ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode36

『近づくほど見えるもの』

― 知れば知るほど、相手の知らない部分が見えてくる。―

Day:Monday(共同生活36日目)



Scene5

『秘密の気配』

Monday|Night



404 HOUSE。



深夜。



リビングの明かりだけが、

静かに灯っていた。





スタッフインタビュー。





画面の前に座るウォヌ。





いつものように、

落ち着いた表情。





けれど、

その目元だけが少しだけ硬い。





口を開く前に、

一度だけ視線を外した。





今日は、

言葉を選ぶ時間が長かった。





ウォヌは、

答える前に無意識に左手首の内側を親指でなぞった。





袖口の下に隠れたそこには、

薄い白い痕のようなものが一瞬だけ見えた。





スタッフ

「ウォヌさんは、人との距離感を大切にしているように見えます。」





ウォヌはすぐには答えない。





数秒。





それから、

ほんのわずかに眉が動く。





「……そうかもしれません。」





短く答えたあと、

また沈黙が落ちる。





「昔から、そうだったわけではないです。」





その言い方は、

まるで“ある時期”を丸ごと避けているようだった。





スタッフは、

その言葉の続きを待つように、

何も挟まない。





ウォヌは視線を少し落とした。





喉の奥で、

小さく息を飲む音がする。





「前は、もっと人を信じることに迷いがなかった。」





「近づくことも。」





「自分の気持ちを話すことも。」





言いながら、

どこか遠くを見るような目になる。





その視線は、

カメラの向こうではなく、

もっと別の場所を見ているようだった。





少し間。





「今より簡単だったと思います。」





スタッフ

「何かきっかけがあったんですか?」





ウォヌは、

その問いにすぐ答えなかった。





カメラの前で、

ほんの一瞬だけ唇を結ぶ。





数秒の沈黙。





空気が、

少しだけ重くなる。





そして。





「……昔。」





声は低く、

静かだった。





「近づきすぎて、誰かを傷つけたことがあります。」





その“誰か”という言葉だけが、

妙に曖昧なまま残る。





ウォヌの表情がほんの少しだけ揺れる。





目を伏せたまま、

次の言葉を探すように指先を握った。





「自分では、大切にしているつもりでした。」





「相手のためだと思っていたことが。」





そこで一度、

言葉が途切れる。





「……相手にとっては、違う意味だったのかもしれない。」





スタッフは、

息をする音さえ抑えるように、

静かに聞いている。





ウォヌは小さく息を吐く。





その吐息には、

少しだけ苦さが混じっていた。





「それから。」





「簡単に、自分の中に人を入れなくなりました。」





スタッフ

「それは、今もですか?」





ウォヌは、

ほんの少しだけ笑う。





けれど、

その笑みはすぐに消えた。





「……たぶん。」





短い返事のあと、

また沈黙。





「でも。」





少し間。





「この家に来てから、少し変わってきた気はします。」





スタッフが、

わずかに身を乗り出す。





「どうしてですか?」





ウォヌは考える。





答えを探すように、

視線がゆっくりと下がる。





404 HOUSEでの時間。





誰かと食事をしたこと。





何も話さず隣に座ったこと。





夜中に帰ってきたチアキへ、

「おかえり」と言ったこと。





そのひとつひとつを思い出すたび、

表情が少しずつやわらいでいく。





「誰かと一緒にいることが。」





「必ず誰かを傷つけるわけじゃないって。」





「少しずつ思えるようになりました。」





言い終えたあと、

ウォヌはほんの少しだけ目を閉じる。





まるで、

その言葉を口にすること自体が、

まだ少しだけ怖いみたいに。





その直後、

彼は一度だけ、何かを確かめるようにカメラの外へ視線を流した。





そこに誰かがいるわけではない。





それでも、

まるで見えない気配を避けるような仕草だった。





スタッフNOTE





人は、

過去の経験から距離を決める。





近づけば傷つける。





近づけば傷つく。





そう思っていた人ほど。





誰かの優しさに触れた時、

その表情は少しずつ変わっていく。





ウォヌが語ったのは、

まだ過去の一部分だけ。





けれど、

言葉の端々には、

まだ触れてはいけない何かが隠れているようだった。





本当に何があったのか。





なぜそこまで距離を置くようになったのか。





その核心には、

まだ誰も届いていない。





ただ、

話していないはずの空白の中に、

白い蛍光灯の下で立ち尽くすような気配や、

雨の音に紛れたため息のような断片が、

かすかに滲んでいた。





404 HOUSE





同じ頃。





ウォヌはリビングで本を閉じる。





静かな家。





本の背表紙を指先で二度なぞってから、

彼はようやく手を離した。





以前なら、

この時間は一人で過ごすためのものだった。





でも今は。





誰かの声が聞こえること。



誰かが帰ってくること。



誰かが隣にいること。





その全部が、

少しだけ心地よいと思えるようになっていた。





けれど、

ふとした瞬間にだけ、

彼は何かを思い出しかけたように目を伏せる。





その表情は、

安心している時のものとは少し違っていた。





【STAFF NOTE】



共同生活36日目。





相手を知るということは、

その人の今だけを見ることではない。





その人が、

なぜ今の自分になったのかを知ること。





そして。





まだ言葉になっていない過去の奥に、

その人の本当の姿が隠れている。





次回 Scene6【UNSEEN】

『近づくほど見えるもの』



スタッフカメラが映す、

11人の小さな変化。



距離を測っていた頃とは違う。



今は、

誰かの変化に気づける距離になっていた。




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