インディアン的先輩







まだ開門前の壁の前に、集合時間よりも大分早くに俺たちはそれぞれ準備を済ませて集まっていた。

「104期生は揃ってるか?初めての壁外調査で寝坊なんてしてる大間抜けはいないようでなによりだな。
それじゃあ事前に定められた隊列通りに全員配置、始め 」

ネス班長が合図をすると全員が硬い面持ちで馬に乗り、それぞれの班へと合流していく。

リヴァイ班に合流しようとするところをミカサに呼び止められて「くれぐれも気をつけて」と声をかけられて、いつもはうざったく感じるところを「お前もな」と返した俺は無意識のところでビビってるのかもしれない。


「おい、エレン」

「はい?」

「ウェスタをみなかったか」


リヴァイ班に合流して開口一番、朝の挨拶もそっちのけで兵長に同班で動くはずのウェスタさんの行方を聞かれる。
「今日はまだ会ってません」と返すと兵長は不機嫌を隠さずに大きな舌打ちをした。

「あのクソはどこで油を売ってやがる」

「ウェスタさんと一番部屋が近い兵長がまだご覧になられてないなんて…も、もしかしてまだ寝てるんじゃ」

開門予定時刻は刻々と迫ってきている。
焦った表情のペトラさんがどうしますか、と伺うのに合わせて兵長の顔をみると、焦りはしてないが眉間にシワを寄せてひたすらイラついているように見えた。

「自分、ウェスタさんの部屋まで様子を見てきましょうか」

「いい。いくらウェスタが寝汚ねぇグズだからってこんな日に寝過ごすなんてことはねぇはずだ」

…噂で兵長とウェスタさんは恋人同士だと聞いたことあるけど、同じ班にいて二人の様子を見ている限りではにわかに信じられない。
そうこうしてるうちに門周辺の巨人が粗方処理されたことが伝えられて、いよいよ開門準備へと入る時間がやってきてしまった。

リヴァイ班は精鋭揃いとはいえウェスタさんはそのなかでも兵長に次ぐ実力者だ。
いなくなれば班のみならず、全体の戦力にも関わってくる。
そんな人がいきなりいなくなるなんて、動揺しないわけがない。

もうじき開門へのカウントダウンが始まる。
昨日の晩、解散前に「エレン達の初陣なんだから明日は気合いいれていくよ」とにっかり笑ったウェスタさんが脳裏に浮かび上がって、失礼な話だけどその呑気な笑顔に少なからず腹が立つ、そう思った時、

「ごめんね!そこ通して!ごめん!」

にわかに後ろが騒がしくなって、待ちわびた声が聞こえた。

「気合い入れすぎてギリギリになっちゃった!ごめんリヴァイ!」

「ウェスタさ…ん!?なんですかその頭…!」

「チッ。くだらねぇことして約束の時間を破るな。」


安堵して振り向いた先にいたのは急いで馬を走らせてきたようで少し息を上げているウェスタさんだけど、いつもと様子が違う。
普段は風に揺れるままにしている長い髪の毛は高い位置で結い上げられて、いつも真っ直ぐな毛先はくるくるとカールしている。
そして何よりも目を引くのは横顔を彩る立派な、羽根飾り。


「…羽根?」

「うん、むかーし私のおじいちゃんが持ってた本でね、勇敢な戦士の証として鷲の羽根を頭に飾る民族の話を読んだんだ。かっこいいでしょ?」

「ウェスタ。ここでその話はするんじゃねぇ」

「はぁーい。ま、ただ単にこういう頭するとテンション上がるから壁外に出るときはしてるってだけなんだけど、この羽根飾りは今日だけ特別。なんたってエレンの初陣だからね!」

「フン。調子に乗って死ぬなよ」


狼狽えたままウェスタさんに釘付けの俺とは違って兵長は一瞥の後前を向いて、もうこっちを見ることはなかった。

いつの間にか開門のカウントダウンは終わって団長の行軍開始の声で我に返る。
開いた門から射した陽光に包まれて強く笑うウェスタさんは本当に神々しくて。


「さぁ、張り切っていこう」


(どれだけ巨人を殺せば俺も鷲の羽根を手にすることができるんだろうか)


後から来たはずなのにいつのまにか俺よりも前、兵長のすぐ後ろについて颯爽と馬を走らせる彼女を見つめながら一人武者震いをした。







=========


「おじいちゃんが持ってた本」ってのは禁書です。
明るいパイセンを書こうとするとハンジになっちゃうよ〜難しいよ〜
でも書いてて楽しい…「イェーガー少年!」とか言わせたい…


ALICE+