「ククッ、これでガラス強化スプレーの実績が積めたぜ。まぁ、なじむまでの時間は要改善だな。半日経ってんのにヒビ入ってたら意味がねェぜ。
 ったく、直近で強盗が入りそうな店探すのも、実験に漕ぎつけるために不良に絡まれるのも楽じゃねーなァ」

 雇ったわけでもねぇただのチンピラとはいえ、小学生のガキにマジになるとは想定以上のクズだった。ちょっと煽った程度、しかも事実しか言っていないのにおかしな話だ。
 しかし、ついでにスタンガンの調整も出来たことだし馬鹿な不良の馬鹿な行いには目をつぶってやろう。馬鹿なんだから仕方がねェ。生体実験出来る機会なんざ然う然うあるわけじゃないしなァ。クーックックックック。

 電気も点けない暗い部屋の中で、唯一の光源であるパソコンの前を陣取りニヤリと笑う。成果は良し悪しで言えば良し。こいつは笑わずにはいられねェぜ。
 また笑いが込み上げそうになる中、ガチャリとノックもなく開いたドアと、容赦なく点けられた天井照明に顔を顰める。急激な明るさの変化に対してはもちろんだが、ほぼ毎日と言っていい頻度で訪れる問答無用の来客にいい顔が出来るわけがないだろう。

「こんな暗い中でパソコンいじるなって何度も言わせんな。また視力が下がるだろ」

 まるで母親のようなセリフを吐きながら部屋に入ってきたのは、家が近所だからとほぼ毎日のようにやってくる過保護な幼馴染みの九井一だ。学校がある平日なのに制服ではなく私服なのを見るに、わざわざ一度帰宅して、着替えた後にここに来たらしい。呼んでねェし来なくていい。俺の渋面に、ハジメは楽しそうに笑って舌を出す。
 階下から本当の母親が声を掛けてくるが、ハジメはお構いなくと言葉を返して部屋のドアを閉めた。

「今度は何作ったんだ?」
「企業秘密だ、覗くなよ」

 当たり前のように画面を覗き込んでくるも見せる筈がなく、画面は黄色いウズマキ柄のデスクトップを映すだけだ。ケチだなと言うが、オマエも自分の金ヅルの情報漏らさねェだろ。
 とくにそれ以上詮索はされず、ハジメは本棚から適当に漫画を取りベッドに座る。何も喋らずペラペラとページを捲るコイツは一体何をしに来たのだか。これといった用事も無いなら、こうも毎日うちに来なくていいんだがな?また何かやらかさないか監視のつもりなんだろうが、そこは既に何度かやらかした後だしょうがねェ。
 何か言ったところで帰るわけも来なくなるわけでもない。無駄なことは言わず、勝手に寛がれるなら俺も勝手に作業を続けるべくパソコンに向かう。出来ることが“見られても困らない”ものに限るのが多少面倒だ。
 意識を作業に向けたところで、ハジメから「なぁ」と声を掛けられた。タイミングの悪さに少しイラついて、返す言葉が低く素っ気無いものになるが振り返ってやるだけ優しいだろ。

「なんだ」
「赤音さんがお前に会いたいって言ってる」
「やなこった」
「なんでだよ。赤音さんだぞ」

 逆になんでだよと言ってやりたいのは山々だが、ハジメは本気で、赤音さんが会いたいと願うなら会うもの、と考えているから突っ込んだところで意味は無い。代わりに長く深く溜め息を吐いてやれば不機嫌さは伝わったらしく、少しバツが悪そうに視線を逸らされる。

「赤音さんも、それにイヌピーも、オマエに礼がしたいんだよ。あんな火事に遭ったのに二人とも無事なのはオマエのお陰だ。なのにオマエが素直に受け取らねーから……」

 肩を落とし、とても深刻そうに、悲しそうに訴えるハジメの姿は一般的には同情を誘うだろう。乾姉弟が言うには背景にしょげた猫の姿を見るらしいが、俺の目は正常なのでそんな幻覚が見えることはない。
 そんなハジメの姿に思うことは、もう十分受け取っただろ……というげんなりしたものだ。
 あの姉弟ときたら俺を構いたくなると毎度毎度ハジメを使って呼び出してくる。ハジメはあの姉弟に弱いからいいように使われやがるし。いやあの姉弟も本心から俺に礼がしたいまだまだお礼しきれないもっとお礼がしたい!という気持ちで誘っているのは分かっちゃいるんだが、如何せん頻度がエグイ。最近は素気無く断り続けているからか毎日来る。ハジメが。もう三年も前のことだろ勘弁してください……。
 おっと疲れて“素”が出てきたぜヤバイな。

