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「ほいほいチャット。頼まれてたオタオタゼリー、とってきたぜ」
「あぁ、ありがとうございますレインさん。今日はもう依頼はないので、休んでくださって構いませんよ」
「あいさー」


どさ、と籠一杯に入ったオタオタゼリーをカウンターの上に置く。
何に使うのかは知らないが、多分パニールあたりからの依頼なんだろう、と勝手に推測しておく。
名義はチャットからになってたけど。


「うが〜ッ!ヒマッ!暇にも程があるってのよっ!」
「おおぅ?イリアがヒステリー起こした!」
「るっさいわね!」


たまたま機関室に居合わせたイリアが、頭をかきむしりながら地団駄を踏む。
睨まれたがそこは笑顔でスルーしておいた。
一緒にゼリー集めを手伝ってくれたリッドもそれに賛同し、溜め息をつく。


「だよなぁ。せっかくギルドを立ち上げたってのに、大した依頼はやって来ないし」
「でっかい依頼が来たら、それはそれでやんねーだろお前ら」
「そんなことないわよ!ちゃんとやるわよ、ルカが」


ルカがやんのかよ。
その場にいた全員の視線が、全く同じ意味を含んでイリアに向けられる。


「な、なによ…」
「はぁ…せっかくこのバンエルティア号も受け継いだというのに…」


イリアがたじろいたのをスルーして、チャットが深い溜め息をつく。


「このままでは、ご先祖の勇名が泣いてしまいかねません!…さっさと名を上げなければ……」
「いやいやチャット。名ってのはさ、一気に上がるもんじゃあないと思うぜ?」
「フン、本気で言ってるのか?」


本を片手に持ったキールが、呆れたような表情をしながら機関室に入ってきた。


「出たな、暇人」
「暇人なもんか!論文作成に忙しいと、何度言ったらわかるんだお前は!」
「書いてるとこ一度も見たことないぞ!」
「だ、黙れ!今ちょっと詰まってるだけだ!」
「あーはいはい。痴話喧嘩は他所でやってちょうだいっての」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
「息ピッタリじゃねぇか……」
「どっからどう見ても夫婦漫才ね」
「にゃおん」


イリアたちの言葉に、俺達は顔を見合わせた。
あれか、喧嘩するほど仲がいいってやつ?


「はぁ……大体、こんな子供ばかりでおちゃらけたギルドなんかにまともな依頼が来るわけないじゃないか」
「おいこらキール。お前なんでこっち見ながら言った?」


喧嘩なら買うぞコラ。
そんな思いでキールを睨むと、肩に乗っていたクロートに尻尾でペシペシ頭を叩かれた。
大人げないことすんなってか。
渋々引き下がると、今度はチャットが目を吊り上げてキールを睨んだ。
………いや、オレ達も睨まれて、る?


「皆さんが子供なのは、皆さんの責任じゃありませんか!…まったく…子分が子供だとキャプテンも苦労しますね」
「「お前が一番子供じゃないか!!」」
「やっぱ夫婦漫才ね」
「な」
「にゃおーん」