────彼等の間柄を適切に云い表すとしたらどういった縷説が云い得て妙なのだろうか。
 ……と、横浜区港湾地帯に築城する武装探偵社内の一部隅角にて最近正式な社員となった新顔、基い中島敦は真剣な面持ちで然る二人の様子を眺め乍ら沈思黙考していた。
 彼が一意に視線を吸い付かせるのは探偵社の纏め役である国木田独歩曰く「包帯無駄遣い装置」。そう悪様に貶されながらも、大変譎詭けっきな趣味──と云う可きか最早嗜癖マニアと云う可きなのか定かでは無いが──を日々自彊する青年・太宰治と、同じく探偵社員であり中島からすれば先輩でもある宮沢賢治曰く、「世間一般から見て与謝野先生が高嶺の花なら彼の娘は路傍の花って感じかな」と直言な──けれど先ず先ずな甲乙である非戦闘員の女性・名字名前。
 中島が何故これほど彼等二人の座作進退を注視するのか、
 そして二人の関係性に就いて勘考するのか、
 其れは数日前に起した出来事が元種だった。

 先ず壱に。
 現在進行形で凝視している片つ方、名字は中島が探偵社に入社した折から恰も口を縫い付けられているかのように緘黙を貫く人物だった。
 始めは自分が何か気に障ることを為出かしたか、或いは向うが声を出せない、所謂いわゆる失声症と云ういたつきを抱えているのやも知れないと思量したが、「彼女は言葉其のものが力になる異能持ちなンだ」と説明されれば素直に納得できた。
 大して驚きもせず、すんなりと事情ワケが飲み込めたのは「此所が武装探偵社と云う異能力集団に依る結社だったから」と条理が立つ理由も有るし、何より己も知れず「人虎」と呼ばれる身で有ったからだ。言魂遣いと云う異能者が存在しても別段奇とする事では無かった。
 しかし彼女の力は「強靭つよ過ぎた」。其れは時に彼女自身が慎莫に負えぬ程。
 元より用心深い性格である名字は己が懸念する最悪な想像──言魂の力が仲間に飛び火する瞬間──を未然に禦ぐ為、些々たる日常会話でも迂闊に口を開こうとしないのだ。
「そんな、」中島は憐憫と大同小異な感情を声を持て余した。だが致し方ない事だと国木田は渋い表情で云った。
 国木田は手帳に書いた物を念じて具現する事が可能だが、名字の場合発した「声」ひとつで相手を蹂躙する事が可能なのだ。敵の躰を盤上の駒のように絡繰る事さえ彼女にとっては容易な事。言魂は視、聴、嗅、味、触を認識する五感の麻痺は勿論、心神の掌握、神経系やシナプス伝達の操作と凡百あらゆる部位にまで一波を投ずる。対峙し能力を発動されたが最期、主導権コントロールは名字に譲ったも同義なのだ。
 要は生かすも殺すも凡ては名字の声の儘になる。使いようの次第では独裁的且つ、拷問よりも遥かに暴力的な異能にも成り得てしまう。
 目にした事は未だ一度も無いが、訊いただけで心胆を寒からしむ能力だと中島はしじかんだ。
 故に彼女は普段こそ事務員として精力的に働いているが、探偵社としては「成る可くなら使いたくは無い窮余の一策」ともされている最後の切り札ジョーカーだった。

