蒸し風呂と化した真夏の体育館は拷問以外の何物でもない。持ってきたスポドリもすっかり温くなっていて口に含んだ瞬間顔をしかめる。
何だこれ、まっずい!これなら水道水の方が美味しい気がする。
タオル片手に体育館を出れば日射しが眩しいものの風が吹いている分いくらか暑さはマシだ。目的地である水道に向かえば同じクラスの二口の姿があった。


「ふたくちー」


名前を呼べばわざとらしくキョロキョロと周りを見渡す仕草をする二口。幻聴かー?なんて白々しい演技はいつも通りで。


「わっお前居たの?ちっさくて気付かなかったわー」

「なーにが気付かなかったわ、よ。口元にやけてるからね」


肩を軽く叩けばお前馬鹿力だな、なんて言葉が降ってくる。あたしが馬鹿力ならあんなえげつないサーブやスパイクを打つお前は何なんだと言いたくなる。


「女バスも休憩中?」

「そー。スポドリ温くてあまりの不味さにびっくりした」

「あれな、いっそ水道水のがマシだよな」


二口もまったく同じこと思ってたとは。夏の部活あるあるらしい。蛇口に手をかけると頬にひやりとした感触して思わず飛び跳ねた。


「ちょ!二口!?」

「うるせえやつ。せっかく優しい二口くんが冷たいスポドリ分けてやろうとしてんのに」

「きゃーさすが二口くん中身もイケメン」

「おいもうちょっと心込めて言えよ」

「ごめんあたし嘘は上手に付けない女だからさ」


取り上げられそうになったスポドリをがっちり掴むと変わりに頭を軽く小突かれた。まったく痛くはないのだけれどこつん、と骨張った感触にやっぱり男の子なんだと思った。
それにしても夏休みだというのに部活の休憩中にばったり会った時でさえいつもの教室のようなやり取りをやってしまうあたし達って本当に成長しない。
部活も同じ体育館組なせいか夏休みに入っても休憩中や部活終わりに必ずと言っていいほど二口と遭遇する。驚異のエンカウント率である。


「なんか毎日二口と会ってるから夏休みっぽくないわー。偶然通り越して腐れ縁だよね」


何気なくそんなことを言いながらスポドリで喉を潤す。うん、やっぱ冷たい方が美味しい。あれ?ていうかこれ二口と間接ちゅーじゃん。まぁいいか、二口だし。


「お前さぁ、本当に偶然だと思ってんの?」

「へ?」


見上げた顔は少しだけ不機嫌で、ため息をつきながら二口の大きな手があたしの手からスポドリを奪っていった。


「わざとに決まってんじゃん。休憩も帰りもお前に会えねーかなって狙ってんの」


言葉の意味を理解した時には心臓が波打っていて。
え、そんなバカな。二口があたしを?人間って驚くと相手が言ったことを否定したくなるらしい。


「ちなみにこれも、わざとだから」


間接ちゅー。スポドリを指差して意地悪く笑う二口。その笑顔がムカつくのに、ドキドキして体温がせり上がっていく。じゃあなって去り際に頭まで撫でて行くもんだからあたしの心臓は悲鳴を上げそうになった。
目の前に二口は居ないのに心臓は鳴りっぱなしだし顔は熱いし、二口の笑顔が頭から離れない。


「なんだこれ…」


ふわふわと胸に落ちてきたこの感情を知りたいような気付きたくないような。熱に浮かされた想いはとりあえず夏の暑さのせいにしておこう。

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