目の前に出来上がったものを見て、わたしは頬を引きつらせた。そこには真っ黒に焦げたホットケーキ。しかも中身は生という奇跡の物体。自分で作っておきながらあまりの出来栄えに青ざめた。
これでは、とてもじゃないけど浩ちゃんに出せない。いや、浩ちゃんどころかこれでは犬のエサにもならない。昔からちょっとだけ不器用で、料理や裁縫は苦手だった。でも、今日は部活で忙しい合間を縫ってせっかく浩ちゃんが我が家に来てくれたのだ。ちょっとはもてなしたいと思う幼なじみ心なのに、どうしてこうもうまくいかないんだろう。
「なまえー?なんか焦げ臭いけど大丈夫?」
そう言って台所にひょっこり顔を出したのは浩ちゃん。「こ、浩ちゃん!来ちゃダメ!」と、慌てて例のものを背中に隠す。だけど、焦げ臭い異臭を放つそれを隠せるわけもなく、浩ちゃんに変な顔をされる。どうしたの?なんでもない。嘘だ。嘘じゃないよ。そんな、無言の攻防をしばらく繰り返したあと、背中のそれをおずおずと差し出した。
「これは…?」
「えーっと、ホットケーキだったもの、かな…?」
あはは、と誤魔化すように乾いた笑いを浮かべてみたけど、自分自身、内心とてもがっかりした。
あーあ、せっかく浩ちゃんにおいしいホットケーキ焼いてあげようと思ったのにな。なんでこんなことになっちゃうんだろう。自分が情けなくて首を垂れると、ふわりと頭に優しい重み。ぱっと上を向くと、困った顔した浩ちゃん。
「そんな顔しないでなまえ。今度は僕が作ってみるね」
だから大人しく待っててね、と言われてしまえば頷くことしかできない。台所へ行くのを見送って、大人しく待つこと数分。おいしそうな匂いとともにホットケーキがやってきた。
「はい、できたよ」
「わぁ…!」
バターがとろりと溶けたきつね色のホットケーキにテンションがぐんと上がる。まるでパッケージから出てきたようなホットケーキは味も食感も完璧でふわふわしっとり、あまい。おいしい!こんなおいしいホットケーキ初めて食べたよ!なんて、興奮気味に感想を述べれば、よかった、と頬を染めて嬉しそうな顔。
「でも、ごめんね。ホットケーキも満足に焼けなくて」
「なまえは昔から不器用だもんね」
「うぅ…浩ちゃんの意地悪…事実だけど」
「あはは、ごめんね。次頑張ろうよ」
そう言って頭を撫でられると、昔とは逆の立場みたいで、なんだかそわそわしてしまう。いつの間にか、男の子になっていく幼なじみ。
そんな彼に、ふわふわした心を抱えながら、ねぇ浩ちゃん、とその名を呼ぶ。なあに?とまだあどけなさを残した表情に少しだけ安心してその手をとる。
このホットケーキ、しあわせの味がするね。ふにゃりと笑ってそう言ったら、浩ちゃんは一瞬だけびっくりしたような顔をして、でもとても優しい目で、そうだね、と小さく笑った。
back