 これは誤解の無いように述べておくが、彼女は任ぜられた仕事以外で口を開く事こそ無かれ、気立ての善い優しい女性だ。
 そう、喩え「名前は犯人を尋問している時が一等活き活きとしているぞ」と不穏な噂を耳にしてもだ。「偶にアタシの研究室から解剖学の本が消えたり戻ッたりしてるンだよねェ」と与謝野が意味深な発言を残していてもだ。
 前者は実際に見た訳では無いし、後者は名字の仕業とは限らない。依って悪寒は覚えても信じるに足りない。値しない。
 名字は給料日前で嚢中が心細い時、中島を街に連れ出しては気前快く食事を奢ってくれる。この前紹介された喫茶処は抹茶大福が美味だった。判らない事があれば筆談か電子書面で懇切丁寧に教えてくれる。昨日は電算筐体コンピュータでの電網ネットの開き方から使い方まで指導してもらった。その他、美味しいお茶の淹れ方から一人暮らしする上で得をする豆知識等も教わった。
 斯く故に中島にとって名字名前という女性は神女のようであり、師のようであり、又た姉のような複雑多岐に亘る至重な存在であった。
 ────だから、衝撃だったのだ。
 冒頭で陳述した、中島が太宰と名字の関係を詮索する理由。数日前目の当たりにした、悩む起因と化すトピック。
 其れは今、何時もの通り事務仕事を投げ出し長椅子ソファに陣取る自殺愛好家──太宰治が相も変わらず道すがら見付けた美女に心中の誘いを申込んでいた時だった。
 八方から突き刺さる不審な眼。美女の片手を両手で包み地面に跪く太宰。返答に窮し狼狽える美女。……太宰以外は皆正常な反応だった。当然だ。軟派にしては心中なんて重過ぎる。而も初対面の相手にだ。明らかに白い目で此方を窺っている周りに対し、「こッ恥ずかしいので止めて下さい!」と彼に同伴していた中島が堪り兼ねて口強に云おうとした、刹那。

「御免あそばせ」
 しなやかで凛とした、絹のような声だった。
 太宰の所為で妙に騒ついていた喧騒の中を、突如として掻い潜った遊ばせ言葉。と同時に、中島の視界から消え失せた騒ぎの大元。
 慌てて目線を横に滑らせれば道端に重なっていた塵芥嚢ごみぶくろの山に上半身を突っ込み、尻と脚だけが見えているという間抜けな格好を露呈している太宰が居た。美女の手を握って畏まっていた男の姿など影も無い。
 彼の体躯をいとも容易く吹っ飛ばした張本人──名字は、涼しい顔をしたまま太宰が熱心に声を掛けていた女性に向き合った。
 開いた口が塞がらない彼女を前に、名字は恭しく頭を下げ、慇懃な口調で陳謝する。

「連れが御迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳有りません。如何も彼は別嬪さんを見掛けると文目も分らぬ頓痴気になるみたいで。何分頭の可笑しな人なので。脳の螺子が一本どころか二本も三本もズレて曲ッて歪んでるような人なので。先刻さっき彼の男が申した痴れ言は奇麗さっぱり記憶から抹消して於くんなまし」

 …………丁寧な筈なのに、まるで触れた者に痛痒を与える仙人掌のような口振りだった。
 名字が浮かべる夷顔とは裏腹に、不釣り合いな毒を十二分に孕んだ言葉がその口から雪崩落ちてくる。無論、その毒は太宰へ向けてだ。
 之まで中島が居る手前では緘黙を破る事の無かった名字が、あからさまな厭味を今、箍が外れたように口忠実に述べている。其れも普段は何処と無く余所余所しかった太宰に。稀に嫌忌の眼を向けてすら居た、太宰に。
 ──不意の出来事に棒立ち同然だった当時の中島の胸中には、名字の声を初めて聴いた感動と、思いがけぬ成り行きに依る喫驚と。

「痛たた……名前、君はもう少し私に対して寛容になれないの? 今の回し蹴りは脇腹の深い処に入ったよ? 内蔵が口から出ると思った」
「優しくする必要も無いと見做したので」
「非道いなァ。如何せ遣るなら五臓六腑が本当に口からぶッ飛んでしまうほど勁く蹴って呉れれば私も楽に逝けたかもしれないのに」
「御安心なさい。楽に死なせやしない。如何せなら『いっそ早う殺せ』と希うほどじっくり嬲って舐って陵辱してから仕上げにそっと殺してあげる」
「苦しいのは厭だよ私」

