ほんのり甘い香りと雨の匂いが混じって残る午後、午前中の土砂降りが嘘のようになりを潜めてパラパラと屋根や地面に音を立てている。それに耳を傾けて聞いているとなんだか落ち着くから雨とは不思議だ。
珍しく一日部活が休みとなった今日、たまにはのんびり過ごして身体を休めようかという話になった。そんなわけでいつもよりも朝から張り切って作ったクッキーをお茶請けに青根くんを家へと招待したのだけれど、今や青根くんは我が家の猫さま三匹と戯れている。存外青根くんは動物が好きらしく、道端で会う犬や野良猫ともたまに戯れていたりするからきっと我が家の猫さまとも仲良くなれるだろうと思っていた。だけれど、これはちょっと予想外過ぎると思う。青根くんの肩に乗る我が家の黒猫さまと頭に乗る白猫さま、そしてじゃれついてさっきから青根くんに前足で、てしてしと攻撃をけしかけている三毛猫さまは何とも楽しそうで、青根くんの表情も心なしか嬉しそうに見える。なんだろう、なんかちょっと悔しいというかずるい…飼い主としてもだけど、彼女としては青根くんを取られたような気がしなくもない。あと彼女としては我が家のペットたちと仲良くなってくれるのは嬉しいけど、でも私にも構ってくれないかなぁとか何とも複雑な心境で。だけど飼い猫相手にやきもちを焼くのはなんていうかちょっと思うところもあって、口にするのはなんだか負けた気がするから変わりに青根くんの背中に寄り掛かりながら本を読むことにした。何に負けるのか私にもよく分からないけど、なんかこう気持ち的に、ね。別に当て付けってわけじゃなく、ただ単に青根くんの背中って広いというか大きいというか、安心感があるんだよね。眠たくなるし、だからついつい寄り掛かりたくなるというか……二口くんがいたら、またやってるのかよとか呆れたように言われるんだろうなぁ。
そんな青根くんを背にしていれば、あちこちに猫さまたちを乗せたままクッキーを手に取ってしげしげとクッキーを眺める青根くんが視界に入って、首を傾げながら見つめていれば視線がぶつかった。ただ一言、食べるのがもったいないと呟いて、クッキーを眺め続けるそんな青根くんに苦笑してしまった。青根くんが好きそうだと思って焼いたネコ型クッキーとモミジ型クッキーがこんなところで徒になるとは思わなかった。
「またいつでも作ってあげるよ」
コクコク首を縦に振りつつ、もぐもぐと口を動かしてクッキーを頬張る青根くんがなんだか小動物のリスとかハムスターみたいで、こんなに背の高い人に向かっていう台詞じゃないけど、可愛らしく見えてしまうのは惚れた弱みというものかもしれない。
「うまい…」
「良かった。いっぱいあるからたくさん食べてね。あ、余ったら持って帰れるように包むから言って」
そして予め蒸らしておいた紅茶をカップにそそいでそっと差し出せばペコリと頭を下げてそれを受け取る。私が持つとそんなに小さく見えないのに青根くんが持つとやっぱり小さくて可愛らしく見えちゃう不思議。青根くんマジック?なんか今日は青根くんの色んな可愛らしさを見ているなぁ、なんてしみじみ。
「クッキーの甘さが、紅茶とよく合う」
「ルフナっていう茶葉を使ってるんだよ。新芽が入ってる茶葉だから普通のものより値段は張るんだけどね、でもその分、香りとか風味が違うんだ。青根くんとゆっくり過ごすの久しぶりだし、練習も大変だからたまには贅沢もいいかなぁと思って特別に用意してみました」
大した贅沢じゃないけどね、とつけ加えるように言えば首を左右に思いきり振って否定する青根くん。首は痛くないのかなとちょっと心配になるくらい勢いがすごかった。今回の紅茶はルフナという茶葉を使用したもので、この時期には最適な紅茶だと私は思っている。深い味わいとほのかな甘み、そして香りが引き立つこの茶葉はストレートはもちろん、ミルクティーにしても美味しく飲める。加えて今回作ったクッキーは少し甘めに仕上げているからお砂糖を入れなくてもちょうどいい口あたりになってると思う。甘党な青根くんでも飲みやすい口当たりの紅茶を選んだから気に入ってもらえて良かった。
「俺は、嬉しかった。だから、いい」
「うん、それなら良かった。たまにあるお休みの日はこんな風にまた過ごしたいね」
「今度は俺が、招待する」
「うん、楽しみに待ってるね」
雨の音に耳を傾けながら、手作りクッキーをデザートに過ごすアフタヌーンティーもたまにはいいかなぁ。まあそれもとなりに青根くんがいることが大前提なんだけど、こんな休日の過ごし方もたまにはありでしょう?まあ、二人きりじゃなくて我が家の猫さまが三匹、おまけでついてるけど、青根くんが嬉しそうだし、本当にたまになら猫さまがいての小さなお茶会もいいかなぁ、なんて思った金木犀の香る秋の午後。
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