後1分、…後、30秒。
午前の授業の終了の鐘がなる。12時45分、私は財布とスマホを持って急いで教室を出る。学食と購買は戦いだ。しかも、工業高校なのでほぼ男子しかいないなかで女子が食堂に入るとなるときっと、押し潰される…!
何故私が普段行かない食堂に行くのかというと、弁当を忘れたのだ。いつもはクラスで2、3人しかいない女子と色んな事を話しながら食べる。教科書とか、宿題よりも大事な物なのに(私にとっては)。どうしよう。そんな事を考えながら食堂についたらもう人がそれは通勤ラッシュのときの電車のように沢山いて、これはもう購買でパンを買うしかない。とはいっても、購買も食堂並に混んでいるんだけど。
「…あの、すみませ、」
メロンパンと、サンドイッチ一つ。私の声は他の男子の声によってかき消された。もう終わりだ。
「メロンパンとサンドイッチ2つずつ」
後ろから声が聞こえる。欲しかったパンがなくなってしまった。諦めよう、せめて自販機で飲み物買って帰ろう。悲鳴を上げるお腹を抑えて教室に戻ろうとするとみょうじ、と呼ばれる。
「二口…?」
「背が低いのと声が小さいのって不便〜?」
「う、うるさいなあ!気にしてるんだから…」
はい、と二口が私にビニール袋を差し出してくる。え?と、ぽかんとしていると食べないの?と二口は不思議そうな顔でこっちを見つめる。
「それ私の分なの?」
「うん。何か朝に、女子に言ってたじゃん。弁当忘れたから先に食べててって」
「聞こえてたの…」
「まあ。みょうじの声わかりやすいし。ほら」
「あ、ありがとう。えと、お金払うからちょっとまって」
「えーいいよ。320円は」
「いや、でも申し訳ないじゃん…」
320円って結構高い方だと思うケド。そう口には出さないもののうーんと悩んでいる二口をみているとそれじゃあ、と口を開く。
「俺と一緒に食べよ」
「…それだけでいいの?」
「うん」
今日は二口と食べる事になった事をlineのグループで伝えると青春か〜と送られてきた後怒りのスタンプが大量に送られてきた。ブブブ、となるスマホを制服のポケットの中に入れて二口と中庭でパンを食べる。
「あー、やっぱ足りない。腹減る」
既にサンドイッチを食べ終わっていた二口が言う。
「ひとつ上げるよ」
「平気。それみょうじのだし」
「もともと二口のお金で買ったでしょ。あ、でもちょっと食べちゃった、それでも構わないなら」
「…サンキュ」
メロンパンを差し出すとそれを美味しそうに頬張る。食べるの早い、喉につまらないのかなあ。
「二口もいつもお弁当じゃなかった?」
「あー…忘れた」
「あはは、一緒だね」
そうだなと二口も笑う。間近で二口を見るのは初めてかもしれない。案外素直に笑う二口を見て可愛いなと思ってしまう。身長は高いけど、こういう所は普通の男子高校生なんだ。
「一緒に食べてる人はいいの?」
「ん?」
「あの、背の高くて、…。二口も高いけど」
「あー青根?連絡しといたよ」
「そっかぁ」
全然会話が繋がらない。元々小学校の時から男子と絡む方ではなかったので二人きりで不安だったけど、何だか会話が繋がらなくても落ち着くというか。
「ごちそうさま」
「早いね」
「いや、みょうじが遅いだけだろ」
「ごめん、先戻っててもいいよ」
「…待ってるよ。誘ったの俺だし」
「ありがと…?」
疑問系でお礼を言うとみょうじってそんな奴だっけ?と二口は言う。今更だけど、この人めちゃくちゃ顔が整ってる。俗に言うイケメンだ。こんな人と一緒に昼ご飯食べてたとか何か言われそう。
「お腹いっぱい」
「食ったか?」
「うん。ありがとう二口」
「…どーいたしまして」
サンドイッチだけでもお腹いっぱいになる。あれ、サンドイッチだけ…?確かメロンパンもあったはず。そこで気づく、もしかして間接キ、キス。
「あああごめんなさい、私、二口の初めてを」
「はあ!?何言ってんの?ていうかその言い方危ないからやめろ!」
「間接、キス…!」
「……みょうじ」
焦っている私の肩を掴む二口。やばい顔近い。俯くとちょっと、と今度は頬に手が移動してきて強制的に二口と顔を合わせることになる。
「う、」
「お、俺は…別に嫌じゃない、けど」
「…え?」
「む、むしろ嬉しいし」
"出来たこと。"一瞬主語がなくて意味がわからなかったけど、二口が言ってるのは恐らく間接キスの事だろう。私も二口も顔が真っ赤だ。私も、嬉しかった、そんな事を呟いた直後で昼休み終了の鐘が鳴る。週明けの月曜日の授業前、二口は、目を細めて笑った。
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