幼馴染みも長年やっていると会うための口実なんていらないくらい一緒にいるのが当たり前になってしまうけれど、当たり前になってしまったからこそその先に一歩踏み出すことは普通よりも難しくなってしまうと私は思っている。少なくとも私はそうだ。

土曜日の夕方。
バイトが終わって家に帰るとジャージ姿の靖志がリビングのソファーに座ってテレビを見ていた。
「なんで靖志いんの?」
「おー、バイトお疲れ」
「なんでいんの?お母さんは?」
「うちの親とおじさんおばさん、飯食い行くらしい。お前、鍵忘れてったのに連絡しても電話でねぇし、既読もつかないから俺が留守番してた。」
「あー、そーいうこと。」

鞄に入れっぱなしの携帯にはたくさんの着信とメッセージ。テーブルの上には二人分の食器と、台所からはカレーの匂いがする。
きっと母親がご飯食べてきなって言ったんだろうな。私は「着替えてくるわ」と声をかけて身支度をしてまたリビングへ戻った。
大して面白くもなさそうな特番の再放送を見ていた靖志は戻ってきた私に「お茶取って」なんでまるで自分の自宅かのようにリラックスしながら声をかけてきた。

「なあ、どっち見る?」
借りてきてたやつ持ってきてやったぞ、と2本のDVDを差し出した。
1本は靖志の好きなバラエティ番組で、もう1本は私が結構前に見たいと騒いでいた恋愛映画。
一緒に行こうと誘ったのに恥ずかしいからと断ったのは靖志だった。

勿論こっち、と恋愛映画を指さすとため息混じりに「だろうなと思った」といってDVDをセッティングしだした。なんだよ、手馴れてんなっておもったけど、その手際の良さは一緒にいた時間の長さの証拠だ。

「コレどんな話?」
「んー?幼馴染みがね、結婚するまでの話。
結婚するまでがえぐいらしいけどね。」

"幼馴染みが結婚"

その言葉に反応してくれないかな。なんか察してくれないかな?ねえ、うちらも幼馴染みだよ?そんな期待を込めた目で見てもこの筋肉バカは始まったばかりの映画に夢中だ。最も内容よりも、綺麗な外国人の女優さんに夢中なんだろうけど。

映画の中の幼なじみはどんどんすれ違っていく。面白いほどに。
でもそのすれ違いを笑っていられる心の余裕は私にはなかった。
生まれてすぐから中学生まで、毎日毎日苦労しなくても顔を合わせることが出来た。
いくらバレーに夢中になっても、朝が来れば学校であえた。
だけど別々の高校に進学したら会うことは簡単なことではなくなった。
高校を卒業しちゃったらどうなるんだろう。きっと靖志は就職するよね。働いてもバレーするのかな?
そしたら今よりもっと会うのは難しくなる。
こうやって少しずつ少しずつすれ違っていくのかな。映画のふたりのように。映画の中だから最後に2人は結ばれるんだろうけど、実際ここまですれ違ってしまったら再び交わる事って現実的じゃないよね。

帰ったら家にいて、二人分のお茶を持って、当たり前のようにぴったりと横に座ることが出来るのに、私たちの関係は恋人ではない。
見たかったはずの映画は私の気分をひどく落ち込ませた。

靖志は既に興味を無くして隣で携帯を弄っている。
「飽きたー?」
「良く分かんねぇ。」
「バカだもんね。」
「うるせェよ、お前だって大した頭じゃねぇべ。」
「靖志よりは頭いいよ。」

こんな軽口が言える関係が、当たり前じゃなくなるのかな。この2人のようにすれ違って、いつかお互い別々の人と付き合ったりするのかな。嫌だな。

「私がさー、この子みたいにほかの男と結婚したらさ、」
「しねーよ。」
「は?私モテる女だよ?」
「ほんとにモテる奴は自分からモテるとか言わねぇ。」
「分かんないじゃん。」
「お前なぁ、」

そう言って靖志は大きなため息を一つついた。

「だいたい、見たくもない映画借りてくるかよ。
お前が見たいって言ってから借りてきてたんだろ?」

俺はコイツみたいに意気地無しじゃねェ。
少しは察しろよバーカ。
そういった靖志の顔をマジマジと見つめた。この男は何を言ってるのだろうか。意味がわからない。意気地無しじゃないとかいいつつ、私肝心な台詞を聞いていない気がする。
だけど察しが悪かったのは私の方で、新しい2人の関係は映画が始まるより前に始まってたんだって今やっとわかったよ。
だけど私の口から出たのは「バカって何よ、一言多いんだけど!」だった。

素直じゃなくてごめん。でも靖志が「好き」って言ってくれさえすれば、映画の2人みたくまわり道をしないでゴールに向かって行けるって思うんだけど、言ってくれないかな。
この映画が終わるまでに言ってくれなかったら、私が言うから。残り1時間、期待させて。

back
ALICE+