「……来週なら空けといてやるよ」
「! ああ、赤音さんに伝えとく!」

 面倒ゆえの返答だったが、途端に表情を明るくし、いそいそと携帯電話を操作し件の人物へ連絡を取り始める。普段気取ってるくせにたまに年相応の顔するよなオマエ……。
 これで用件も終わっただろうし早く帰らねェかなと様子を見たが、あろうことかベッドに寝転んでさらに寛ぎ始めた

 ……いや帰れ???

 頭を抱えたくなるが“らしくない”ので寸でのところで堪えた。耐えた俺は偉いので誰か褒めてください切実に。

 ここまででまぁお分かりとは思うが、なんか色々おかしなところがあるものの俺は成り代わりというものをしている。
 普段は中と外で差異があり過ぎると疲れるから言動も思考もそれっぽく振舞っちゃいるが、“クルルらしく振舞う”のは度が過ぎると気疲れする。疲れてくると思考に“素”が出てきて、それがいつ表に出てしまわないかと不安になってさらに疲れる。でも俺はクルルだから“素”が出るとかマジムリ。
 でもさァ〜〜、「陰気」・「陰湿」・「陰性」・「陰険」・「陰鬱」ってどれだけ陰に生きれば気が済むの?確かにそこまで善人な性格ではないけれど、陰の気を放つにも限度があるんですがァ?
 はぁ、どうしてこんな目に……。

_ _ _
 それもこれも始まりは5歳。
 元々はただの一般peopleだったはずが、なんか知らんけど小難しい科学雑誌を読んでいる幼稚園児になっていた。こんなん読んだって俺に分かるわけがない!……いや分かるわ。わけ分かんないけど分かる。
 どういうこと?と考える時間も惜しく、今までなら難しくて理解できないどころか目に入った時点で入眠しそうな小難しく分厚い本を色々読んで頭に詰め込んだ。まるで水を吸うスポンジのように頭に入っていく知識、知識、知識。ヤバイ、凄い、楽しいィ……!

 そして脳がオーバーヒートして寝込んだ。
 寝込んでいる間、脳がぐるぐると勝手に現状処理してくれたらしく色々なことが分かった。
 俺の名前は子安 久留々(こやす くるる)。見た目は金髪に茶色い目をした幼児。性格はすでに『嫌な奴』と周囲に認識されているらしい。そんなこの体の素地はあのクルル曹長だ。転生やら成り代わりやら擬人化やらの単語が浮かぶ。理解の早いオタクでとても助かるぜ。意識せずとも言動・口調は自然とそっちに寄っている。まぁ普通に笑ってクーックックはなりませんわ。

 回復した後、俺はベッドの上で考えた。
 これから俺はどうするべきか。ここはガマ星雲第58番惑星ケロン星ではなく局部超銀河団おとめ座銀河団局部銀河群銀河系オリオン腕太陽系第3惑星地球だし。長ェな。
 俺はスペックにクルル曹長の能力を貰っているようだけどケロン人じゃないただのペコポン人、地球人だ。どういうこっちゃ。
 クルル脳が原因究明、というかただただ知りたがっている。どっかに俺と似たような状態のケロロ達がいたりするんだろうか?この世界って何なんだ?俺脳は面倒臭がりなのでそんなんどうでもいいでしょと言っている。そんな事より本が読みたい。思考の方向が二種類あるのはそういうものと受け入れ済みである。
 う〜〜〜ん……。どうでもいいから本を読もう。俺脳の勝ち。

 とりあえず本を読んで本を読んで。いっそ幼稚園なんて行かなくてもいいかと引きこもって読書ライフ決め込んでいたら、心配した両親が近所の子どもを召喚した。
 それが二歳上の九井一である。
 母親に紹介されて爬虫類系のイケメン面してんなと思っていたら、「何この陰気なガキ」と言われて戦いのゴングが鳴った。クルルの腕力はクソ雑魚で結果は火を見るより明らか。互いにハジメ・クルルと呼び合うようになったことぐらいが唯一の成果だ。
 散歩を嫌がる犬と飼い主の攻防をハジメとするようになった。

