@平門さんに家出宣言
「……なんだと?」
「実家に帰らせていただきます」
「壱號艇はお前の実家じゃない筈だが」
「あら、書類を持つ手が震えてらっしゃいますよ?」
「(……コホン)何だ、一体何が不満なんだ」
「不満なんてありません、貳號艇の子達はみんな良い子ばかりですから。ただ……」
「ただ?」
「慇懃無礼な上司を持つと下が苦労することもあるということです(ニコリ)」
「……(俺か、俺が悪いのか)誰に何を吹き込まれた」
「何も。別にこの前の新作が不評で皆さん、特に誰かさんにボロクソ言われた事を気にしてる訳ではありませんよ。ええ、ちっとも気にしていません」
「あの時のことは謝ろう。だから壱號艇に行くなんて言わないでくれ、頼む」
「知りませんさよなら」
「戻ってこい料理長!!」


@貳號艇に回った噂
「ね、ねぇ! 料理長が壱號艇に家出するってホントなの!?」
「ハ!? アイツが居なくなったらメシどーすんだよ。今更クソ不味いインスタントとか絶対ごめんだからな」
「残念ながら本当みたい。平門から何としてでも食い止めろって伝令が回ってるわ」
「料理長のご飯食べられなくなっちゃうなんてやだ! 早く探さなきゃ……っ」
「ええ! 无君、手伝ってくれる?」
「うん、俺、頑張る!」
「しゃーねぇか……じゃあ俺こっち探すわ」
「待って花礫くん、俺も一緒に行くよ!」
「いい、お前は着いてくんな(ゲシッ)」
「なんで!?」


@料理長が見つかりません
「見つかった!?」
「ダメ、どこにもいないの。羊達に聞いても見てないの一点張りだし……」
「うーん、羊達を味方に付けたのかな……」
「そういえば、羊さんたちいつも料理長にブラッシングしてもらってるって言ってた」
「ってことは、あの羊達の協力を煽ることは無理そうだな……。チクショウ、早く見つけねーと本当にアイツ壱號艇に行っちまうぞ」
「なんとかして考え直してもらわないと」
「……俺、なんだか料理長のあったかいご飯食べたくなってきた……」
「うるせえ俺だって早く食いてーモンあんだよ馬鹿(ゲシッ)」
「さては花礫くんお腹減ってるからって俺に八つ当たりしてない!?」
「落ち着いて二人共。私だって、料理長のプティングが恋しいんだから……」
「ハンバーグが食べたい!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「早く見つけるぞ/見つけましょう」


@切羽詰まって作戦会議
「いいか、料理長が俺の所に来てからおよそ一時間は経つ。それから荷物を纏めたとしても、もう貳號艇を発つ準備はとうに出来ているだろう。お前たちが察する通り、羊達の協力は不可だ。あいつらは料理長に懐いているから、味方をするとしたらあちら側に付くだろうしな」
「自力で見つけるしかないってことですね」
「そこで、だ。料理長は恐らく普段使っている転送ポートは使わないだろう。なら思い当たる場所は一つだけ」
「无君が一度かくれんぼ中に外に落ちた、あの羊達の通用路……」
「そこの前で待ち伏せしてろってことか」
「単純だが一番手っ取り早い。いざという時は実力行使してでも……」
「そんなことばかりするから料理長にしょっちゅう怒られるのよ、平門」
「……………………」
「あ、平門さんが項垂れた」
「……もういい、行け」


@説得なう
「料理長!!」
「……あら。どうしたんです皆さん、揃いもそろって」
「止めに来たに決まってんだろ。アンタが居なくなったらここのメシどーすんだよ」
「他の給仕の子が居るでしょう? 我儘言わないの。花礫君めっ!」
「めっじゃねーよ。だいたい我儘言ってんのはどっちだ。どうしても行くってんなら俺も一緒に行く。味気ねーメシなんて今更嫌だね」
「俺も! 俺も一緒にいく!」
「ちょっ、えええ二人共ダメだからね!? 俺達の今の目的は料理長を止めることだからっ。一緒に着いてく為に此処に居たんじゃないからね?」
「っ與儀!」
「え!? っあ……!!」
「……そう、やはり平門さんの差し金なの……」
「あ、あのね、料理長。確かに私達は平門に言われてここにいたけど、私達自身も料理長には貳號艇にいてほしいの。どこにも行かないで、ずっと此処にいてくれませんか……?」
「(ツクモちゃんナイス!)そうだよ、俺達料理長が居なくなったら餓えちゃうよ! 花礫くんが肉ばっかり食べて、栄養偏って倒れちゃったりしたら料理長のせいだからね!」
「なんでそこ俺だけ名指しするんだよ」
「……ああ……もう……仕方のない子たち……。平門はどこです?」
「(あ、敬称が消えた)えと、多分……」


