―――“彼女”がそれを察知したのは、ある穏やかな日の昼下がりだった。



ガシャアアアアアン!



突如本丸内に響き渡ったけたたましい破壊音に、一瞬で空気が張り詰める。
昼食後のどこか緩んだ空気を一瞬で張り詰めさせたその音に、近場にいた刀剣男士達は一斉に現場へと駆けつけた。


「―――大将!何があった?!」
「主さん!無事か!?」


ダン!と力強く床を踏みしめ、真っ先に駆けつけたのは審神者の懐刀の一振である短刀・薬研藤四郎だ。
次いで初鍛刀にして護刀の役目を担う短刀・愛染国俊。
二振は衣装こそ内番服ではあるが、その手には不測の事態に備えて既に抜き身の本体が握られている。

そして、彼女は。
この本丸の審神者にして刀たちの女主人たる天満月―――望月シアは。

硬い木の床に叩きつけられ、粉々に砕けた気に入りの花瓶の破片を見下ろしながら、そこに呆然と立ちすくんでいた。


「…大将?」
「主さん…?」


常日頃の彼女にしてみれば、有り得ないほど隙だらけなそのさまに、短刀二振が怪訝そうに彼女を見やる。
そんな彼らの後ろからは、少し送ればせながら他の刀剣たちも次々と到着していた。
「主!どうした!?」「無事か?」だんだんと騒がしくなる周囲の声も様子も届いていないように、シアはただただそこに立ち尽くしていた。
後から来たもの達は、先に到着していた薬研と愛染にどうした、何があったとたずねるも、彼らが到着したときからなんら状況は変わっていない。
…取りあえず、敵襲ではなさそうだとだけ判断した刀剣たちは、視線だけでやり取りをした後、それぞれの手の中から本体を消した。

では、一体どうしたというのか。


「―――主」


ふわり。赤い襟巻きが、男士らの視界の端を掠めて、主人のほうへと近づいていく。


「主」
「っ、」


そ、と彼が柔らかくシアの肩をつかむと、そこで初めてシアの瞳が揺れた。
作り物のように固まっていた碧色が瞬き、桜色の小さな唇がはくりと開閉する。


「え、あ…清光?」
「どうしたの、主。花瓶割っちゃった?」
「へ、花瓶…あれ、ぼく、花瓶落とし…あれ、みんなも…」




















あの子マスターが、ブラック本丸にいる」


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