ドキドキと緊張で高鳴る胸を抑えながら、観客席のあるスタンドに向かう。心なしかいつもより歩調が早い気がするのは勘違いかな…?でもきっと違うよね。受け付けで渡されたプログラムには参加校の一覧と選手の名前が載っていて、思わず見かけたその名前にピンクのマーカーでラインを引けば、目敏く見つけた友達に笑われた。
「ああ、愛しの王子様だっけ?」
「もうっ、からかわないで!」
「いやだってこれはもうからかわずして、どうするの?何その少女漫画的展開な馴れ初め」
ってかネタでしょ?なんてけらけらと笑って、しまいには涙まで笑いすぎて浮かんでいる友達にむっと頬を膨らましつつ、確かに少女漫画みたいだったなぁとは冷静になってみると思う。幼なじみの試合を見に来て他校生に絡まれているところを助けてもらい、そして去っていった後に落ちている生徒手帳を拾って届けるとか、ほんとに何この展開って友達に思われても仕方ないんだけど、好きでそんな展開にしたわけじゃないし、ときめかずにはいられなかったんだもん。
「あんだけ男前な幼なじみがいるってのに幼なじみにはときめかないで、他所の男にときめくとはね」
「幼なじみは幼なじみなんですぅー!わたしにとっては作並くんが一番かっこいいの!もうっ」
しかも他所の男って言い方ひどいっと言えば、やっぱりけらけらと笑ってまあまあなんて宥めてくる友達に自分が言ったくせにと思ったわたしは悪くないはずで。インターハイ予選とはまた違って、たくさんの人が県予選の大会に来ているのを見ると春高ってやっぱりすごいんだなと、どこか漠然と思った。正直バレーは授業で軽く習ったくらいだし実際にこんなに激しいプレーをしたことのないわたしからしたら、何がそんなにみんなを突き動かすのか分からないけど、きっとわたしが音楽に向けるものと似ているんだろうなぁなんて、偉そうなことは言えないけど試合を見ていくうちに思った。
でも、でもね、まさか作並くんのいる伊達工と幼なじみのいる青城が対戦するなんて思わなかった。いや勝ち上がっていけば何れはぶつかるだろうとは思っていたけど、まさかこんなに早くぶつかるなんて、誰が思うだろうか。こんな展開になるなんて予想外過ぎて思わず息をするのを忘れそうになった。
「ね、やばくない?あんたどっち応援するの?」
「ううっ、それは、やっぱり……」
「やっぱりってことはあれ、幼なじみ?」
「……ううん、作並くんかな」
「へえ、意外…なまえのことだから今まで応援してた幼なじみだと思ってた」
「はじめくんは幼なじみだけど、作並くんは好きな人だもん。大した関わりないけど、やっぱり好きな人を応援したいと思うでしょ?」
確かにわたしは幼なじみをずっと応援して来たしこれからもするつもりではあるけれど、それはあくまでも幼なじみだからであってそこに他意はない。だってわたしが好きなのは作並くんで、幼なじみのはじめくんじゃない。いや好きなのは好きだけどそれは幼なじみとしてでもっと言うなら頼りになるお兄ちゃんみたいという意味の好きで、だから作並くんに向ける好意とはちょっと違う。いつもは青城の近くで応援してるけど今日は伊達工の近くに座ってる。
はじめくんは気付いたかな?気付いてるよね、だって微妙な顔してるもん。そんなわたしをちらりと見つつもすぐに真剣な顔つきでボールを睨むはじめくんは確かに友達の言うように男前だと思うしかっこいい。でも作並くんだってはじめくんに負けず劣らずかっこいいとわたしは思う。
二セット目が始まった。一セット目は青城が勝ち取ったからこのセットを落とすと伊達工は春高予選敗退になる。だから個人的な意見を言えばこのセット勝ってほしい…でもはじめくんたちのいる青城がそう簡単に勝たせてくれないだろうな。
「ねぇ、なまえ的にこの試合どう思う?」
「え?あ、えーっと、チームの団結力っていうのかな…まとまり具合で行くと青城の方が格段に上。伊達工は二年生主体になってからたぶん、日が浅いんだと思う。だからこうチーム全体にちょっと抜けがあるんじゃないかな」
「流石、幼なじみがバレー部エースなだけあるわ。説得力がある」
「そんな大袈裟な……でも、わたし個人的な意見を言わせてもらえるなら伊達工に勝ってほしいなぁって思う。でも勝負の世界は強い方が勝つし、勝った方が強い。だから勝負の行方は最後まで分からない」
番狂わせがあるかもしれないし、と付け足すと苦笑いされた。でも本当に分からないと思う。インターハイ予選の時の烏野が良い例だと思うし、もし今は弱くても来年は今より強く、そしてチーム力も上がってるはず。
「作並くん、ナイスレシーブ!」
「あんなに小柄なのにすごいわ。ってか、めっちゃ痛そう」
「作並くんはリベロだもん。リベロってね、レシーブ専門の選手だからきっといっぱい練習したんだよ」