「其れに今は美女と心中を果たすのが夢だから! 邪魔しないで呉れ給え!」と火に油を注ぐ一言に名字の堪忍嚢の緒が切れた。夷顔から閻魔顔へ。散乱した塵芥嚢の側に座り込む太宰へ足早に近付くと脳天に踵落としを決めた名字の姿を見て、中島は口唇を一の字に結んだ。
 ──名前さんて、意外と強かなんだなァ…。
 感動と、喫驚と、僅かな畏怖。虫も殺さぬような顔をして次々と太宰に放たれる言葉は暗澹たる、拷問を彷彿とさせる一語ばかりだ。
「名前は犯人を尋問している時が一等──」ふと一度耳にした噂が想起される。犯罪を犯した訳では無いが、見知らぬ女性を困らせた罰として太宰に説教を超えた罵詈を浴びせる名字の表情は確かに活き活きと────輝いていた。


 然もあの日の事など無かったかのように黙々と執務に励む名字。其の様子に平素と変わった所は見受けられず、滑らかな動作で電子盤を叩いている。現在は仕事中なので表情こそ真剣だが、真逆あんな閻魔顔を拝む事になろうとは数日前の自分は予想だにして居なかった。之また当然だ。中島は名字と知り合ってからまだ日も浅い。幾ら探偵社の中では何かと接する機会が多いと云えど、色んな一面を知るにはコミュニケーション不足と云った処だろう。後は信頼、時間の積み重ねが少々足りなかった。
 しかし乍ら相手の事を熟知する為に時間や信頼と云った形而的要素が重きを成すと云うならば、名字とは其の何方も跛行している人物が居る。言わずもがな太宰を指す。
 仲が悪い──と云うのは、おそらく間違いないだろう。名字が一方的に太宰を目の上のたん瘤として扱っているだけな気もするが。だが数日前の彼女のご立腹具合はしょっちゅう計画を邪魔されて怒鳴り散らす国木田とは違う。
 名字の場合、積年の怨みを滲ませた──云うなれば悪意の弾丸だった。散弾銃のように小さな弾が弾雨の如き男の躰に降り注ぐ。『人間失格』と云う異能が無ければ、太宰の躰は悪意に依って忽ち刳り貫かれて居たのでは無いかと厭な想像が脳裡を過ぎるほどの、毒々しさ。
 でも、何故?
 何故彼女は彼を敵視し、彼は其れを看過している? 幾ら異能を無効化する能力を有すると云えど、太宰とて怨嗟紛いの言葉を浴びせられるのは耳が痛いだろうに。……単純に女性に罵られて悦んでるだけだったりして。
 うわあー、有り得るー。と感得がいった中島は思わず薄目になった。妙ちきりんな嗜癖を抱える太宰だ、″其う云う″性癖が合っても今更驚かない。動じもしない。距離は置く。
 やや紆曲した方向に解が導かれると、やがて視線の先に納めていた名字が電算筐体の電源を落とし、徐に席を立った。急遽外に出るよう支度し始める彼女の行動に中島は小首を傾げる。はて、今日は何か予定が有っただろうか? 江戸川以外は急を要する依頼など無かった筈だ。万が一に合ったとしても彼女が現場に駆り出される事は滅多に無い。だとしたら──。

「名前さん? 買出しですか?」

 行き先は複合商業施設か贔屓にしている文房具店だろうと当て所を付けて問い掛けると、しかし振り向いた名字は頭を振った。其れから己の携帯端末を手に取り、素早く画面を弄ると中島に見せる。見馴れた電子書面には「谷崎君から助手ヘルプを頼まれたから、一寸出てきますね」と些か面食らう文字が列んでいた。
 谷崎と云えば、江戸川の付き添い兼助手として出勤早々現場に出掛けた筈だ。江戸川が今回出向く事となった場所は治外法権の魔都と呼ばれるこの横浜でも極めて黒に近い灰色な地帯であり、裏界隈の抗争等を懸念して谷崎が江戸川に同行したのだが──その谷崎から応援を求められたと云う事は、水面下で怪しい動きが合ったのだろうか?
 途端に顔色が悪くなった中島の様子に気付いた名字は、彼の心中を察して微笑した。続いて電子書面に文字を打ち込む。「もう事件は解決したそうですから大丈夫ですよ」と追記された羅列を見て安堵こそすれ、疑問符は未だ中島の頭上に浮かんだままだ。

