【其の参 蓮華】

ーー今日は日本の観光地ともなっている、吉原遊郭街の特集です。


SG「ちょっとヒョン達!何見ようとしてるの?」
SC「いいじゃんいいじゃん!」

良くないと騒いでるスングァニと、恥ずかしそうにしてるディノ。
興味ない振りしながらも、チラチラとテレビに視線を向けてるホシ、ミンギュ、ドギョマ。

普通に堂々とテレビを見てるクオズと、大して興味の無いじゅん、ジフニ、ミョンホ、ボノニ、そして俺。

SG「もう恥ずかしいから変えてよー!」
JH「部屋戻ればいいじゃん?」

…確かに。ジョンハニヒョンの言う通りだ。
実際、ジフニは宇宙工場行ってくると居なくなったし、ミョンホとボノニは自室に戻って行った。

JS「何だかんだ気になるんだね。」
SG「は!?ち、違います!」
SC「ま、男のさがだ。」

テレビでは遊郭の中の飲食店やお土産屋を紹介してる。
遊女が出て来ると期待してたクオズのヒョン達はちょっと飽きて来たのか、お酒を飲み始めた。

HS「お、これ美味そうだな!」
DK「本当だ!この中で遊郭に行ったことある人いる?」

いいや、と皆首を振ってるから、俺も無いってことにしとこう。

DK「誰も無いのかぁ!」
MG「あれ?おぬひょん昔行ったことあるって言ってなかったっけ?」
SC「え!?そうなのか!?」

…ミンギュ、余計な事を…。

水を得た魚のように急に生き生きし始めたクオズと、ホシ。

WN「ま、まぁ。昔ね。」
HS「どどど、どんな感じなんだ!?」
DN「ひょん、落ち着いて。」

興奮気味に聞いて来るホシをディノが宥めてる。

WN「期待してる所申し訳ないけど、俺が行ったのは高校生の時だから、第二の門の奥には行ってないよ。」
SC「なんだ、つまんないの!」

みんなの俺への興味はまたテレビへと戻る。

そう言えば、あの子は今頃どうしてるだろう…。




高校生の時、両親と日本旅行に行った。
遊郭街は昔の日本を再現した街並みが人気らしく、父も母も行きたがっていた。

俺は大して興味なかったけど、第二の門がある橋の前までは高校生の俺でも入れるからと一緒に行った。

“吉原遊郭街”

開かれた大きな門を潜り抜けると、本当にタイムスリップしたかと錯覚するような街並みが広がっていた。

茶屋や、飲食店、お土産屋に花魁衣装をレンタルしてる店もある。

『綺麗ね。』

ショーウィンドウに飾られてる、花魁と呼ばれる人が着る着物を見て母もうっとりとしている。

確かに着物だけ見れば綺麗だけど、売られた子供が最終的に体を売る仕事をしてると思うと、目を逸らしたくなった。

遊郭街で食事をして、第二の門の付近まで行ってみることになった。

橋があって、周りには水が張っている。
池のようだ。

門は閉ざされてて、身分証の確認をした後、大きな門の下の小さな扉が開き、そこから大人達が入っていくようだ。

遊郭の第二の門は17時以降にしか開かないようで、人気の子を指名するために皆朝から並ぶみたい。

並んでる人の中には夫婦や、女性もいる。
まあ、第二の門を入ったからと言って必ず女性を買わなければいけないこともないみたいだし、この中も一種の観光スポットになっているようだ。