「へぇ、なまえじゃ腕の骨折れてるね」
笑えないことを笑顔で言う友達に苦笑いしながら試合に集中する。手に汗握りながら見ていた試合もはじめくんがブロックのど真ん中を打ち抜いて二セット目が終了した。途中、作並くんがレシーブしたボールを黄金川くんという背の高い男の子がツーアタックの強打で得点したり、二口さんって主将さんがアタックしたりと奮闘していたから、二セット目は伊達工が取るのかなと思ってたけど…やっぱりはじめくんのいる青城は強い。強くて一筋縄ではいかないみたいだ。
一列に並んだ選手のありがとうございましたの言葉の時に不意に作並くんと目が合った気がしてあたふたしたのは言うまでもなく、友達に終始笑われていた。
次の試合まで少し時間があるからと飲み物を買いに行くことにした。途中で作並くんに会えたらいいなぁなんて思う。そんな数分前の暢気なわたしを今は呪いたいくらいの心境だ。
「あの、さっきは応援ありがとうございました」
「っえ、あ、えっと……」
「すごく力になりました。試合は負けたし、満足の行くプレーは出来なかったけど、でも君の声援のおかげで励まされたからお礼を言いたくて…まだ残っていて良かった」
「っ〜、あの!わたしも前に、えっとインターハイ予選の時に助けてもらって、それで…」
「覚えてるよ。生徒手帳届けてくれたみょうじさんでしょう?」
「お、おぼえて…!?」
「うん、印象深かったし…みょうじさんの所の制服は目立つから」
クスクス笑う作並くんはやっぱりかっこよくて、きゅんとときめいてしまった。最初は不意打ちなんてと思ってたけど、飲み物買いに席を立って良かった!
「僕も飲み物買いに来たんだ。偶然だったけど会えて良かったよ」
またねとスポーツドリンクを買った作並くんが振り向き様にそう言って歩き出す。うー、あー、どうしよう。ここで別れたら次にいつ会えるか分からないし、そもそもそんな頻繁に会うような仲でもなければ、また会ってくれるかも分からない。
「さっ、作並くんっ!」
思った以上に声が響き、なんだなんだとこの場にいる人の視線が刺さる。申し訳なさすぎて視線が下がる。俯けた視界に影が入り、ふと見上げると作並くんが小首を傾げてどうしたの?と聞いてくる。これをはじめくんがやっても同じようにときめいたりはしないんだろうな、なんて思うくらいにはわたしの思考はちょっと混乱しているらしいです。
「あ、あの…」
「うん、なあに?」
「えっ、と……す、すきです」
「え?」
「さくなみくんが、すきです」
「え、ぼく?二口さんとかじゃなくて?」
こくこくと頷くわたしに視線を泳がせる作並くんにあり得ないほど心臓がドキドキして、なんか身体全体が心臓にでもなったような気分で、顔もなんか熱いし視界も潤んできているのか滲んで見える。もう恥ずかしさでどうにかなりそうだ。
ずっと黙ったままの作並くんが動くのが雰囲気で伝わって、持ち上げた視界に作並くんが映る。
「えっと、僕でよければ…よろしくお願いします」
照れたようにはにかむ作並くんに詰めていた息を吐く。緊張で真っ白になった握り締めていた手をほどくと微かに震えていた。どれだけ緊張してたんだろう、わたし。
「あ、みょうじさん、何か書くものある?」
「え?あ、えーと生徒手帳なら!」
「じゃあちょっと借りるね」
さらさらとわたしの生徒手帳に何かを書く作並くんをじっと見つめているとはいと手渡される。その手渡された自分の生徒手帳を見るとそこには作並くんの字で携帯のアドレスと番号、そして名前が書かれていた。
「お財布しか持ってきてなかったから、携帯、今持ってないんだ。みょうじさんのも教えてくれる?」
「え、はい…!」
作並くんの生徒手帳に自分の名前フルネームとアドレス、番号を書いて差し出せば、笑顔でありがとうと言われた。たったそれだけでわたしはもう満足で、この生徒手帳はきっと一生の宝物になること間違いなし!そして絶対に捨てられない。
「それじゃあ、僕はもう行くね。先輩や監督たちが待ってるし、反省会とか次の大会に向けて練習しなくちゃいけないし」
「うん…あの、今日はお疲れさまでした。作並くん、すごくかっこよかった」
「え、ありがとう。あとでメールするよ。それじゃあ今度こそまたね」
ひらひらと手を振って去って行く作並くんを見送ってわたしも飲み物片手に友達が待つ観客席に向かった。わたしもあとで作並くんにメールしようかな。
君の名前にアンダーライン
(生徒手帳に作並くんの名前があるだけでドキドキする。お気に入りのピンクのマーカーでラインを引いてみたら、さらにドキドキした)
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