「じゃあ何で名前さんが──ああ、」

「乱歩さんがお腹が減ったと仰ってるそうです。手持ちの駄菓子が切れてしまったようで」と問い掛けの最中提示された文面に頷いた。
 駄菓子なら社に沢山有るのだから疾く帰って来れば善いだけの話では、と思ったものの相手は彼の江戸川乱歩だ。谷崎を含めた二人が居る現場から探偵社に辿り着くまで少なくとも一時間は必要とする。正直な所、彼が一時間も空腹を我慢出来るとは迚も思えない。
 けれど一応護衛として随いて行ったにも係わらず、駄菓子如きで江戸川の側を離れる訳にもいかない。其処で困り果てた谷崎は間違いなく探偵社に居るだろう名字に連絡を寄越してきたと云う事訳だ。バイクを飛ばせば三十分も掛からないだろうから、と鍵を握って名字は駄菓子を届けに社を出て行った。……あんな雑用にも文句一つ云わないなんて流石だ。
 感心半ば、名字が出て行った扉を暫し見詰めていると、突然「ぷくく」と噛み殺しきれていない笑い声が聞こえた。声の発生源は長椅子の背の向こう側からだ。
 つまり、眠っていた筈の太宰で。彼は「ヨイショ」と上半身を起こすと、長椅子の背凭れに顎を乗せて含みのある笑みを見せた。

「敦君。君ね、名前のこと見過ぎ」
「え?!」
「彼女に惚れでもした? 其れなら悪い事は云わないから辞めておいた方が善い。彼の娘はああ見えて猟奇的バイオレンスな一面も有るからね。唯の手弱女では無い。敦君の手には余ると思うなァ」

 やれやれ、とでも云いそうな雰囲気の太宰にとんだ見当違いだとは思ったけれど、そんな事よりもやけに知った風な口を利く男の言い種に中島は困惑を隠し切れなかった。
 ────矢張り、変だ。
 恰も「自分の方が彼女の事を識っている」と仄めかすような口振り。否、中島よりも太宰の方が探偵社に勤める期間は長いのだから其れだけ名字とも付き合いが有るだろうし、特に他意は無いのかもしれないけれど。中島が引っ掛かった太宰の言葉には──牽制、のような。其れでいて得意気な響きを含んでいた。
 名字の事に関しては誰よりも知悉している。と云わんばかりの綽々とした態度。ますます藪の中に埋もれてゆく真実、二人の本心。
 嗚呼、もう。このまま一人で悩んでいても埒が明かないと潔く腹を括った中島は如何せ巧く逸らかされるだろうと事の顛末を見据えつつ、単刀直入に核心を衝く事にした。

「太宰さんは、名前さんとはどう云う関係なんですか?」
「元恋人だけど」
「ああ矢っ張り教えてはくれな…………え? 元恋人? 誰と誰が??」
「だぁかぁらぁ。私と、名前が」

 間延びした語尾に苛立つ事も無く、中島は明かされた秘密を理解しようと頭の中を整理するだけで一杯一杯だった。真逆こうも簡単に話してくれるとは。否、其れよりも二人の間にそんな男女の経歴が合ったとは。
 虚を突かれて絶句、混乱する少年に、太宰は平然として再び畳み掛ける。

