*後味悪い上に銀與儀が可哀想です



いつだってさ、オレは自分が楽しければそれで良かったんだ。

「……ねえ、遊ぼ?」

くるくるくるくる廻って踊る、
延々とひたすら無限ループし続ける回転木馬に嗤う道化師。

壊して、乞わしてコワシテこわしてね、

その後は大事に、
だぁーいじに玩具箱に仕舞うの。

そんで夢中になってじゃれて遊んでボロボロになるまで愛し尽くしてね、
飽きちゃったらゴミ捨てにポイ。

だってもうイラナイから。
オレにはもう「不用品」だから、どーでもいい存在だから、合ってもジャマなんだよね


愛着なんて所詮その時限りのもので、愛を知らない彼にとって愛とは未知で簡単に棄てられるような極々軽いものだったのです。


「……君が悪いんだよ。折角オレが誘ってあげたのにさあ」


でもね、愛?ナニソレ?なんて風に嘲っていた彼にも、ようやく、やっと本当に欲しいモノを見付けられて。だけどどれだけ手を伸ばしても足掻いてももがいても、振り向いてほしい女の子はとうに別の人間のモノだった。


正確には、別の人間じゃない。
正確には、別の人格?


「────與儀、好きだよ」


透明な声で紡がれる名前は確かに自分のものなのに、自分では無かった。


必要無いものを切り棄てても次から次へと新しい玩具に手を出すのは、それはさながら壊れずに自分のことを受け止めてくれる温もりを探しているかのようにも映って、
けれどみんな銀髪になった與儀に警戒して構えるだけで、誰一人『一つの人格』として、『一人の人間』としては理解してくれなかったのです。

否、ある意味一つの存在としては見られていたかもしれない。
だってみんな違ったから。
表の人格に対する態度とか視線とかそういうの、全部似ているようで違ったから。



『あなたは、ちがう』

「…………ウルサイ」

『あなたは、與儀じゃない』

「ウルサイウルサイウルサイ!!!」

『あなたは、──』

「だからっ、!!」


『あなたは、あなたでしょう』


私が愛した與儀じゃない。

表は表で、裏は裏。
コインのように元々一つのものが真っ二つに分かれることもなく、かといって表と裏が融け合って調和することもない。
與儀は與儀で、あなたはあなたでしょう?それ以外に何があるの?


「……君が、悪いんだ……名前」


(彼女はオレに『名前』をくれた)
(彼女はオレを『銀』と呼んだ)


銀與儀が居たのは、辺り一面暗闇に覆われたとてもとても寒い場所。
身体的に?いいえ、心が。


普段表の人格が身体を支配する中、もう一人の與儀を通して見る風景は温かくて、やさしさに満ち足りていて、もちろん時折悲しいこともあったけどそれさえも──
ぽつんと寂しいところに置かれた一人ぼっちの與儀にとって、喉から手が出そうなほど求めていたもの、とてつもなく、焦がれていたものでした。


「……、オレちっとも悪くないし」

『銀、』

「君が悪い」

『銀、』

「名前」

『銀、ほら、』

「きみ、が」

『銀、──なかないで』

「……〜〜名前ッッ!!!」


だいじに、これ以上無いくらい大事に箱の中に仕舞ったんだよ?なのに、ねえ、なんで


こわれちゃったの?


人間なんて脆弱なものです。
特に女の子なんてね、男の子とは身体の組織が根幹から違うんだよ。

弱くて、脆いの。
砂上の楼閣なんて曖昧模糊で、不透明なものよりも、儚げで、危ういの。


呆気なく、しんじゃった。


銀與儀の腕の中で微動だにしない彼女の脱け殻。魂は抜けて、重いような軽いような身体を抱いて茫然とその場に佇む。
綺麗だったハズの首には大きい大きい手のひらのアト。……誰だよ誰がやったんだよねえ誰にやられたの名前教えてよほら泣いてなんかないからさ早く教えてオレがソイツ殺すから早く、早く早く早く早く早く早く早く。


『……っ銀、やめ、』


苦しそうに宙を掻く腕
苦しそうに寄った眉
苦しそうに吐き出された息
苦しそうに──


『たすけ、……與儀』


こぼされた、懇願。


ああ、さいごのさいごまで、あの子はオレを見てはくれなかった、なあ。


結局肉体的な死を遂げることは出来ても、それは彼女が最期まで愛した『與儀』の死であって『自分』ではない。
所詮、自分達は表裏一体。根本で密接に繋がってしまっているので、切り離せないので。自分で自分を消すことは不可能なので。
彼は生涯、やり場の無い想いを堪えて今まで通り影で生きていくしか残された術はなく。


一生、壊し続けて、
面影と温もりを追い求めて、
一生、彼女の泪を抱いて進んでゆくのです。



ガクガク、ガクガク揺らしたよ
起きてって、あそぼって、


──でも、彼女は起きてくれなかった


『オレ』を呼んでくれた唇はね、もう、なぁんにも言わないんだって。


(君にあいたい、なあ。……名前)
(目を閉じれば、逢えるかな)


暗闇の中、閉じた目蓋の裏に浮かぶ君のやさしい笑顔だけが唯一の光でした。
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