 殴り合いなんぞ二度としないが負けたままじゃいられねェ、と始めたのは、有り余る知能を総動員しての武器、もといモノ作り。身体鍛えて殴り返すよりは効率がいい。しかし思った以上にモノ作りにハマってしまい、当初の目的を忘れてひたすら色んな物を作り続けた。ハツメイタノシイ……。
 出来上がった物をハジメに見せると、反応は素直に褒める「すごいな」か困惑しながら褒める「す、すごい、な?」かの二パターン。素直に褒めてくれる物は俺脳でも理解できる物で、困惑するものは俺脳では理解できないがクルル脳であれば分かる物だ。俺も出来上がった当初は困惑したが、最終的にクルルだしなで納得した。

 作っても作っても創作意欲は沸き続ける。俺脳もクルル脳も大忙しだ。
 ときたまネットの住人に案を貰ったり、有償で注文を受けたりもする。無から有が生まれないのは真理。物を作るのにお金は必要だよなァ。
 中にはどこかの馬鹿にふざけてビームサーベル欲しいなんて言われ、ストップをかける俺脳を無視してクルル脳が興に乗り張り切ったが為に出来上がってしまったこともある。

「やべぇだろ、これ」

 いつものサイクルとしてハジメに見せたら、起動させたビームサーベルと実際に斬られた丸太を見てそれしか言われなかった。そうだよな、俺もヤベェと思う。
 当然、間違っても起動しないように処理してからお蔵入りだ。
 俺が小学一年生、ハジメが小学三年の事である。

 それからもモノ作りは続けていき、個人的趣味の物から世の為人の為になりそうな物、はたまた行き過ぎた性能のせいで即刻お蔵入りする物を大量に作り出していった。
 作って作って、楽しさを堪え切れずクククと一人笑いながらもさらに作り続けて、気が付けばまた引きこもっていた。
 そして心配したハジメがオトモダチを召喚した。乾青宗である。
 ハジメに紹介されながらお綺麗なツラしてんなと眺めていたら、「暗そうなヤツ」と言われたので戦いのゴングを高らかに鳴らした。負けるのは当たり前に俺。体力面で何の努力もしていない引きこもりとしては当然の結果でしかない。だから殴り合いなんぞ二度としないとあれほど……。

「ハジメはセイシューの姉が好きなのか。ほォ〜ん」
「なんっ!?……イヌピーっ!」
「別に口止めされてねぇ」

 今回の成果はハジメの弱みが握れたことと、セイシューが友達になったこと。真っ赤な顔して怒鳴るハジメは初見です。幼馴染みとはいえ年上のプライドでかっこつけてる所もあったんだろうけど、これで無駄になっちまったなァ。
 自分の姉とトモダチのことなのに、セイシューはあまり興味が無いらしい。いつの間にやら持ち込んだ漫画をペラペラめくって素知らぬ顔だ。
 なので代わりに俺が散々に揶揄ってやったら、一周回って開き直った。めちゃくちゃに惚気やがる。こうなると分かってたら揶揄わなかった……、ことも無いな。クルルも俺も目先の楽しいことが好きだから、分かっていてもきっとちょっかい出してただろうな間違いなく。

 美人過ぎて不審者に狙われないか心配、とたびたび惚気つつも愚痴るので、モノ作りもひと段落して手が空いていたのもあって防犯グッズを作成して差し上げた。
 見た目が無骨じゃ女子受けが悪かろうとサ○宝石あたりを見本に作ってみたら、出来上がったのは我ながらファンシーなくまのマスコットキーホルダー。見た目は可愛いが、GPSの搭載はもちろん、尻尾を引っ張れば防犯ブザーが鳴るし、思い切り腹を押せば口から辛み成分を含んだスプレーが噴き出る。途中からクルル脳も腕を振るったもんだから、その他諸々普通ならこのサイズに収まらないだろう機能が満載だと思う。たぶん自立起動とかする。さすがにビームは出さんとは思うけど。
 バレたらハジメに怒られるだろーなァ、と予想しつつも俺が理解できる範囲だけを説明して渡した。ハジメは喜んでいたし、セイシューの姉からも可愛いと好評だったようなので良しとする。バレなきゃいいんだバレなきゃな。
 ちなみに俺機能だけ付けた物を量産したら世の中でバカ売れした。

