ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode40

『完璧じゃなくても』

― ありのままの自分を受け入れる。―

Day:Friday(共同生活40日目)



Scene1

『変わらないように』

Friday|Morning



404 HOUSE。



朝。



窓から差し込む柔らかな光。



キッチンには、

コーヒーの香りが広がっていた。



共同生活40日目。



いつもの朝。



いつもの景色。



ミンギュは、

もうエプロンを身につけている。



フライパンを温める音。



野菜を切る音。



味噌汁を温める湯気。



慣れた手つき。



けれど、その一つひとつに、

ミンギュはいつも以上に神経を張りつめていた。



失敗しないように。



焦がさないように。



味を外さないように。



誰かに「今日のご飯、いつもと違うね」と言われるだけで、

胸の奥がひやりとする。



完璧でいなければいけない。



そう思うたび、

肩に力が入る。



料理をしているだけなのに、

少しでも手順を間違えたら、

自分の価値まで崩れてしまうような気がした。



「おはよう。」



リビングへ入ってきたスニョンが、

眠そうに目をこする。



「おはよう。」



ミンギュは振り返って笑う。



その笑顔も、

何度も鏡の前で練習してきたものだった。



疲れている顔を見せないように。



不安を悟られないように。



いつも通りの自分でいるように。



「もうすぐできるよ。」



「助かる。」



スニョンは冷蔵庫から水を取り出し、

自然にコップを二つ用意する。



「スングァン、起きてる?」



「まだ寝てる(笑)」



そんな何気ない会話。



そこへ、

チアキがキッチンへ入ってくる。



髪を軽くまとめ、

まだ少し眠そうな表情。



「おはようございます。」



ミンギュが笑う。



「おはよう。」



「今日も午後から?」



「はい。」



チアキは冷蔵庫から牛乳を取り出す。



「何か手伝う?」



以前なら、

「大丈夫ですか?」

と遠慮がちに聞いていた。



今は違う。



自然に、

いつもの調子で聞けるようになっていた。



ミンギュは首を振る。



「もう終わるから。」



本当は、

少しだけ手伝ってほしい気持ちもあった。



でも、

そう言ってしまえば、

自分がまだ余裕のないことを認めるようで怖かった。



頼ることは悪くない。



頭では分かっている。



それでも、

「できる」と言い続けてきた自分は、

簡単には崩せなかった。



「じゃあ、お皿出すね。」



「ありがとう。」



チアキは棚から人数分の皿を並べていく。



二人とも、

言葉は少ない。



でも、

動きはよく合っていた。



その様子を見ながら、

ミンギュは少しだけ息をつく。



誰かと自然に並んで作業できること。



それだけのことが、

こんなにも救いになるなんて、

昔の自分は知らなかった。



「味見して。」



ミンギュがスープを差し出す。



チアキは一口飲む。



少し考えてから、

笑う。



「美味しい。」



「よかった。」



短いやり取り。



それだけなのに、

どこか安心する空気が流れていた。



ミンギュはその「よかった」を口にしながら、

胸の奥で小さく安堵する。



今日も失敗していない。



今日も、期待を裏切っていない。



そう確認できた瞬間だけ、

ほんの少しだけ呼吸が楽になる。



Dining Room



メンバーが少しずつ集まってくる。



「いただきます。」



「いただきます。」



朝食が始まる。



スングァンがスープを飲みながら言う。



「やっぱミンギュのご飯うまい。」



ジョンハンも頷く。



「毎日これ食べられるの幸せだよね。」



スンチョルが笑う。



「本当に助かってる。」



ミンギュは照れたように笑う。



「そんな大したことじゃないよ。」



「みんなも手伝ってくれてるし。」



いつもの返事。



いつもの笑顔。



誰も違和感を持たない。



でも。



昨日のスタッフインタビューを知っている視聴者だけは、

その笑顔の意味を知っている。



「何でもできる。」



そう言われ続けてきた人。



期待に応え続けてきた人。



失敗を見せないように、

笑い続けてきた人。



本当は、

その言葉が嬉しいだけではなかった。



褒められるたびに、

もっと完璧でいなければと思ってしまう。



少しでも弱さを見せたら、

今まで積み上げてきたものが壊れてしまう気がする。



だから笑う。



だから平気なふりをする。



だから、誰よりも先に「大丈夫」と言う。



その笑顔の裏にあるものを、

カメラだけは知っていた。



Entrance



出勤の時間。



「行ってきます。」



「気をつけて。」



「行ってらっしゃい。」



いつもの朝の挨拶。



ミンギュも鞄を肩に掛ける。



その動作ひとつにも、

乱れがないように見せたかった。



玄関を出る前に、

もう一度だけ深く息を吸う。



今日も完璧に。



そう自分に言い聞かせるたび、

胸の奥が少し痛む。



完璧でいようとするほど、

本当の自分が遠くなる。



それでも、

止まることはできなかった。



チアキが玄関まで見送る。



「今日もお仕事頑張ってください。」



ミンギュは笑う。



「チアキもね。」



少し間を置いて、

空を見上げる。



「今日は天気いいね。」



チアキも外を見る。



「うん。」



自然に出た返事。



一瞬だけ、

二人とも顔を見合わせて笑う。



チアキは少し照れたように視線を逸らす。



まだ、

男性相手に自然なタメ口が出ると少し恥ずかしい。



でも、

その照れた表情さえ、

もう404 HOUSEでは当たり前の景色になっていた。



「じゃあ、行ってきます。」



「行ってらっしゃい。」



玄関のドアが閉まる。



チアキはその音を聞きながら、

小さく息をついた。



今日も、

いつもと同じ朝。



でも、

その「いつも」は、

40日かけて、

11人で作ってきたものだった。



【STAFF NOTE】



変わらない朝。



変わらない笑顔。



でも、

その笑顔の意味は、

昨日までとは少し違う。



本当の自分を隠してきた人も。



その隠れた弱さに気づく人も。



404 HOUSEでは、

少しずつ増えていた。



次回 Scene2

『ミンギュの仕事』



仕事現場。



誰からも頼られる存在。



その笑顔の裏には、

まだ誰にも見せていない自分がいた。




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