帰るのも億劫だ。廊下の蒸し風呂地獄も勘弁だけど、突き刺すような日差しはもう暑いを通り越して溶けてしまうのではないかと結構本気で心配していたりする。畜生、朝はこんなに暑くなかった筈だぞ。なぜ華の夏休みまで、男ばかりのむさ苦しい学校に出向いて補習などせにゃならんのだ。

結局太陽のガンガン照りつけるアスファルトの上を歩く気にはならなくて、いくらか涼しいロビー内を、ぐるぐる、ぐるぐる。時々運動部の声なんかが聞こえてきて、こんな暑いのによくやるなぁと完全に他人事だ。

そういえばバレー部は練習しているのだろうか。新主将になって先輩のありがたさがよく分かった、俺は生意気な後輩だったけど素直過ぎんのも困るっつんだよな、と机に突っ伏しながら溢していた二口の姿が目に浮かぶ。頭を抱えていた二口の、男子らしくゴツゴツした手をちょっとだけ意識したのはまだ誰にも言ってない秘密だ。だってこんな私らしくない。
二口がバレーしてるとこ見たことないなぁ、と思い出したところで頭の片隅に“見に行ってみる”という選択肢が上がってビックリだ。もしかしたらあたし、自分が思ってるより二口に絆されてる?

思い込んだら頭から離れない。二口が、二口が。こういう時に限って思い出されるのは普段の意地の悪い笑みじゃなくて、時折見せる子供みたいに優しくて無邪気な笑顔なんだからほんっとにタチが悪い。あぁ、考えただけで暑くなってきた。涼しかった筈のロビーのリノリウムに、頬を伝った汗が一滴落ちる。


「みょうじ?」
「ひぎゃあ!!?」


思いもよらなかった声に思わず変な声が口から溢れる。ひぎゃあってなんだ、もっと可愛らしい悲鳴の一つや二つ、なんて考えてしまうのは、声の主が今思考を散々駆け巡っていた張本人だったから。


「何やってんの」
「ふ、ふたくち・・・」
「おう」


やっぱロビーは涼しいな、なんて呟いて垂れた汗を練習着の裾で拭う。ちらりと見えた腹筋にちっさな胸がきゅんと鳴いて、


「補習?」
「あー・・・うん」
「なんだよ、お前そんな頭悪かったっけ」


ニカッと笑いながら自販機にお金を入れるスマートな動きに、また顔に熱が集まった感覚を覚えて、


「二口!」
「みょうじ」
「・・・・・・あ」


被ったな。そう言って笑われれば、小さく頷くことしかできない。あたし、いつもこんな態度だったっけ。ガサツで大口開けて笑うあたしはここにはいない。そして、いつもみたいに毒吐いて嘲笑する二口も。


「先どうぞ。レディファーストで」
「・・・どーも」


きゅっと切なく締めつけられた心臓、その想いの名前はもう分かっている。思い立ったら即行動タイプのあたしは恋愛向きなのか不向きなのか、経験値無いから分からない。でも、そんなあたしの“好き”を、二口に受け取ってほしいと思うんだ。

喉までせりあがって来た恋心が今、水風船みたいに弾けた。


「好きです」


身体中の血が顔に集まって沸騰しているようだ。割れた水風船は萎んでいくばかりで、何も言わない二口にだんだんと不安が募っていく。なんか言ってよ、心臓持たないじゃん。じれったくなって顔を上げれば、


「え、」
「っちょっと今こっち見んな」


口元に片手を当てた二口は、気まずそうに目を逸らす。早口なのは照れ隠しだから?りんごみたいに真っ赤な顔は、勘違いしてもいいんですか?どくんどくん、心臓の音は聞こえていないかな。


「・・・みょうじさ」
「ん、」
「お前が見えたからこっち来たって言ったら、どうする?」


そんなの、


多分あたしの顔も二口に負けず茹でダコみたいになっていて。そっと触れ合った指先はやっぱりゴツゴツしていて、そのことにまた熱が集まってきた。もうこのまま溶けていってしまいそうだ。あぁ、アツがナツい。

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