だ。なんだかんだ彼らとするバレーが楽しかったんだろう。

ガチャリ、

そう感傷に浸っているとロッカールームのドアが開く。こんなボロボロな姿を見られたくなくて解散した後に一人残ったのに、この感傷を邪魔するのは誰だ、とチラリと盗み見するようにドアの方へ目線をやると驚いた顔をした三年生のマネージャーがそこに立っていた。慌てて涙を首に掛けたタオルで拭くと、とっくに帰ったと思ったのに、何やってんスか、と声を掛けた。近付いて来る彼女の足元から目線を外し、上に滑らした瞬間、視界に白が広がり、甘い香りが鼻腔をくすぐる。一瞬何が起こったか理解できなかった。しかしすぐに目の前の白が我らが伊達工のジャージで彼女に抱き締められていることを悟った。

「我慢しなくていいよ、」

上から彼女の声が降ってくる。感傷的になっていた自分にとってこの言葉が心にストンと落ちてきて止めていた涙がポロポロと零れ落ちた。あぁ、格好悪い。

私が零れ落ちる前に受け止めるから。何格好良いこと言ってんスか、男の俺よりも男前ッスね、

それが少しだけ心を落ち着かせてくれてちょっと笑えた、けど。抱き締めてくれた肩が震えていてさっきよりも強く抱いた。



三月、それぞれ大学進学や就職をし、別の道を進む先輩達が卒業するときに言った言葉は今でも残っている。

「私達の英雄になってね、」


四月、最終学年となり、茂庭さんの後を継いで主将となった。そこから月日は早く、あっという間だった。忙しくて、先輩達に会うことも大学へ進学したマネージャーの先輩にも卒業以外何もなく、連絡を取ることもなかった。





ピーッ、試合の終了を告げる笛が体育館に響いた。その瞬間壁が崩れたような気がした。今まで先輩と築いてきた鉄壁、先輩達から引き継いだ壁が。今年こそ先輩達の無念を晴らしたかった、それは叶わず、終わってしまった。主将として情けなくて、三年間一緒に頑張ってきた青根も後輩達も心配そうな顔をしていたけど、少し一人にしてくれと断って体育館の外へ出た。人目にあまりつかなさそうな場所を見つけて背を壁に預けた。三年間の記憶が走馬灯のように駆け巡っていった。そのどのシーンにもマネージャーの先輩がいた。重そうなドリンクを一人で運ぶ姿、先輩達と楽しそうに話している姿、試合に勝利して選手よりも喜ぶ姿、最後の試合後に肩を震わせて涙していた姿。全てが蘇ってきて全然連絡も取らなかったし、会おうともしなかったのに何故だか無性に会いたいと思う。いろんな思い出が脳裏に戻ってきたのと高校生活最後の試合が終わってしまったことが相まって涙が溢れ出す。顔を覆った手から雫が零れ出して、コンクリートに染みを作った。

手から零れ落ちた涙を拾ってくれる人はもういない。


壁は崩れて、俺達の高校生活最後の試合は終わってしまったけど。

ねぇ、先輩、俺はヒーローになれましたか?
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