【act.02 彼女 ーWNー】

俺らの密着取材が決まったと告げられたのが2週間前。今日からその密着とやらがスタートする。
取材する人は日本で大人気の小説家兼フリーライターのちあきさん。

俺はちあきさんの描く小説は読んだことがあるし、映画も見たことがある。

ありきたりっちゃありきたりな恋愛物が多いんだけど、言葉の言い回しや、細かい感情表現は凄く好き。

小説だけでも情景が浮かぶ描画なのに、さらに驚くのは映像化してもそれがぶれないってことだ。

きっと沢山のいい恋愛をして来たんだと思う。

SG「ドキドキするなぁ。ちあきさんってどんな人なんだろ!」
HS「顔も年齢も非公開なんだろ?」

確認するように俺に視線を移すホシにコクリと頷く。

ちあきさんは絶対に自分の容姿を晒すことはなく、年齢や詳しいことも全て非公開になっている。

何かのインタビューで見た時に、どんな人が書いてるか分からないからこそ、活字だけでも感情移入ができ、風景から情景、匂いや肌質までも想像出来るのではないかと思うと。
だから自分は何も明かさないです、と。

映像化してたり脚本もしてるから、俳優さんは会ったことあるんだろうな。

SG「ウォヌヒョンはどんな人だと思う?」

スングァニの問い掛けに、俺は何度も想像したちあきさんの姿を思い浮かべる。

WN「俺らより年上で落ち着いた女性かな?恋愛経験は豊富だけど、遊びの恋愛はあんまりした事なさそう。」

まあ、俺の勝手なイメージだけど。と付け足せば、スングァニとホシは何となく分かる気がすると頷いた。

『よし、練習始めるぞ。』

重たい体を起こして練習を始める。
いつも通り練習を始めて3時間ほどが経っただろうか。

休憩になったのでボノニと、事務所のビル内にあるカフェに向かう。

ここのカフェは事務所の人達しか入らないようになっているから、大体カフェに居る人は顔を見たことがある。

だけど、今日は1人見たことのない人が居た。
誰だろう。どっかの新しいスタッフさんかな。
俺らが知らないってことは、どっかのスタッフか、事務室のスタッフだろうな。

空いている席に座ると、俺らの席から彼女が良く見える。

VN「どっかの新しいスタッフさんかな?」

ボノニも見知らぬ女性が気になったのか聞いてきた。
女性はパソコンを開いてイヤホンをしながら、慣れた手付きでキーボードをタイピングしてる。

俺と同等か、それよりもっと早いタイピングだ。

WN「ちあきさんだったりして。」
VN「あー、確かに日本人ぽい。でもちあきさんってもっと年上の綺麗なお姉さんのイメージなんだけど。」

ボノニの言葉に俺もと呟き、コーヒーを一口飲む。
俺の隣に座ってる女性は、確かに日本人ぽいけれど、俺やボノニよりも幼く見えるし、綺麗系と言うよりは可愛い系の小動物に近いような感じだ。

WN「この後から取材だろうから、その時にどんな人か分かるでしょ。」
VN「そうだね。」

お互いに特に何かを話すわけでも無く、スマホを弄りながら一言二言会話を交わす。

コーヒーを飲もうとスマホから目を離す。
……何してんだろう、あの人。

パソコンの画面を見つめたまま、眉間に深い皺を刻んだと思ったら、今度は驚いたように口を手で抑える。

一体何を見ているんだ?

1人百面相をしている女性に思わず吹き出すと、俺に気付いたボノニが不思議そうに顔を上げた。

VN「ヒョン?どうしたの?」
WN「ううん、何でもない。」

ボノニは「そう?」と特に気にすることも無くスマホに視線を戻す。

彼女が何を見ているかとても気になったけど、生憎彼女の背後は壁で隣に座っても画面を見ることは出来なさそうだ。

VN「そろそろ行く?」
WN「そうだね。」

また練習かなんて言いながらグッと伸びをすると、俺らのマネージャーのドンジェヒョンがカフェに入って来た。

マネヒョンは俺らに気付くことなく、キョロキョロと店内を見渡した後、ある一点で視線を止めた。

VN「ヒョン?行こ?」
WN「あ、うん。」

ボノニはマネヒョンに気付いてないのかもう先にカフェを出ていて、俺を呼んでいる。

歩きながらチラッと後ろを振り向くと、マネヒョンがさっきの女性の向かいの椅子に腰を下ろす姿が目に入った。

…さっきの人、ヒョンの彼女なのかな?
それとも俺らの新しいスタッフさん?

まさか…、ちあきさん?

いや、それは無いよな。
どう見ても俺より年下だし。

WN「マネヒョンって彼女居たっけ?」
VN「マネヒョン?どうだろう、スングァニなら知ってるんじゃない?」

あいつ情報通だしと悪戯に笑った。
まあスタッフならおいおい分かるだろう。

さ、練習の続きだ。




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