(またやってる)

どうも自分にはわからないことの一つに、女子同士の距離感というものがある。何をするにも何処へ行くのにも一緒というような人が居たと思えば、たまに机の周りに集まってお喋りするだけというグループも居る。
その中でも異彩を放っているのが幼馴染のなまえだ。

「なまえちゃーん!」
「はいはい、どうしたの?」

工業高校では少ない女子の同級生が、今日も廊下に面した窓の外からなまえを呼んでいる。やってきた友達の話を聞いてあげる。ハグをして、背中をぽんぽんと撫でてあげる。これがなまえの毎日の昼休みの日課だ。そんな様子から、ついたあだ名は「お母さん」。優しい雰囲気を身に纏っている彼女にぴったりだと思う。
実際、なまえのポケットには絆創膏とハンカチティッシュ、それからいちごみるくの飴が常備されていた。

「ごめんごめん、浩輔君。何の話してたっけ?」

廊下から帰ってきたなまえが自分の席に腰を下ろしながら聞いた。

「そんなに重要なことじゃないし、大丈夫。」
「そっか。良かった。」

僕相手なんだからそんなに気を遣わなくてもいいのになあ。「しっかり者なまえちゃん」のイメージがついてからいつもいつも気を張りっぱなしになっているなまえが、最近気が気でないのだ。

例えば、体育の時間。
「二人組をつくりましょう」
こんなとき、普通なら仲の良い者同士で集まっていくものなのだろうけど、なまえは違う。少し遠巻きに女子の集団を見て、一人余ってしまいそうになった子に駆け寄っていく。それから、こう言って笑いかけるのだ。

「私も余っちゃった。良かったら一緒にやらない?」

“なまえ”はいつでも優しいしっかり者で居ないといけないらしい。


* * * * * * *


しかし、なまえも僕たちと同じ高校一年生である。
登下校は僕がテスト期間なんかで居ない限り一人。部活にも所属していない。たまたまきれいに二人組が出来れば、余るのはなまえだ。つまり、彼女には“特別に仲の良い友達”が居ない。誰に対しても公平だけど、特別になまえを隣に置いてくれる女友達は居ないのだ。

「こーすけくんー、」
「ん?」
「…。」

帰り道、図書室で部活の終わるのを待っていてくれた幼馴染は、薄暗くなった空を見上げながら僕の名前を呼んだ。
なまえお喋りが苦手だ。――だからとことん聞き手に回る。
実は寂しがり屋だ。――だから、自分を抱きしめ返してくれる人が欲しい。

「どうしたの。」
「…何でもない。」

何でもないはずがないのだけど。と頭の隅っこで思う。こういう時、僕はなまえの真似をすればよいと思っている。

「そっか、なら良かった。」

相手の言葉はただそのまま受け入れて、優しく笑いかける。女子の割に背の高いなまえの、ほぼ変わらない高さの頭を撫でた。

「わたし、浩輔君中毒になりそうだなぁ。」
「何それ。」

世界一優しくって脆い彼女が、僕を頼ってくれている。自分を必要としてくれている。それに誇らしいような気持ちを覚えた。

「ねえ、なまえ。」

“だったら、ずーっと隣にいてよ”
ふわりと笑って頷いたなまえの手を握ると、握り返す感触が伝わってきた。


目のまえで笑う君にしか憶えられないこと。それは、「僕だけはいつまでも隣に居られる」という幸せなうぬぼれ。

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