最終話



身体がひどく気怠い。
達したすぐあと、私は薄く目を開ける。視界に入ったのは槙島さんの綺麗な銀髪だった。

私の首筋に顔を埋め、ちゅっと音を立ててそこを吸い上げている。



「槙島、さん…?」
「…ユリ。君に首輪をしているところだ」
「え?…んっ、首輪って…っ」
「早い話がキスマーク、だね」
「…!」


ちりっと熱い痛みが走る。
おそらくは3箇所くらいに跡を付けられただろうか。…もっとかもしれない。


やがて満足したのだろう、槙島さんは獲物を捕らえた獣のような瞳で私を見下ろし、そして強く抱きしめた。



「…君は僕のものだ」
「……」



返事をする代わりに、その背中にそっと腕を伸ばして抱きしめ返す。すると甘えるように頬をすり寄せてきた彼に、じわりと愛しさが込み上げた。


長くて細い彼の髪を撫でる。
今目の前にいる槙島聖護という人間を、しっかりと確かめるように。





これが恋≠セとしても、そうでなかったとしても。

私と槙島聖護という人間は、お互いを深く欲し合い、求め合っている。それが事実だ。



「…もし私が、誰かに恋をしたら、どうしますか」
「そいつを殺すよ。当然ね」



彼は綺麗な微笑みでそう答えた。
本気でそう言っているのかは分からないけど、少なくともふざけているようには到底見えない。

底知れない、深淵の闇を垣間見たような気がして、少しだけ怖くなる。…けれど。



「私はもう、槙島さんから離れられないと…そう思います」
「奇遇だね。僕も同じ意見だ」


彼の白い首筋に、私はそっと唇を寄せる。
ちゅうっと強く吸うと、そこに小さな赤い花が咲く。

槙島さんはその箇所に指先で触れて、とても幸せそうに微笑んだ。





これから歩む道の先が、正しいと言えなかったとしても。


私は彼が思うより深く彼の存在を求め、
彼は私が思うより深く私の存在を求めるだろう。



それは甘くて妖艶な果実。
一度齧れば、もう元には戻れないー。






Fin.


2020.4.11〜2020.05.24
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