13

勢いよくドアが閉められた音。背中に感じる固いドアの感触。そして両脇には海馬君の腕があって、目の前には真っ直ぐに私を見下ろす瞳があった。逃げ場はどこにもない。

「誰が戻っていいと言った」
「…」
「顔を逸らすな。オレを見ろ」

有無を言わせない口調だった。おそるおそる視線を海馬君に向けると、想像した通り険しい顔がそこにある。

「用があったのだろう。今すぐ話せ」
「…えっ、と」
「まあ、大方夕方の件だろう。大体想像はつく」
「!」
「オレが怒っているとでも思ったんだろう」

なんということだろう。何から何まで図星だった。海馬君は人を見抜く力でもあるのだろうか。もしかしたら人の上に立つ人というのは、そういう力が備わっているのかもしれない。


「…そう見えた、から」
「ふん、まあ正解だ。だがその理由までは分かるまい。ならば教えてやろう」
「…」
「自分なんかのことで手を掛けさせるわけにはいかない、と。お前はそう言ったな」
「…う、うん」
「オレはお前を守るに値しないか。頼りたいと思うに値しない男か」

僅かに歪められる表情。その右腕が作った拳にぐっと力が込められるのが分かった。

「…それにオレは、手を掛けたくないと思う人間をここに迎えたりはしない」
「!…」
「お前を手にするために何年待ったと思っている。1人で抱える事は許さんぞ」
「海馬君…」
「…分かったなら今後は行動を見直せ。今回だけは見逃してやる」
「…うん。わかった…」

要するに、遠慮なく頼れという事が言いたかったんだろう。じわりと心が温かくなったのを感じる。話し方や態度は高圧的なところがあるけれど、海馬君は本当は優しい人なんだ、と思った。

「ありがとう、海馬君」
「…分かればいい」

お礼を言うと、海馬君は私の両脇から手を退けてくれた。

「疲れてるのに、こんな遅くにごめんなさい。もう戻るね」
「ああ。そうするといい」
「…おやすみなさい」

そう言い残してドアを開けて薄暗い廊下に出るを 。返事はなかったけど、微かに海馬君が微笑んだ気配が伝わってきた。

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