ダイヤモンドのネックレスに夜空に煌く星々に眩しいほどのシャンデリア。この世に存在するきれいなものは、きっとすべて、キラキラと光っている。
部活が休みの日曜日。わたしの部屋でのんびり話をしたり課題をやったり、そんな時間を過ごしてどれくらいが経過しただろう。「先輩」と、少し緊張したような表情した青根が、わたしを呼んだ。わたしとしては、そろそろ先輩、ではなく、なまえと呼んでほしいのだけれど、青根はなかなかわたしを名前で呼んでくれない。付き合い始めてもう何か月が経つと思っているんだろう。まあ、そういうところがすごく青根らしくて、好きなのだけれど。そう思いながら、わたしは青根に「どうしたの」と返す。青根は困ったような焦ったような表情を浮かべて、ただわたしをじっと見つめていた。ぎゅっと握りこぶしを作って、彼はそれを膝の上に置いている。青根の目線はあっちへこっちへと泳いでいる。そんなに緊張しなくても、と思いながら、青根の可愛らしさについ笑ってしまいそうになる。けれど、笑ってしまっては、見た目よりもずっと繊細でずっと優しい青根は傷ついてしまうかもしれないから、わたしは笑う代わりに、彼の手にそっと自分の手を重ねた。少し冷たい手からも、青根が緊張していることが伝わってくる。「青根」そう呼ぶと、青根がほっとしたような顔をする。その顔がとても可愛らしくて、とても眩しい。そっと瞳を閉じると、「先輩」とわたしを呼んだ青根が近付いてくる気配がある。汗ばんだ手のひらがわたしの頬に触れる。いつも力強くバレーボールを弾くその手は、とても硬くて、けれどとても優しい。その手を心地よく思っていれば、かさつく唇がそっとわたしの唇に触れる。遠慮するように触れた唇はあっという間に離れて行く。閉じた時のようにそっと瞳を開けば、顔を赤くした青根が目の前にいる。わたしと目が合うと、青根はまた視線を泳がせる。わたしの頬に触れていたその手で、口元にそっと触れながら。無意識なのだろうか、その一連の動作がひどく愛しくて仕方ない。目の前の青根はキラキラと輝いて見える。わたしは彼ほど眩しく輝く男子高校生をほかに知らない。
「青根はいつも、眩しいね」
青根は、わたしのその言葉に頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。青根はいつだって、眩しい。キラキラと輝いて見える。バレーボールをしているときも、廊下ですれ違った時も、茂庭たちといる時も、もちろん、今だって。純粋なところが、まっすぐな性格が、努力する姿が、仲間を思う態度が、私を想う気持ちが、すべてが眩しい。身長と表情、少ない口数のせいで誤解されやすいけれど、青根はとても素敵な青年だ。優しさの塊だ。きっと多くの人は知らない。青根の手が、わたしに触れたいと思っている彼の表情が、とても優しくて柔らかいことを。勿体ないなあと思いながらも、こういう青根を知っているのは、わたしと、バレー部のみんなだけでいいかなという気になる。そう思うわたしはきっと、青根のようにきれいな心をしていないのだろう。青根は、内面がとてもきれいだからだろうか、わたしには、青根はいつだってキラキラと輝いているように見える。眩しいくらいに。此の世に存在するきれいなものは、きっとすべてキラキラと光っている。イヤモンドのネックレスに夜空に煌く星々に眩しいほどのシャンデリア。それに、青根も。
「眩しい?」
「うん。眩しい。キラキラ光ってすごくきれい」
わたしの言っていることがよくわらかないのだろう青根が、首を傾げる。大きな体をしているのに、こういうところがすごく可愛らしいのはとても卑怯だと思う。そういうところも、とても眩しくて、とても好きだ。首を右のほうに傾けている青根の髪に触れる。短い髪の感触を楽しむように、わたしは撫でる。青根は頬をほんの少し赤く染めて、けれど、わたしの手を払いのけたりはしない。眩しくて、愛しくて、目を細めてしまう。
「先輩」
わたしに撫でられながら、青根がわたしを呼ぶ。いつか名前で呼んでくれるようになるかなあと思いながら「なあに青根」と返せば、青根がわたしの頭にそっと手を伸ばしてきた。青根の頭に手を伸ばしているわたしと、わたしの頭に手を伸ばしている青根。傍から見たら奇妙な光景に見えるだろう。青根は、大きな手でわたしの頭をそっと撫でる。心地よさにうっとりとしてしまいそうになるわたしを見て、青根が目を細めた。
「…先輩のほうが、ずっと綺麗で、ずっと眩しい」
低い声が、わたしの鼓膜を揺らしていく。わたしは青根みたいにきれいじゃないよと返したいのに、青根の低い声がとても優しいから、わたしは何も言えなくなる。ダイヤモンドのネックレスに夜空に煌く星々に眩しいほどのシャンデリアに、それに、青根。この世に存在するきれいなものは、きっとすべて、キラキラと光っている。青根にとってのわたしも、そうなのだろうか。わたしにとっての青根がそうであるように。そうであるのなら、いい。わたしはそっと青根の胸に顔を埋める。動揺したような声が上から聞こえてきたけれど、青根はちゃんとわたしの体を抱き締めてくれた。
title.エナメル
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