ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode37

『残された言葉』

― 誰かを想って残したものが、誰かを傷つけることもある。―

Day:Tuesday(共同生活37日目)



Scene5

『言葉にしない優しさ』

Tuesday|Night



404 HOUSE。



夜。



リビングの照明だけが、

静かに灯っていた。



テレビの音は小さく、

誰かの部屋から聞こえる生活音も、

少しずつ消えていく時間。





ウォヌはソファに座り、

本を読んでいた。



ページをめくる音。



コーヒーの香り。



静かな時間。





そこへ。



チアキがリビングを通りかかる。



手には、

洗濯物。





「ウォヌさん、まだ起きてたんですか。」





ウォヌが顔を上げる。





「うん。」





「ちょっとだけ読むつもりが、止まらなくて。」





チアキは本を見る。





「それ、面白いんですか?」





ウォヌは表紙を見る。





「うん。」





「静かな話だけど、読んでると落ち着く。」





チアキは少し興味を持ったように近づく。





「どんな話なんですか?」





ウォヌは少し考える。





「人との距離の話かな。」





その言葉に、

チアキは少しだけ目を動かす。





でも。





深く聞くことはしなかった。





ただ。





「……ウォヌさんっぽいですね。」





そう言って笑う。





ウォヌは少し驚いたように見る。





「そう?」





「はい。」





チアキは少し考える。





「静かだけど、ちゃんと相手のこと見てる感じがするので。」





その言葉に、

ウォヌは一瞬だけ黙る。





自分でも気づいていなかった部分を、

自然に言葉にされた気がした。





胸の奥が、

ほんの少しだけ熱を持つ。





誰かに見抜かれることは、

いつも少し怖かった。





でもチアキの言葉は、

怖さより先に、

不思議な安心を残していく。





「……チアキって、そういうところあるよね。」





「え?」





「人の表面だけじゃなくて。」





少し間。





「ちゃんと中まで見ようとする感じ。」





チアキは照れたように笑う。





「そんなつもりはないですけど。」





「でも……。」





少し考えて。





「一緒に暮らしてると、なんとなく分かることってありますよね。」





その言葉に、

ウォヌは小さく頷く。





「うん、ある。」





その返事は短かったのに、

妙にやわらかく響いた。





言葉にしなくても伝わるものがある。





そう思えたのは、

この家で過ごした時間が、

少しずつ二人の間に積み重なっていたからだった。







本棚





チアキが本棚を見る。





「ウォヌさん、前におすすめしてくれた本、読みました。」





ウォヌが顔を上げる。





「本当?」





「はい。」





チアキは少し笑う。





「最初はちょっと難しいかなって思ったんですけど。」





「読んでみたら、思ったより好きでした。」





ウォヌは少し嬉しそうに笑う。





「やっぱり。」





「チアキなら気に入ると思った。」





その言葉に、

チアキは少し驚く。





「私の好み、もう分かってるんですね。」





ウォヌは自然に答える。





「うん。」





「一緒にいる時間、長いし。」





短い言葉。





でも。





そこには、

長い時間の積み重ねがあった。





チアキは少し笑う。





「……それ、ちょっと嬉しいです。」





その言葉のあと。





一瞬。





チアキは視線を落とし、

何かを飲み込むように息をついた。





そして、

ほんの少しだけ声を落として言う。





「私のこと、ちゃんと見てくれてるんですね。」





言った瞬間。





チアキが固まる。





「あ。」





ウォヌが少し笑う。





「今の、かなり素直だったね。」





チアキの顔が少し赤くなる。





「……忘れてください。」





ウォヌは首を振る。





「無理。」





二人とも小さく笑う。





その笑い声は、

大きなものではなかった。





でも。





静かな夜の404 HOUSEには、

十分に温かかった。





笑ったあとも、

すぐには会話が途切れなかった。





ほんの少しの沈黙があっても、

気まずさはなかった。





むしろその静けさが、

さっきまでの言葉をやさしく包み込んでいるようだった。





チアキは洗濯物を抱え直しながら、

どこか落ち着かないように指先を動かす。





ウォヌもまた、

本を閉じることなく膝の上に置いたまま、

チアキの横顔を見ていた。





近い。





そう思ったのは、

距離だけの話ではない。





さっきまでより、

少しだけ心の内側が近づいた気がした。





言葉にしたから近づいたのではなく、

言葉にしきれなかった部分まで、

互いに感じ取ってしまったからこそ、

二人の間に残る空気が変わっていた。





チアキはふと顔を上げる。





その視線が合った瞬間、

どちらからともなく、また小さく笑った。





それだけで、

胸の奥にあった緊張がほどけていく。





ウォヌは思う。





誰かとこんなふうに、

何でもない会話のあとに、

こんなにも静かに温かくなれることがあるのだと。





チアキもまた、

自分が今、少しだけ安心していることに気づいていた。





見られている。





でも、責められていない。





理解されている。





その感覚は、

思っていたよりずっとやさしくて、

少しだけ胸が苦しくなるほどだった。





スタッフカメラ





ウォヌを見る。





以前なら。





誰かに近づくことで、

何かを壊してしまうかもしれないと思っていた。





でも今。





誰かの好みを覚えること。



誰かの変化に気づくこと。



誰かと静かな時間を過ごすこと。





それは、

傷つけることではなく、

大切にすることなのかもしれない。





そしてその気づきは、

ただ頭で理解するものではなく、

今この夜のように、

誰かの笑顔や沈黙のぬくもりの中で、

少しずつ身体に染み込んでいくものだった。





【STAFF NOTE】



人を理解することは、

すべてを知ることではない。





過去も。



弱さも。



迷いも。





そのすべてを知った上で、

それでも隣にいること。





ウォヌはまだ、

過去を完全に乗り越えたわけではない。





でも。





404 HOUSEでの時間が、

少しずつ新しい答えを教えていた。





それは、

誰かを好きになることの始まりではなく、

誰かを大切に思うことを、

ようやく怖がらずに受け止められるようになる、

その途中にある静かな変化だった。





次回 Scene6

『変わり始めた距離』



静かな夜。


「昔は、近づかないことが優しさだと思っていました。」

「でも、この家では……少し違うのかもしれません。」






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