「因みに名前も元マフィアだよ」
「え!!?」
「而も首領の右腕って云う重鎮。相談役コンシリエーリ……まァ、云うなれば部活の顧問みたいな?」
「イヤイヤイヤ」

 そんなアッサリ暴露する話では無いでしょうと突っ込みたくて仕方が無かった。が、「なぁに?」とでも云いそうな太宰の顔に毒気が抜ける。……何で彼のポートマフィアの中でも頂点に近い立場の人間が組織と対立する此の探偵社に在籍してるんだ、とか。と云う事は太宰と名字はマフィア時代からの付き合いだったのか、とか。社長達はこの件を知っているのか、とか。処理が追いつかないほどの疑問が次から次へと降っては湧いて。頭が痛くなった。卒倒しなかっただけでも上出来だと褒めて頂きたい。

「……と云う事は……真逆、駆け落ち?」
「んふふふふ。知りたい?」

 ここ迄話しておいて勿体振るのかこの男は。おちょくられているのは確かだ。判っていてもだが知りたい。兎に角気になる。
 生唾を飲み込む音が鼓膜の奥で広がり、蟀谷には汗が滲んだ。もう既に玉手匣を開けた後のような心境だが、其の匣が二重底だとしたら覗いて見たいと好奇が疼くのも又た自然の道理。
 恐る恐る中島は肯いた。太宰の笑みがよりいっそう深くなる。如何にもきな臭い。

「向こうではそう認知されてるだろうねぇ。実際は私が拉致ッて暫く監禁したんだけれど」
「かッ……い、一体どうやって?」
「麻酔銃使って」

 外道だ!! 矢っ張りこの人腐ってもマフィアだ!! 唖然としながら中島は今此処には居ない名字に心から同情を寄せた。
「いやね、名前が同意して呉れれば私もそんな強引な手段は選ばなかったのだけれど。応じて呉れなかったのだから仕方ないよね」言葉が可笑しいが仕方なく無い。非があるのは間違いなく太宰の方だ。よりにも依って麻酔銃。誤っても恋人に撃つ代物では無い。

「でも、元恋人って……どうして別れてしまったんですか?」
「あ、其れ訊いちゃう?」
「あ……済みません。辛いなら話さなくても」
「善いけどね。理由は到って単純明快。他に心中したい女性を見付けたからだよ」
「…………それ、もしかして名前さんに」
「うん。其のまま伝えた」

 阿呆だろこの人。
 中島はもう二の句を告げなかった。云う気も起こらなかった。そりゃあ恨まれても「仕方ない」、だ。麻酔銃で撃たれて職場から拐かされた挙げ句、問答無用で監禁されて、果てには「一緒に心中したい女性が他に出来たから別れよう」? 名字が太宰を敵視するのも頷ける。寧ろ善く其の場で息の根を仕留めなかったものだと一種の感嘆すら覚える。
 太宰と手を組んで失踪したと思われている名字が今更ポートマフィアに戻っても待ち受けているのは処刑のみ。帰るに帰れず、行く宛の失くした名字が歩む事を決めた茨の途とは。

「私をね、殺したいんだって」
「……」
「他所な女に奪われる位なら、いっそ自分の手で。……陳腐な言葉だよねえ」

「けれど私は、其の言葉にどうしようもなく高揚したのだよ」──彼女が「大嫌い」だと睥睨する度、「殺してあげる」と声で紡ぐ度。太宰にとって其れは愛の言葉に等しいと。そう語る太宰の表情は熱に浮かされたようだった。
「恋に狂うとは言葉が重複している。恋とはすでに狂気なのだ」。何処かで読んだ本の一文が中島の頭の片隅で甦る。之だけ語られても青年の本心など隙間も覗けやしない。
 別れた女の手で殺される日を待ち望んでいるのか。若しくは向けられる愛憎の念に心地善さを覚え酔い痴れているのか。
 或いは、────其の両方か。

「彼の娘の綺麗な声に殺されるなら私は本望だと云うのに。神と云うものが真実に存在するのなら、残酷なものだね」

 そう云う彼の瞳は、暗く澱んでいた。



@相談役の設定元は映画ゴッ/ドファー/ザーより。本当は5題くらいで書こうとしていた物を凝縮して書いたので何だかモヤっとした終わり方に。ヒロインの出番少なくてすみません。
ALICE+