 こんなご時世だからか、防犯関係はよく売れるのは理解したので結構な種類を作ってネットで売っている。試作品は大体ハジメやセイシューに渡すが、それらすべてが自動的にセイシューの姉に集中するらしい。ホントお前ら……。まぁ、そうなると分かった上で渡してる節もある。

 だからさ、燃える家屋の中から乾姉弟がぬいぐるみ数体に運ばれて救助される、なんてファンシーな出来事が起きても仕方のないことなんですよね。……ね!
 目撃したハジメは宇宙猫と化したらしいが知ったことじゃない。我に返って即行俺の家にカチコミに来たらしいけど、ちょうどよく母方の実家の法事で留守にしていた俺の知ったことじゃない。鬼の形相で玄関チャイムを連打してたのは、ご近所さんから教えてもらった母親経由で後々知った。
 俺が自宅に帰ったのは諸々落ち着いた頃の一週間後。帰宅時、偶然出くわしたハジメに挨拶するより早く一発ぶん殴られたのは根に持っていいと思う。色々な心情がひっちゃかめっちゃかになった結果だとしても、泣きながら感謝しながら殴るってどうですかね???今度は俺が宇宙蛙顔をさらす番だった。

 感謝ついでに紹介されたセイシューの姉は、確かに美人だった。男二人と違って暗そうとか言わなかったところはポイントが高い。ただし仲良くできるかは別問題だ。脳内クルルの拒否反応が凄い。

 先日の火事で程度の差はあれど乾姉弟はどちらも火傷を負ったらしく、現在の医療ではどうしても痕が残ってしまうとハジメに聞いた。出来て皮膚移植というが、それだと体の別の所、背中だとか尻だとかの皮膚を切り取って移植するはずだ。治す為とはいえ女の体にあんまりメス入れたくねーな、と脳内クルルと相談したところ、多分クルル特性塗り薬でどうにか出来る結論に至った。科学も化学もいけるとかさすクル。今は俺がクルルだから、さす俺。
 でも見知ったばっかのガキから貰った薬を疑いもなく使うのはどうかと思うぜ?
 セイシューにもあげたけど、なんか流れ作業みたいに乾姉に回っていった。オマエが良いならいいけどよ。そんなだから、乾姉の火傷はすっかり綺麗に消えたのにセイシューの顔の火傷はそのままだ。うん、ハジメがどんなに勧めても断り続けるオマエが良いならいいけどよ……。

_ _ _
 6年分の短いような長いような回想を終えて現状に戻る。
 目の前のパソコンには意味をなさない何かが打ち込まれていて無言で削除していたら、行き過ぎて必要な部分まで消してしまった。思わず舌を打つのも仕方がない。

 思い出しついでに何だが、そーいえば何で俺はあの時ハジメに殴られたのか?
 当時は理解が追い付かなくて無様に間抜け面晒したし、やり返す前にうちの父親が止めに入ったから一方的に殴られて終わった。一晩経ったらまるで昨日のことが無かったみたいにハジメからセイシューの家の火事の話をされて、感謝されて、もうなんかどうでもよくて、あーハイハイって聞いたけど。
 俺のモノのおかげで乾姉弟助かったんだよな?感謝しかないよな??助けてくれたのがぬいぐるみの群れっていうファンシーさがダメなの???
 話を聞く限りハジメが火事に気が付いた頃には結構な勢いで火の手が回っていて、中に二人が残っている状況なのに未だに消防車も到着していない状況。そんな中で、仮にハジメが動けたとして家の中に突っ込んで行って、三人揃って無事に生存できた確率はどう甘く見積もっても低いだろう。小学生が同じ年の男と年上の女を背負って無事に脱出できるなんて、絵空事にも程がある。出来て姉弟のどちらかしか助けられず、ハジメも助かった方も、助けられなかった奴に対して一生罪悪感を背負いながら生きていたに違いない。はぁ〜〜、暗っ。
 そんな暗過ぎる未来よか、ぬいぐるみに助けられるファンシーさの方が良いだろ?
 ほんと、なんで殴られたのか全く分からない。分かる奴いる?いないよな!?きっとハジメに聞いても、悩みはするけどどうしてその行動に至ったのかの答えは不明で終わると思う。今更蒸し返すのもアレなのでこどもの癇癪ってことにしておくが、ハジメは優しい幼馴染様に感謝すべきだよな。

