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数日後。
いつものようにお風呂に入らせてもらってから部屋へと戻った。
お風呂、といってもそれは私の知るようなお風呂ではなくて、大浴場と呼ぶような広さなのだけど。

あまりに広すぎるため最初は落ち着かずにあたりをきょろきょろと見回してしまうほどだったけど、最近ようやく慣れてきて落ち着いて入れるようになった。(使用人さんが背中を流すと申し出てくれたけど丁重にお断りした)


自分には豪華すぎるドレッサーの鏡の前で髪をとかし終えて、ブラシをそっと置く。今日も海馬君は遅くなるのだろうか。この数日間、顔も合わせていないため帰ってきているのかどうかすら分からなかった。

「…寝よう」

部屋の明かりを消してベッドに入る。明日は週末で学校は休みだ。何をしようかぼんやり考えているうちに、私は緩やかに眠りについていった。



ー今、何時だろう。ふと夢が途切れて意識が浮上し、薄く目を開ける。こういう風に突然目が覚めることはたまにある。大抵はすぐにそのまま目を閉じて眠りに引き込まれるのだけど、今日は違った。何かの重みが身体の上にある事に気がつき、急速に意識がはっきりする。

「…な、なに…?」

慌ててその重みから逃れようとしたところで、耳元で小さく誰かの吐息が漏れたことに気がついた。首を反対方向に傾けると、すぐ近くに海馬君の顔があるではないか。しかも眠っている。

「…っ、か、海馬君?!」
「…ん…」

あまりにも驚いたため声をあげたけれど、すぐに「しまった」と思った。ここ数日の遅い帰りから、海馬君が疲れ切っていることなんて安易に想像できる。そんな彼を起こしてしまうのは忍びないと思った。

けどとにかく距離が近い。海馬君は私を後ろから緩く包み込むようにして眠っている。そのためすぐ近くでかすかな寝息が聞こえてきて、私の心臓はドキドキと早鐘を打った。

「(どうして海馬君がこの部屋に…というかどうしてベッドに…)」

考えれば考えるほど混乱してしまう。諦めてそのまま寝てしまおうかと思ったけど、こんな状況で眠るのはとてもじゃないけど無理だった。

少しでも距離を置こうと考え、そっと身体をずらそうと試みる。すると海馬君の腕に力が篭り、動くことができなくなってしまった。

「か、海馬君…?」

そっと呼んでみるけど返事はない。たしかに眠っているようだ。
そのまま静かに時間が過ぎていき、カーテンの隙間から朝日が差し込み始めた頃、私は再び夢の世界へと吸い込まれていった。

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