@花屋の娘に急接近
「こんにちは、名前さん」
「平門さん! こんにちは、今日もいらしてくださったんですね」
「ええ、ちょっと野暮用で近くまで来たものですから。貴女の顔を一目見てから艇に戻ろうと思って」
「もう、口がお上手なんですから」
「参ったな、冗談などではないのに」
「こぉら、そういうのはきちんとした意中の方に言わなきゃダメでしょう? 誤解されてしまいますよ」
「本当に、名前さんも強情ですね。俺が恋い焦がれて止まないのは貴女ただ一人だと、再三何度も申し上げているのに」
「……ダメです、騙されませんよ」
「それは残念、」
「っもう!」


@嫉妬に駆られる
「……先程の男性は?」
「あ……見ていらっしゃったんですか。彼は母が連れてきたお見合い相手です。何度もお断りしてるんですが、なかなか折れてくれなくて……」
「……へえ、お見合い相手、ね」
「(ビクッ)ひ、平門さん?」
「──面白くないな。何もかも気に食わない」
「え……?」
「名前さん、先に宣言させていただきます。俺は貴女を諦めない。近い内に必ず貴女を攫いに行きますので、そのつもりで」
「……っ!!」
(そう言ってあなたが私の頬に残していった温度は、いつまでもいつまでも熱をもっていた)


@有言実行
「や、やめてください……! 離して!」
「なんで君は僕を受け入れてくれない! こんなにも尽くしてあげているのに、なんで振り向いてくれないんだ!! 僕なら地位も名誉もある、君を幸せにしてあげられる。あんな粗末な花屋で一生働いて暮らすより、僕と結婚した方がずっと何倍も楽に暮らせるんだよ!?」
「家を馬鹿にしないでください! 私はそんなものに興味はありません!」
「なんで……なんでなんだよ!!」
「そこまでにしたら如何です」
「、平門さん」
「なんだね君は……今取り込み中なんだ、部外者は引っ込んでてくれないか」
「そういう訳にもいかないんですよ。彼女は私の大切な人でね。生憎、不躾な男に迫られている彼女の姿を黙って傍観していられるほど、俺は心が広くないんだ」
「……っ、」
「逃げるなら今のうちですよ? 俺も手荒なことをして、彼女に幻滅されては本末転倒ですから、まだ理性が食い繋いでるうちに──消えろ」
「ひっ……!」
「……平門さん……」
「ご機嫌麗しゅう、名前さん。予告通り、貴女を攫いにきました」
「……もう、」
(仕方のない人、)


@その後、朔さんと
「今日こそは白状してもらうぞ平門」
「なんの話だ、朔」
「惚けるのも大概にしてもらおうか。どうやってあの一般人の子を誑かしたんだ? ん?」
「誑かしたなんて人聞きが悪い。ただ俺は真摯に、率直に、純粋に好意を伝え続けただけだ」
「うわ、お前の口から純粋って言葉を聞いたら鳥肌立ったんだけど」
「減らず口を二度と叩けないようにしてやろうか」
「悪かったって。でも実際そう一筋縄じゃいかなかったんだろ? 彼女の親族の反対もあったろうし、お偉方の反発もあったって聞いてるぜ?」
「彼女の周りは問題ない、外堀を埋めるのは容易いことだった。何のためにここ数ヶ月、俺があの花屋に通いつめたと思う? 俺の存在を浸透させるためだ。根が与えられた水をやがて吸収するように、じわじわと立場を確立していった。そのお陰で名前の親父さんとも仲良くなってな。最終的には快く名前を俺に任せてくれたよ。上層部も関係ない、直に沈静するさ」
「こえーよお前……。沈静って、なにか策でもあんのか?」
「既成事実があれば一発だろ。子供作るなり何なり、手立てはいくらでもある」
「名前ちゃん逃げろ全力で逃げろ」
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