*某不倫携帯ゲームのCMに触発されて
*何でこの三人なのかと言うと不倫という響きが似合っ…あっ、他人の物でも欲しいものは手に入れそうだなと思ったので
*全体的に妖しい雰囲気です注意をば!




@平門さんと
気怠い体をシーツに沈め、重い目蓋をうっすら開くと遠くから響くシャワーの水音。ああ、またもや意識を飛ばしてしまったのかと気付くと同時に沸き上がる罪悪感。彼と事に及ぶのは久し振りだったからつい羽目を外して感じ過ぎてしまった。───平門は、ちゃんと気持ちよくなれただろうか。もし私一人だけが楽しんでいたなら申し訳ないと上体を起こし視線を下げると、自然と目に入るスマフォのディスプレイ。何通ものメールを知らせるそれは、チカチカと緑色に点滅していて。甘く耽美な夢の、タイムリミットが近いことを暗に指し示していた。おもむろにベッドの下に散らばっている下着と衣服を拾い集め、形を崩さないよう細心の注意を払いながら順に身に着けていく。

「…もう帰るのか?」
「っ…吃驚した……上がったのね」

いつの間にか下にジーンズだけ履いて壁に寄りかかっていた平門の存在に息が止まりそうになりながら呟く。旦那と子供が待ってるもの、そろそろ帰らないと怪しく思われるわ。そう再び衣服を纏うことに意識を向けながら素っ気なく告げれば、彼は何を思ったのかゆっくりと私の背後に歩み寄り肩や腰を強く抱いた。瞬間、仄かに鼻腔を掠めるシャンプーと石鹸の薫り。お風呂上がりで普段より高いその体温にドクリと胸は疼いて、収まった筈の熱がまた昂っていくのを感じ私は慌てて腕の中で藻掻きだした。

「だめよ平門、離して…!」
「名前、…今日はお前を帰さないって俺が言ったらどうする?」
「困るわ…そんなの」
「本当に?」

ココは、こんなに俺を求めているのに?
そう言って太股の際どい所をスルリと撫でる厭らしい手付きに背筋を震わせた。だめ、こんなところで流されては平門の思う壷だわ。精一杯理性を繋ぎ止めて、ふるふると駄々を捏ねるようにかぶりを振る。すると平門は仕方ないとばかりに私を抱き締めていた腕を解放した。その際僅かに宿る寂寥感には見ないフリをして漸く一安心だと胸を撫で下ろしたのも束の間、抗うことも儘ならずベッドの上に組み敷かれた。

「ちょ、平門…っ!」
「どうしても帰るっていうなら帰ってみせればいい。ただし俺から抜け出せたらな?」

にやりと笑んだ平門の瞳には、帰す気など更々無いという意志がちらついていた。──もう、大人げないのはどっちなんだか。頑なに譲る気はないと強情な男に観念した私は、未だ点滅を鳴らすスマフォの電源を落として伸し掛かる大きな背中に腕を回した。


@朔さんと
「あんな旦那やめちまえ」

後ろから私を抱き竦める腕は、然れど憤りを抑えるかのように細々と震えていた。たまたま、偶然遭遇してしまった夫の浮気現場。数ヶ月振りに会った友人の朔と食事して折角夢見心地で良い気分だったのに、一気にどん底に突き落とされたようだった。吐き捨てるみたいに呟いた朔の言葉に、私は今にも涙が溢れそうな瞳を綴じて首を振る。
なんでだよ、あんなことされて旦那に執着する理由なんて無いだろ。まるで子供に言い聞かせるような声色で選択を投げる朔は、私の考えていることが分からないといった様子だった。

「だって、まだ子供も小さいの。あの子の為にも、いま別れる訳には」
「そうやってお前はずっと、これから先自分の心を欺いて殺していくつもりか」

そんなの俺は許さないからな。強い語気でそう言い放った朔にただ狼狽えた。どうして、そんなに気に掛けてくれるの?見上げて言問えば、お前が好きだからに決まってるだろと返ってくるのは苦い笑み。年甲斐もなく浮足立って、胸が高鳴って。けれど子供の笑顔を思い浮かべると締め付けられるように呼吸がしづらくなる。瞳の奥に籠められた熱の炎から、私は為す術もなく目線を逸らした。

「…だめ、だめよ。私は無闇やたらに危ない橋を渡る趣味はないの」
「そう言いつつお前は、俺に奪われたいって顔してる」

白状しちまえよ、俺に攫ってほしいって。素直に奪ってほしいって、───言え。
選択権は与えつつも拒否権はなく、最初から用意された答は一つだけ。あまつさえ有無を言わさぬ口調に私は咄嗟に口を噤み、言葉もなく朔の顔を見上げた。刹那、すかさず柔らかい温もりに塞がれる唇。

「言わないなら言わせるまでだ」

ああ、きっと私はどう足掻いてもこの人から逃れられないのだ。降ってくる口付けの嵐に抵抗する力さえ奪われながら、私は泥沼に嵌まっていく感覚をひしひしと感じていた。


@黒白さんと
「どこまでも意固地な女だな」

だがそれも良い。と笑った黒白がおもむろに耳朶を噛んできて、私は甘い吐息を落とした。何処にも行かせないという様に腰と胸の前に回された腕は私が身動ぎしてもビクともせず、そればかりか益々力は増していくばかり。骨が軋んで痛いと訴えればことさら黒白の笑みは深まるだけだった。「これでもうあの旦那の許に戻ろうなどと愚を犯そうとはしないだろう?」そうさながら毒のように鼓膜から脳髄まで浸透する声は体の到る所を痺れさせる。だけど私にだって守るべきものがある、天秤に掛けること自体間違っているとは分かっているけど、でも。

「私は、きっと一生黒白だけのものになることは出来ないわ」
「なら強引にでも私のモノにするまでだ。最初からお前の意思なんて聞いていない」

なんて、横暴な。けれどそれらを理解した上でこんな人を愛してしまった自分もどうかしている。顎に掛けられた手を恨みがましく見詰め、次第に背の高い彼の顔を見上げれば溢される嘲笑。馬鹿馬鹿しいと一蹴するばかりの態度に心底腸が煮えくり返りそうになるが、言い返せないのもまた事実だった。

「いい加減お前も気持ちが揺れていると認めればいい、今のうちならまだ優しくしてやれる。それとも──酷くされるのがお好みか?」

隙を突いてつつ、と撫で上げられる太股の感覚に、私は瞬く間に背筋に粟を立てた。ふるりと腰が揺れて危うく膝から崩れ落ちそうになる。悔しくも黒白に一から調教され快楽を叩き込まれた体が些細といえど与えられた刺激に反応しない訳もなく、恰も強請るように彼の胸元にしがみついた。くく、と耳の傍で圧し殺すように男が笑う。

「なら、お望み通りにしてやろう」

次の瞬間、私の視界は黒に染まった。

ALICE+