「なぁ、これの続きどこだ」
「本は全部同じ棚だ。そこに無ェなら無ェ。もしもあるならセイシューが持って帰ったんだろうな」
「イヌピーか。あー、いいとこで終わってんだけど……」
「残念だったなァ。気になるならいつまでも俺の監視なんかしてねーで、セイシューの所に行きやがれ」
「ちょっと息抜きに来てるだけだろ?監視なんかしてねーヨ」
「…………(マジかよ)」

 話し掛けてくるハジメを適当にあしらいながら、最後の返答にだけ振り返り表情を見る。キョトンとした顔は嘘を吐いてるようには見えず、今まで無自覚だったのかよ質が悪ィなと顔を顰めた。コイツは嘘を吐くなら笑うか真顔になるタイプ。ついでにセイシューは挙動不審になるタイプだ。

 まぁ自覚が有ろうが無かろうが、あのファンシー火事事件以来、ハジメは俺に対して監視のような過保護のような過干渉のような、まぁそんな感じになったと思っている。

 最初は時間の都合がつく限り、俺のモノ作りの見学という名の監視をし始めた。
 ぬいぐるみの集団が火事場から子ども二人を救出する場面は俺のモノ作りを見慣れているハジメから見ても衝撃が強すぎる光景だったのだから、見慣れていない野次馬からすればそれはもう受け入れ難いものだったようで。後から到着した消防士に説明しても集団幻覚として処理されてしまうような内容だったらしい。「とてもファンシーな幻覚じゃねーか」と爆笑したら「誤魔化すのが大変だったんだぞ」と叩かれた。グーではなくパーなだけまだ優しい。取りあえずこれ以上常識外のモノを作らせたくないという意思は伝わった。
 しかし見ていたところで、俺作の物は途中で止められるだろうがクルル作の物は気が付けば出来上がっているヤバいモノなのでどうしようもない。出来上がった後のハジメの引き攣った顔は何度見ても笑える。
 試運転にもついてきた。対人の物はまずは誰かしらにケンカを売るところから始まるから、俺が不良にケンカを売るのを最初は茫然としていたが途中から羽交い絞めで止めてきてとても邪魔だった。それでもハジメの目をかいくぐっていれば、助っ人としてセイシューも狩出してきた。尚も止めずにいれば、セイシューの姉まで出してきて「子どもが危ないことしちゃいけません」と正座で説教だ。
 当時小4の俺が子どもであることに異論はない。大人しく聞く俺を、ハジメとセイシューは珍しそうに見ていた。

 まぁ、今回みたいに知らん顔でやらかしちゃいるんだが。

 そしてこれが悪化の一番の原因だろうが、ハジメとセイシューの目の前で拉致られたことがある。気が付いたら解決して家にいたから事の顛末は知らないが。どーせクルル様の天才頭脳が目当てだったんだろ。知らねェ知らねェ。
 一応詳細を確認しようと訊いてみたこともあるが、ハジメはその話を振った途端に「力が欲しい」とか「金が力」とかブツブツ言い始めるわ、セイシューは威圧感出しながら引っ付き虫になるわでとても面倒臭いことになった。両親にも念の為聞いてはみたが「何も心配ないからいっぱい色んなものを作りましょうね」と満面の笑みで言われるばかりで案の定何の役にも立たねェ。まぁ今のところ俺は何事も無いので良しとする。未来は知らんけど。
 お陰様であれからハジメは何かビジネスを始めたらしいしその金を使って俺の周りに人を置いてたりするが即行で撒いてやるし、セイシューはケンカしたり暴走族と知り合ったり暴走族になったりと忙しそうだ。知らんけど。

