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そのあとに行った所と言えば、CDショップに本屋に、服屋を少しだけ。普段オレは一切立ち寄る事がないためよくは分からないが、こういう過ごし方を一般的と言うのだろうか。

それからユリが前から気になっていた、というクレープ屋に行き、新作が食べたいというので買い与えてやった。それを手渡した時、彼女はこれでもかというくらいに顔を輝かせていて、本当に素直な奴だと改めて思った。


そうこうしているうちに陽は傾き、そろそろショッピングモールを出ようとユリが提案してきた。夕陽が照らすデッキを並んで歩きながら、オレは疑問に思っていた事を問いかける。

「…それでよかったのか」
「え?」
「宝石でも、服でも、靴でも。他のどんな高価なものでもオレは与えてやれるというのに」
「…」
「お前はそんなもの欲しがらなかった」

今日さまざな店を見てきた中で唯一、彼女が興味を示したもの。それは今、彼女が腕に抱えている袋の中にあるクマのぬいぐるみだった。

彼女が少しでも何かを欲しがる素振りを見せたなら、どんなものでも全て買い与えるつもりだった。
これを買って欲しい、だなんて自己申告をするような女ではない事くらい分かっていた。だからサインを見逃さないようじっと観察していたのだが、結局彼女が興味を示したのはあの一点だけだったのだ。


ユリは不思議そうな表情を浮かべて少しの間オレの方を見ていたが、やがて静かに視線を前に戻して言った。

「…欲しがったほうが、良かった?」
「なに?」
「一緒に出かけた甲斐がない、って思われちゃったかな」
「そんな事は思っていない」
「そう?なら良かった」

彼女は少し安心したように言った。
そして腕の中にある袋に視線を落とすと、ふわりと微笑んだ。

「この子が欲しいな、って思ったからいいの。
今のベッドは広すぎて、一人で寝るのは少し寂しかったから…」
「…そうか」
「それに、もう私は海馬君から色々もらってるもの。これ以上欲しがるなんて、きっとバチが当たっちゃう」

そう言って柔らかく目を閉じる。
その瞬間、オレは間違っていたんだと思い知らされた。

オレは彼女を、彼女の人生を金で買い、我が物として手に入れた。常識はずれだということも、暴挙だということも自覚はある。だからこそ、彼女が望むものはなんでも手に入れて与えてやりたかった。

それはもちろん、彼女を大切にしてやりたいという気持ちから来るものもあったのだが、それ以外にも、免罪符として掲げたい部分があったのだと思う。オレは彼女に拒絶されて当然だと考えていたからだ。

だが目の前の彼女が浮かべる柔らかい表情を見て、そんな姿勢は正すべきなのだと実感させられた。彼女はオレを責めてはいないし、むしろ徐々に受け入れつつある。そう感じたのだ。


「…帰るとするか。今日はモクバと3人で久しぶりに食事をしよう」
「本当に…?嬉しい!」

その汚れを知らない、純粋で優しすぎる心を利用して、縛り付けて。そうやって捕らえたつもりでいたのに、捕らわれたのはどちらだろう。

ーそれなら、彼女にもオレという存在を刻みつけてやるまで。ただ魅入られたまま黙っていてやるものか。

上等だ、とオレは心の中で笑みを浮かべた。

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