巨人化することができるという未知数の可能性と危険性を持つ少年を管理するにあたり、人員補強が必要になるということで私が急遽ハンジさんの所からリヴァイ班へ異動して早一週間。 エルヴィン団長への定例報告と提出しなければいけない書類があるので本部に戻ることを兵長に伝えたところなぜか同行する事になって、一緒に昼食を食べてからのんびり馬を歩かせて私たちは調査兵団の本部に戻ってきた。 「失礼します。ウェスタ・フェニックス、定例の報告に参りました」 「ああ、ウェスタ。…にリヴァイも来たのか」 定例の報告に訪れた私たちをエルヴィン団長は笑顔で迎えてくれた…ように思ったけども私の後に兵長を見て、なぜか少し肩を落として私たちに席にかけるように言った。 兵長はそんな団長の態度にも無反応でドカッと腰かけていつものように足を組んで見せる。 正面のソファへ座った団長にそれじゃあ聞こうか、と声をかけられたのでいつも通り書類提出と口頭での報告を行った。 「エレン・イェーガー」というイレギュラーな材料を持つリヴァイ班の近況を団長はじっくりと聞いている。 今後の展望についてなども交えながら一頻りの報告を終えて、最初に淹れてもらってそのままだった紅茶に口をつけて一息ついているとエルヴィン団長がそういえば、と唐突に立ち上がり執務机の引き出しから何かを取り出して持ってきた。 「先日王都に行った時のお土産だよ」 「わぁ!お菓子!」 「いらねぇ」 「はは、残念ながらウェスタの分しかないんだ」 「あぁそうかよ」 ついつい喜んで受け取ってしまったけど、「食いもんで気を引きやがって」と言って不機嫌そうに兵長が顔をしかめたのが気になって包みを開けず様子を伺ってみる。 兵長、甘いものが嫌いって言ってた気がするけど食べたかったのかな。疲れてると甘いものがほしくなると言うし。 「ウェスタ、気にせず食べなさい。リヴァイは自分の分がないことを拗ねてる訳ではないんだよ」 「そうなんですか?」 「心外だ。お前には俺が菓子を食いたくて拗ねているように見えたのか?」 いえ…と答えて包み紙を開くと5枚ほどの分厚いクッキーが入っている。 1枚つまんでかじってみたら、ほろほろと口のなかでほどけてバターの香りが広がった。 「おいしい〜」 「気に入ったようで何よりだよ」 「はい、ありがとうございます」 殉職者の多い調査兵団の中で5年以上生き永られる人はそう多くない。 生存している兵士の中では年下の部類に入る私をエルヴィン団長はいつもこうやってなにかと気にかけてくれている。 王都に行くときなんて大体詰め詰めのスケジュールだろうに忙しい合間を縫ってわざわざ焼き菓子屋さんに寄ってくれた団長の優しさが嬉しかった。 「おいウェスタ、一気に食うな。太るぞ」 「食べたらその分動きます…あっ!!」 ガシッと2枚目のクッキーをつまんだ手を捕まれたと思ったら兵長が顔を寄せてきて、抗議する間もなくクッキーをがぶりと指ごとかじられて持っていかれてしまった。 ゆっくり堪能するためにちょっとずつかじって食べようと思ってたのに! 立ち上がる兵長を恨めしそうに見たけどご本人はどこ吹く風という様子。 それどころか、「こんなもんばっか食ってるからいつまでもここの肉がなくならねぇんだ」と言って私の胸をブスッと人差し指で突っついてきた。 結構強めに押されて人差し指が沈んでいくのを見ながらつい口を尖らせて「頑張ってるんですけどね」と拗ねた反論をすると団長が「女性に対してすることじゃない」と兵長を嗜めてくれたけどやっぱり本人は飄々としている。 「自室の掃除をしたら城に戻る。お前も時間があるだろうからやってこい」 「他に用事がないならもう少しここでゆっくりしていくといい」 「エルヴィン、てめェはこいつがいると一切仕事をしなくなるからダメだ。ウェスタ、さっさと動け」 「うう…」 優雅なティータイムはもう終わりか…。 クッキーのお礼をもう一度言ってから、さっさと出ていってしまった兵長の後をのろのろと追おうとしたら後ろから団長に呼び止められた。 「壁外調査が迫っているお陰で忙殺される日々だが君が来てくれると癒しの時間を過ごせるよ。また近いうちおいで、次は一人でね」 チュッと音を立ててエルヴィン団長が私の頬から顔を離した。 ほっぺにキスは、随分と昔から挨拶として団長と私の間で成立している。 なぜわざわざキスなのか、意図がわからなくて最初に聞いたらミケさんが人のニオイをスンスンするのと同じような事だと説明された。 一度リヴァイ兵長の前でやったらびっくりするぐらい怒られたことがあったけど、未だに何故キスをするのかも何故兵長が怒ったのかも、ついでに言えばミケさんがなんで人のニオイをかぐのかもよくわからないままここまできている。 とはいえ、私自身としては団長がキスした後とても優しく微笑むのがなんだか嬉しくて理由なんて特になくてもいいのかなぁなんて思うのだけれど。 「リヴァイの掃除を待つ間暇なのだろう?ハンジの所へ顔を出すといい。ウェスタが班から離れて随分と落ち込んでいたよ」 「ハンジさんが?わかりました、会ってきます」 リヴァイ兵長の掃除の指令なんてすっかり忘れたふりをして、私はまっすぐハンジさんの研究室へと向かった。 |