※二口が中3
「っくしゅん」
ずずっと鼻を啜り、垂れてきそうな鼻水を元の位置に押し戻す。2月某日、雪の降る中。私はというと、寒空の下笑顔を浮かべていた。
「あのー、ここに行くにはどうすればいいですか?」
「えっと…ここはあちらの入口から入って右に進んでください」
今日はこの伊達工の受験日なので、朝から受験生がドシドシ押せ寄せている。私は校門と入口の途中で誘導係をやっていた。担任が女子がいたほうが華があるから頼む!というもんだから、仕方なくだ。決して給与と別にケーキバイキングのチケットをくれたからとかではない。物につられたりしないもの。
とはいえ、雪が降るくらいだ。それはもう寒すぎる。カイロを身体中に貼りつけたというのに、足りないと思うくらいには寒い。あの担任、自分は校舎内でぬくぬくしてるとか本当に腹が立つ。ムカつくから、やっぱ内申点もあげて貰わなきゃ。なんて思考が別の世界に飛んでいれば、肩を叩かれる感覚によって現実に戻された。
「あのー、俺はどっから入ればいいんすか?」
「え?あ、うん。受験票見せてくれる?」
この寒い現実に戻したのは誰かと見れば、随分背の高い中学生で。この身長ならバレー部入ってくれないかな、なんてまだ入学も決まってないのに勧誘のことを考えてしまう。ああ、同期に影響されて私もバレーバカになったものだ。
「先輩?」
「…あ、ごめん。えっと、そこの真ん中の入口から入って左に進んでね」
「ありがとうございます」
いけない、また思考が飛んでいた。ああもう、今のは全部かまちのせいだそうしよう。貼りつけた笑顔の裏でそんなことを思いながら、今度こそ質問の答えを返す。あ、あそこの中学生困ってるみたいだし声かけなきゃいけない。と思ってそちらに行くつもりが、何故か目の前の中学生は動いてくれなかった。というか、見つめられてる?
「……先輩」
「な、なんでしょう…?」
恐る恐る視線をあわせて彼の顔を見れば、随分整った顔で驚いた。イケメンにこんなに近くで見つめられるなんて人生で初めてなので、当然頭の中は大混乱。なんだろう、もしかして告白とか?!
「ちょっと動かないでください」
「えっ、えっ、」
私の頭に彼の手が伸ばされて、触れる。告白通り越してキスですか?!と調子に乗ったことを考え、ギュッと目を瞑って。だけどまあうん、そんなことは起きることはなく、私の頭に触れていた手はすぐに離された。
「頭に雪、積もってたんで」
「…あ、りがとう」
「雪積もらせてるのも可愛かったですけどね」
ふわりと笑う彼の笑顔に、激しい自己嫌悪に陥る。何考えてたんだ、私は。寒さにやられて頭が逝ってしまったのだろうか。こんなお世辞まで言ってくれるいい子なのに、申し訳なさすぎる。と赤くなる顔を隠すために俯いて、小さくごめんなさいと零した。
「…は?なんで謝られてんのかわかんないんすけど」
「いや、えっと、お…手を煩わせたから…」
「別に何も迷惑じゃなかったですし」
そう言った後、あとお世辞じゃないんで、なんて言われたもんだから返す言葉が見つからない。お世辞と言い掛けたの、バレてたとか恥ずかしすぎるよ。
「先輩のおかげで緊張とかどっかいっちゃいましたよ」
「えっ、それは良かった?」
「もー、先輩可愛すぎ」
ははっと笑う声が聞こえて思わず顔を上げてみれば、笑顔の彼。自分の顔が赤いことなんか忘れて、その笑顔に見惚れてしまった。
「俺、絶対この学校受かってみせるんで。それじゃ」
最後に私の頭をぽんぽんと優しく撫でて、それから真ん中の入口へ向かう彼の背中に。私は、頑張って!と伝えることしか出来なくて。私の芽生えかけた初恋は、即終了してしまった。
ちょっとした運命の話
そんななんともいえない冬を終え、春を迎えた頃。私はというと、部活動勧誘会に駆り出されていた。といってもバレー部のブースで受付に来てくれた子と話すだけだけど。勧誘自体は茂庭とか笹谷が頑張ってるからね。
「おいそこの新入生!時間あるよな?!」
かまちはというと、なんていうか脅迫じみてる。ああもう、なんであんな声のかけ方しか出来ないのか。新入生がガタガタ震えてるじゃない、可哀想に。仕方ない、助けにいってあげなきゃ。
「先輩、ちょっと動かないでください」
そう思い、立ち上がった時だった。後ろから声がかかって、頭に手が触れる。その手の感触を、私は知っていた。そして、このあと言われる言葉も。
「頭に花びら、積もってたんで」
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