それは、突然やってきた。
あぶねぇ!という声にはっとすると同時に目の前を横切った白っぽい何か。その勢いに驚いて後ろによろめけば、踏ん張れずにそのまま尻餅をついてしまう。痛いっと小さく零したわたしの元に走り寄ってくる男の人。ツンツンとした金髪と大きな図体に思わずぎょっとすると、相手はひどく焦ったような顔をしていた。
「大丈夫か!?」
「は、はい」
座り込んでいるわたしに、立てるか?という言葉とともに差し出された手。
迷いながらも恐る恐るその手に自分の手を重ねると、ぐいっと力強く引っ張り上げられ立たされる。
「悪かったな。怪我とかねーか?」
「だ、大丈夫です」
「ならよかった。んじゃ、気を付けて帰れよ」
そう言って転がっていたボールを拾い上げて体育館まで足早に去るその人を見送る。まるで、嵐のようだった。突然やってきてはあっという間に去っていく後ろ姿。そっと、自分の手のひらを見つめる。握った手は大きくて、少し硬くて、でも温かかった。ただ、それだけ。それなのに、熱くなる頬とどきどきと高鳴る心臓はしばらくたっても収まる様子はなかった。
呼吸をしているということ
「鎌ち!」
見知った後ろ姿を見つけてそう呼びかける。すると、相手はすぐに振り返ってこちらを見た。
「ちょっとこの荷物部室まで一緒に持ってってもらっていい?」
そう言って、持っているダンボール箱を示せば、いいぜ!という声と共にこちらへ来た鎌ちがひょいと荷物を持ち上げる。ありがとー、と言いながら軽くなった腕をぷらぷらと揺らせば、それを見ていた鎌ちが呆れたような顔をした。
「うちの部員は力あるやつばっかなんだからもっと使えばいいだろ」
「だってこれぐらいは持てると思ったんだもん。でも意外と重くて困ってたから鎌ち見つけてよかったー」
そう言って笑うと、しょーがねーなぁ、と柔らかな声で困ったように笑った。
放課後特有のざわめきに満ちた廊下はにぎやかで、隣で黙々と荷物を運ぶ鎌ちをチラリと見やり、ポツリと呟く。
「もうすぐ、インハイだね」
「あぁ」
「・・・早かったなぁ」
「もう三年だしな」
あの日、あの後、飛んできたものがバレーボールだと知って、体育館ではバレー部が練習してること、うちのバレー部は強豪校なのだということを知った。そして、わたしを引っ張り起こしてくれたのがいったい誰なのかも。
あれから二年。わたしはマネージャーとしてバレー部で選手のみんなと一緒に頑張っている。
「今年の目標は?」
にやり、と勝ち気に笑って見上げれば、きょとんとした鎌ちと視線が合う。だけど、次の瞬間にはふっと表情を引き締めて。
「もちろん全国だ」
そう力強くそう言い切った。その言葉に、口元が緩む。
「期待してるわよ!筋肉バカ!」
そう言って、バシンッと背中を叩けば、「バカは余計だ!」なんて言葉が返ってきて思わず笑う。
あの日出会ったこの人が、こんな脳筋だなんて思わなかった。呆れもするし、しょうがないなぁと思うことも多々あるけど、結局、真っ直ぐにバレーだけをやってる姿を見てしまえばダメだった。ひたすらに頑張るこの人を、応援せずにはいられない。
「今年こそ、俺らは全国に行く。だから、マネージャーのサポートも期待してるからな!」
前だけを真っ直ぐに見ていたその目が、わたしへと向けられる。その瞳には確かな信頼が宿っている。その目に、その言葉にどうしようもなく胸が震えた。
わたしはもう、走り去る背中を見送ったあのときのわたしじゃない。あなたと一緒に夢を追いかける一人だ。伊達工バレー部の一員だ。その事実がとても誇らしい。
最後までよろしくな!と豪快に笑う姿がきらきらと眩しくて目を細めた。
あなたと同じ世界に、同じ場所に、わたしも今、立っている。
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