中にはIfとしてどれも短いものですが、悲恋・死ネタも含まれています。幸せなままの二人だけで良い、死ネタが苦手という方は閲覧なさらない事をお勧めします。読んでからの苦情は受け付けません悪しからず。



@もし君が消えてしまったら(六〜七話でもしも夢主の処置が手遅れだったら)
「ほんと、バカだよね」
ぽつり、喰は白い花に囲まれて眠っている幼馴染みに向けて悪態を落とした。愁いを孕んだ金の瞳が見つめる先は慎ましくも圧倒的存在感を放つ灰色の墓石。
こんな冷たい石の下で、君は今も安らかに眠っているのだろうか。

「あの花礫君がね、泣いてたんだよ。結局大事なことは何一つ言ってやれなかったって。手を放したら無くす事くらい解ってたのに、なんで同じ過ちを二度犯しちまったんだろうって。初めて見たよ、いつもムカつくくらい涼しい顔して飄々と振る舞っていた彼があんな、なし崩しに気息奄々とした姿は」

──ねえ、名前。君がいない貳號艇は息苦しいよ。みんな一見気丈に見えても、それはあくまでも表面上。ツクモちゃんや與儀君なんか隠してるつもりでも、毎朝目許を赤く腫らして起きてくるんだから。笑顔が途絶えた場所は、明るい声が息絶えた場所は、ひどく空虚で。
人が出逢える確率は何十億分の一だ。その中で幼馴染みとして、仲間として、友人として。いろいろな形で繋がった僕らは、何よりも強い絆で結ばれていた。なんて、柄じゃないけど。

「……帰っておいでよ、名前」

何十億分の一の中から巡り会えた奇跡があるのなら、どうか。
愛しい君よ、僕達の輪に戻っておいで。


@落ちた泪、朽ちた花弁(かくれんぼタイムオーバー)
荒く繰り返される呼吸、呼吸に伴い上下する肩。恐る恐る見上げた先に求めた後ろ姿は、とうに無く。彼女が此処にいたという証拠すら跡形一つ残していなかった。タイムオーバー。手首に嵌めた腕時計は空しく音を刻んでいる。カチ、カチ、カ、チ。耳障りなそれを腕から外して地面に叩き付けた。白い梔子の葉が、まるで嘲笑うかのように風に揺れて行き場を無くした少年を見ている。

「……ハッ、」

この短い腕一つでは何一つ掴むことが出来なかった。手放して、直ぐに追い掛けたけれどすり抜けて、やがて面影すら見えなくなった。その場にしゃがんで髪を掻き毟る。──お前から沢山貰ったこの感情は、一体どこにやればいい。掌からあっという間に溢れた水は、愛は。

「これの花言葉はねー」

「私は幸せ者」。
そう梔子の花を指差して笑ったおまえの笑顔が、今はもう色褪せて見えない。


@最終話のあのシーン(NG)
「……私はもう花礫くんなんて好きじゃないから」
「…………ソレ、本当かよ」
「本当だよ。嘘偽りなく、今のが私のありのままの気持ち。だから離して、触らないで。花礫くんなんてだいきら──っ!?」

続くはずの言葉は、一切紡ぐことを赦されなかった。掠めるように奪われた唇。思考も何もかも奪い去られて、予想もしていなかった展開に名前は暫く茫然とした。しかしガチンッ、と鈍い衝撃が重なる唇から伝わって、二人は勢いよく離れ、その場に蹲る。

「〜〜っいたい!」
「それはコッチの科白だこのバカ女……!」
「なっ、花礫くんが勢い余ってぶつかってきたんじゃない!」
「てめーが動くからだろうが!」
「動いてない!」
「動いたっつの! 〜〜っもう黙れ!」
「ちょ、んん──っ」

否が応にも再び重ねられた唇。今度はしっかり成功しました。
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