「おい」

 唐突な耳元での普段より低音の呼び掛けに肩が跳ねる。
 怖ッ、怖ッ、怖ッ。いつの間に近付いて来ていたのか知らないが、急な接近と近距離の声は怖ェ!椅子から落ちなかっただけ俺は偉い!
 バクバク鳴る心臓を落ち着かせていると、ハジメが襟ぐりから見える首元に触れる。鈍い痛みを感じて「あ、やべ」と原因を思い出したが遅かった。

「この痣なんだ?」
「あァー……、たしか体育の時間にボールがぶつかった」
「本当か?」
「嘘ついたところで意味が無ェだろ」

 嘘です不良に蹴られた時についた痣です。
 他に目に入るような場所に怪我も痣もなく、着ていた服は洗濯済で、汚れたランドセルも拭いて綺麗にしたから物的証拠は残していない。怪我は下手にガーゼなんか貼った方が目立つと思って何もしてなかったが、今回は下策だったらしい。今後は場所によっては化粧で隠した方が良さそうだ。
 パソコンと向き合ったままの俺に、ハジメからの視線が刺さる。騙されろ騙されろ騙されてください。
 しばらくジロジロと観察される。蛇に睨まれた蛙の気分だ。しかし意地でもそちらは見ない。見た瞬間に俺の自由が終わる気がするので。

「結構エグイ色だぞ?オマエただでさえ傷目立つんだから気を付けろよ」
「分かったから触るんじゃねぇ。作業の邪魔だ」
「誤魔化されてやろうとしてんのに冷てぇな。イヌピーにも伝えとくか?どうなるか楽しみだな」
「シャレにならねーからやめときな。誤魔化すも何もホントの話だ」
「……そういうことにしといてやるよ」

 マジでやめろと本気で思う。笑ってられねェからな?アイツが警察のお世話になりそうにな奴らと関わってること知ってるからな?
 気付いたからにはと甲斐甲斐しく手当てをされる。と言ってもそれなりに時間が経っているものなので、することと言えば湿布を貼る程度だが。やりたいようにやらせておけば満足するので大人しくやらせておいた。
 でも無言で背中捲って他を確認するのはやめろ寒い。

「しつけーな。俺に構ってる暇あるくらいならさっさとセイシューの姉とデートでもしてきやがれ」
「……っは!?ばっ、赤音さんとは、別に、そんっ、クルルには関係無ぇ!」
「あーはいはい。関係無ェよ。椅子蹴んなバカ」

 あからさまに狼狽えて顔を真っ赤したハジメがげしげし椅子を蹴ってくる。だってお前ら見てるとイラつくんだよ。ハジメが告ったのは知ってるが、下手に“大人になったら結婚”とか言うからそれまでの間がモダモダモダモダと。クルルのガワじゃ無かったら、くそっ……じれってェな。俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきます、を行動に移していた所だ。逆にクルル脳活用して○○しないと出られない部屋でも作ってやろーか?
 しばらくガツガツグラグラと座っている椅子に八つ当たりされたが、疲れたのか落ち着いたのか、ハジメは床に両手両膝付けてうつむいた状態で息を整えている。普段よそで見せている余裕綽々と大人ぶった姿が嘘みたいだな。
 作業する気分もどこかに飛んで行ったので、椅子に逆向きに座り背もたれの上で腕を組んで顎を乗せる。見下ろした先のハジメの耳にピアスがあるのを今更知って、いつからしてたのか考えるも思い出せない。まぁどーでもいいかと思考を放棄するのと、ハジメが顔を上げたのは大体同じタイミングだった。

「そういえば、オマエの進学先おしえられてねーんだけど。どっち」
「二択かよ」

 その二択はどうせ、ハジメが通う中学校かセイシューが通う中学校かの二択なんだろう。ちょっと期待している様子なのは、俺の頭の出来から考えてハジメの学校の方が成績的に合っているからに違いない。
 少し考えて、まだ考え中と返しておく。早く決めろとせっつかれても、のらりくらりとはぐらかしておいた。

_ _
 数か月後。
 二人と全く関係の無ェ中学の制服と校章を見せ付けて、信じられねぇと衝撃を受けて固まる二人を見て高笑いした。
 俺は一言も、幼馴染様達と同じ学校行くなんざ言ってねェよなァ!


***
 中学でケロロ達と再会して今までにないくらい楽しそうなクルル、を見たココとイヌピーに追い打ちでショックを受けてほしい。

_ _ _



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