窓から差し込む放課後の日射しは、私が今いる埃っぽい資料室を僅かに明るく照らした。
ふよふよと微かに埃が舞っているのが見える。


私と茂庭くんは、たまたま「日直」という理由だけで資料作りを手伝え!と担任に言われて、ここ、資料室にいる。
なんて理不尽な理由なんだ、とも思ったけど、私は茂庭くんに好意を抱いているので、この時だけは担任に感謝したのは私だけの秘密だ。


資料室の机の上には授業で使う資料の紙が五種類、綺麗に並べられている。
それを一枚ずつ重ね取り、トントンと両端を揃えたのを確認してから目の前にいる茂庭くんに渡す。彼は受け取って端の方にぱちんとホチキスの音を立てて出来た資料をどんどん重ねていった。
最初のうちはクラスの事を話したりもしたけど、話しのネタが尽きてしまって今はお互い黙ったままで、資料を揃える音とホチキスの音しか響いていない。

綺麗に資料を重ねている茂庭くんを見て、きっちりしているなあ、とぼんやりと考えながら両端を揃えていたのが悪かったんだと思う。

ちりっ、と小さく鈍い痛みが走ったのはほんの一瞬。
痛みが走った部分を見れば、赤く滲んだ一本の線。紙で切ってしまった。

「いった、」
「どうした?」

私の漏れた呟きが二人しかいない資料室ではやけに大きく響いて、同様に茂庭くんが気にかけてくれた声も大きく響く。
心配をかけさせるわけにはいかないと思いながらも、不思議そうにこちらを見てくる茂庭くんの視線に耐えきれずに小さく「両端揃えてたら紙で切っちゃって」と零せば不思議そうにしていた顔が驚きのものに変わっていく。

「大丈夫か?!」
「た、大した事ないよ。ちょっと切っちゃっただけだから」
「でも結構血出てるじゃないか…!ちょっと待って、」

茂庭くんは自分のカバンをガサガサと漁り、ティッシュと絆創膏を一枚持って私の隣に移動してくる。私の隣にあったイスに茂庭くんは腰掛けた。
私の手を取り、血が出ている部分にティッシュを当てて血を拭ってくれる。触れている男らしいごつごつした手に、少しだけ動悸が早くなるのを感じた。

「…なんかごめんね。手間掛けちゃって」
「こんなの手間に入らないって。うちのバレー部で慣れっこだし」

ポツンと零された彼の言葉に意図が読めなくて首を傾げていれば、苦笑いをしながら「直ぐケンカばっかりでさ。怪我が絶えないんだ」と説明してくれる。なるほど、誰が怪我しても良いように絆創膏持ってるって事なのかな。

話しをしてくれて一人で納得している間にも茂庭くんは私の指に綺麗に絆創膏を巻いてくれた。手当てし終われば、私の指に触れていた手が離れていく。

「ありがとう、わざわざごめんね」
「俺の方こそ勝手にごめんな」
「ううん。茂庭くんが謝る必要なんてないよ。本当にありがとう」
「お礼を言われるような事はしてないよ」

私の言葉に茂庭くんは苦笑いを浮かべる。手当てが終わればイスから立ち上がり、席に戻って中断していた作業に戻る。

怪我をした子にはいつもこんな風に手当てをしているんだろうな。
茂庭くんらしくて優しいし、その優しさに惹かれている人だっているんだって、改めて思う。実際に私もその内の一人なんだけど。

「…茂庭くんは優しいね」
「え?なに急に」
「こういう風に突発に怪我とかしても、直ぐに助けてくれるの。凄い茂庭くんらしくって優しいなって思うの」
「…あのさ、俺が誰にでもそんな風に手当てとかすると思う?」

茂庭くんの口から告げられた言葉は予想外の言葉で。いまいち言葉の意味が理解できずに彼の方を見れば、少しだけ頬を赤く染めている彼と視線が絡まった。

「茂庭くん…?」
「俺がこんな風に手当てしたいって思うのは、みょうじにだけだから」
「…え?」

発せられた言葉に、間抜けな声を上げてしまう。茂庭くんは纏めた資料をホチキスでぱちんと留めていく。

「それってどういう…」
「そのまんまの意味だよ。…手当てでもなんでも、きっかけを作って好きな子に触れたいって思うんだ」

ぱちん。最後の資料を纏めてホチキスで留めた音が資料室内に響く。
ホチキスを置いたと思ったら茂庭くんは私の事を真っ直ぐ見てきて、怪我した絆創膏部分にそっと触れてくれる。

「も、茂庭くん…」
「俺…みょうじの事が好きなんだ」
「!」

茂庭くんの言葉に一瞬、思考が停止してしまう。
だけど「みょうじは?」と茂庭くんが私を見つめる瞳には、不安の色が入り混じっていた。

返事をしなくちゃと思い、意を決して「私も、好きだよ」と声に出たのは自分でもびっくりするくらいに小さい声で。恥ずかしさから小さい声でしか返事出来ない自分が情けなかった。
だけど、茂庭くんの方を見れば、安心したようないつもの笑顔を浮かべてくれている。

触れられていた手は、いつの間にか指を絡めてきゅっと繋がれていて、所謂恋人繋ぎをしてくれていて。

「…あんまり怪我とかして心配させないでくれよ?」
「そんなにしてないよ…?」
「現にみょうじは、指を紙で切ったりしてるから心配なんだよ」
「…でもまた怪我したら、茂庭くんが手当てしてくれるんだよね?」

冗談っぽく言ってみれば彼の眉間に皺が寄る。
あ、怒らせたかなって思ったけど小さく溜め息を吐き出されてから、当たり前だろ、って当然のように呟かれて、そのまま軽く額を小突かれた。

小突かれて少しだけじわりとくる痛みさえ今はただ嬉しくて、茂庭くんに言われた言葉につい頬が緩んでしまう。緩む頬を隠そうとしながら大好きだよの意味を込めて、繋がれた手をきゅうっと握り返した。

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