@夫婦(?)喧嘩勃発
「──来たか」
「その如何にもなラスボス感醸し出すの止めてくれません? 第一タイトルの夫婦喧嘩って、私にも選ぶ権利くらいあるでしょうに」
「事実だろ? もうあの誓いを忘れたのか」
「うふふ。今すぐに地中海にでも沈めて差し上げましょうか」
「俺達の子供の前で酷いな。教育に悪いじゃないか」
「誰と誰の子供ですって?」
「俺こんなオヤジいらね」
「私もこんな旦那は願い下げです」
「…………(こいつら……)」
「ひ、平門さん、頑張って」
「ほ、ほら、料理長に伝えたいことがあるんでしょ?」
「……、改めて、あの時のことは詫びよう。すまなかった。だから壱號艇に行くなんて言わないでくれ、頼む」
「……最近忙しそうで休む暇も無いだろうって、だからせめて栄養面はって思って、せっかく作ったのに……」
「いや、気持ちは有難いが、スッポンの生き血やら蜥蜴の爪だとかはやり過ぎだと思うぞ」
「生き……血?」
「どっから入手したんだンなもん」
「ちゃんと煎じてじっくり煮ました!!」
「そういう問題じゃない」


@お説教のち冷戦
「いいか、料理長。確かに俺達はお前にはつくづく助けられている。栄養面のバランスも良く計算されて作られているし、俺達が特に大きな病気をすることもなく、健康に過ごせているのはお前の料理があってこそだと言っても過言ではないだろう。だが、お前はあまりにも食を追究し過ぎるクセがある」
「だってどうせなら美味しいものを食べてもらいたいじゃないですか」
「その志は立派だ。が、お前が試しにと言って作った創作料理はロクなものがない」
「? 料理長のご飯いつでも美味しいよ?」
「あ、そっか……无君は試作料理食べたこと無いのよね。私もまだ無いんだけれど……」
「可愛い子で試すようなマネはしません」
「確信犯!?」
「ほう……つまり俺は可愛くないと?」
「あなたを可愛いと言う人が居るのなら一度是非お会いしてみたいものですわ」

「………………」

「(あわわわわ)」
「(めんどくせ)」


@停戦しました
「しょうがないですね、お給料を上げてくれるのなら今回は諦めます」
「さてはそっちが本当の目的だったな」
「だって輪に入ってからもう十年以上経つのに、一向にお給料が上がらないんですよ!? 仕事量なめんな!」
「料理長の口調が崩れちゃったー!」
「(……ふぅ)何か欲しいものでもあるのか」
「敢えて言うなら休暇をば」
「…………」
「いひゃい、いひゃいれすひらひょ」
「料理長のほっぺが伸びちゃうよ」
「いっそ伸びた方がもう少し可愛げも出るんじゃないか?」
「……やっぱり壱號艇に、」
「明日一日休暇をやる。それでいいな」
「充分です(ニコニコ)」
「もう俺帰っていい? 飽きた」
「自由過ぎるよ花礫くん」


@後日談
「なんだ、結局駄目だったか」
「やはりお前の仕業か朔」
「だってよー、貳組の奴らばかり狡いじゃねーか。いつだって好きな時にあの絶品が食えるんだぜ? 贅沢だろこっちにも寄越せ」
「やらん。お前の場合は酒の摘みが欲しいだけだろ」
「最高じゃねーか。美味い酒に美味い肴! 隣には料理長っていう美人がいれば文句なしだね」
「じゃあお前も頼んだらどうだ、スッポンの生き血と蜥蜴の爪を煎じて煮た毒々しい色の栄養ドリンクを」
「あ、それは遠慮しとくわ」
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