【02 午前6時 ーなまえー】
いつからか、彼がいる時はアラームが鳴る前に目が覚めるのが習慣になっていた。
…眠たい……。
正直低血圧で朝が強い方では無い。
でも社会人になればそんな事なんて言ってられない。
彼を起こさないように、そっと腕から抜け出しコーヒーを入れながら身支度を始める。
とは言っても、髪の毛をブラッシングして邪魔にならないように1つに括って、日焼け止めと淡く色付くリップを塗って終わりなんだけど。
朝食用のサンドイッチを用意したあと、いつものように彼を起こす。
「起きてください。帰りますよ。」
ゆさゆさと体を優しく揺すると、んーと言いながら伸びをして大きな目がゆっくりと開いた。
「…なまえ、おはよう。」
「おはようございます。」
上半身を起こし枕元に置いたスマホで時間をチェックする彼は、寝不足だと言うのに今日もイケメンだ。
「用意してから行きますか?それともこのまま出ますか?」
「んー、向こう着いてもそんなに時間ないし用意してく。」
「分かりました。タオル用意しますね。」
洗面所に行こうと彼に背を向けた瞬間、腕を引っ張られ気付いたら抱きしめられていた。
「ちょっ、ミンギュさん!」
「…まだ2人っきりなんだから敬語もさん付けもやめてよ……。寂しいじゃん。」
本心なのかどうかなんて私には分からない。
だけどその表情は本当に少し寂しそうにも見える。
「…ごめん。」
「それだけなまえが真面目ってことなんだけどさ、2人っきりの時だけは、みんなのなまえじゃなくて俺だけのなまえでいて。」
“みんなのなまえじゃなくて、俺だけのなまえでいて”
彼の言葉が頭にこだまする。
私はいつだってあなただけのもの…。
でもそんな事言ってあげない。
私だけ愛してるなんて、そんなの嫌だから。
だから、この気持ちはあなたへの強い想いは、何としてでも隠し通すよ。
「なまえ…」
「ん?」
「大好きだよ、なまえ…。」
私もだよ、ミンギュ…。
アイスアメリカーノを飲み、パンを食べながら彼の用意が終わるのを待つ。
「終わったよ!って俺も食べたい。」
「だめ、あとでね。コーヒーだけで我慢して。」
彼にアイスアメリカーノを渡すと、一口だけと私の食べかけのパンを横から頬張る。
急に顔が近くに来て、思わず鼓動が高鳴った。
「美味しい!ってなまえ耳まで真っ赤、可愛い。」
「もう!行くよ!」
そう言って立ち上がる私の腕をまた引っ張る彼の表情は、2人きりの夜に見る男の表情。
「俺は照れてるなまえ好きだよ、可愛くて。」
「あ、ちょっ、んっ…」
彼の唇が重なって、一気に甘い雰囲気になる。
「ねぇ、まっー…」
「待たないよ。」
舌を絡ませながら、さっき着替えたばかりの服を脱がせようとするミンギュの手を掴んで止めると、不機嫌そうに眉を顰めて私を見る。
「遅れちゃうから…」
「んー、今日はなまえの手料理が食べたいから、終わったら来るね!約束!その時に俺の言うこと聞いてね?」
言う事?
今日と言わず、どちらかと言えば毎日私は彼の言うことを聞いていると思う。
「うん、分かった。」
だから、深く考えずにそう応えた。
「おー!楽しみにしとこ!行こっか。」
「うん。」
ミンギュはサッと自分と私のカバン、そしてサンドイッチが入ったバスケットを持っていく。
「自分のは自分で持つよ!」
「まだ俺のなまえだからいいの。これくらいさせて。」
俺のなまえか…。
「うん、ありがとう。」
車を走らせミンギュを送り届ける。
この時間は車も少なくて走りやすい。
「俺も前乗りたい。」
「後でね。」
ちぇっと拗ねるミンギュは、みんなが知ってるミンギュそのものだろう。
セキュリティーを通り、地下の駐車場に車を入れる。
「到着です。」
「ありがとう。」
ミンギュが降りるのを確認してから忘れ物がないか確認する。
「じゃあ8時に迎えに来ます。」
「うん!また後でね、なまえ。」
開けた窓からチュッと唇にキスをする彼。
「ちょっ、誰か見てたらどうすんの?」
「居ないよ!じゃあ後でね!」
悪戯に微笑みながら、地下のセキュリティーゲートを通るミンギュの姿が見えなくなるまで見送り、再び車を出発させて会社へと車を走らせた。
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