WN「行きたいなら行ってきていいよ。俺は遊郭街の周り散歩してる。」

両親と別れて、遊郭街の周りを散歩してみることにした。
遊郭街は思ったよりも大きくて、結構歩いたのにまだ半分くらいのようだ。

ここが遊郭街の裏側か…。
裏側には鉄格子の厳重な門があり、何となく重々しい空気が流れている。

身売りがあると聞くし、きっとここから出入りしているのだろう。

早くここから立ち去ろう。
そう思って踵を返した瞬間。

…ドンっ……

誰かにぶつかった。

「いてて…」

俺がぶつかったのは制服を着た女の子で、尻餅をついていた。
…パンツ丸見え……。

「あ!すみません!大丈夫ですか!?」
WN「え?あ、はい…。」

いや、俺よりこの子の方が…。

WN「ごめんなさい。」

謝らながら手を差し伸べると、女の子は俺の手を取った。
引っ張って立たせてから、女の子の足元に落ちてる本を拾って彼女に渡す。

「ありがとうございます。えっと…韓国人ですか?」

コクリと頷くと、彼女は一瞬目を輝かせて、俺の手を握る。

「私ちあきです。今韓国語とフランス語勉強してて、本場の人に通じるか話してみたかったんです。通じてますか?」

キラキラとビー玉のように目を輝かせてる女の子こと、ちあきさんはとても綺麗で、思わず息を呑んだ。

「あれ?やっぱり通じてないかな?発音が難しいんだよなぁ…。」
WN「通じてます。」
「え!?ほ、本当ですか!?やった!」

微笑みながら頷くと、ちあきさんは嬉しそうにくしゃっと微笑んだ。
その笑顔は太陽みたいに明るくて、そして可愛かった。

「あ、旅行ですよね?この先もう少し行くと、夜景が綺麗でご飯が美味しいレストランがあるんです!良かったら行ってみて下さい!穴場なので混雑もしてないしおすすめです!」
WN「あ、はい!ありがとうございます!行ってみます!お店の名前は?」
「La belle luneです!私はまだ17だからお酒飲めないんだけどもし飲めるならワインも美味しいらしいです!」

ラ ベル リュヌか。フランス料理店かな?
ってか17って俺と同じ歳か…、もっと幼く見えたな。

WN「ありが…」
『蓮華!』

俺の言葉を遮るように、背後から声がした。
誰かを呼んでいるようだけど、この辺には今俺とちあきさんしか居ない。

「…やば。」
WN「ん?」

ちあきさんの表情が少し大人びた気がした。

『蓮華、まだこんなところに居たのか?早くしないと客が入って来る!また楼主のババアに怒られるぞ?』
「ごめん、雪さん。韓国人だって言うかどうしても話してみたくて!」
『なるほどな。でもそろそろ行かないと。』

何を話してるのか俺にはさっぱりわからない。
ただこの子はちあきって名乗ったはずだ。

それなのに、なんでこの男の人はちあきさんのことを“れんげ”と呼んだんだ?

「分かってる。」

ちあきさんは男の人から俺に視線を移す。

「ごめんなさい。もう行かないと。あの、お名前は?」
WN「うぉぬです。チョウォヌ。」
「うぉぬさん!お話ししてくれてありがとう!レストラン行ってみてくださいね!」

ちあきさんは俺にペコリと頭を下げると、男の人と一緒にあの鉄格子へと向かって行く。

その時に初めて分かった。
ちあきが“れんげ”と呼ばれてた理由が…。




SC「うわぁ!凄いな!」

クプスヒョンの声で我に返った。
テレビに視線を移すといつの間にか第二の門の中に入っていたようだ。

『ここが吉原遊郭街の中でも最上級のお店、胡蝶蘭です。』

まだオープン前なのか人が全然居ない。

『吉原遊郭街で人気ナンバーワンの花魁、蓮華さんもこちらのお店にいらっしゃいます。さっそく会いに行ってみましょう!』

………え?今、何て…?

MG「どれくらい綺麗なんだろう!」
HS「分かんねぇ…」
JH「俺もドキドキしてきた。」

見るからに豪華な襖がある。
襖がゆっくりと開いた。

『こちらが人気ナンバーワン花魁の蓮華さんと、人気ナンバーツーの冬羽さんです。』
「蓮華と申します。」
MG「うわぁ…綺麗…」

……やっぱり…

テレビの中で少しだけ微笑んでいるのは、あの日俺がぶつかった、ちあきだった。




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