*元ネタSSはこちら。予告的なものです


「っ、やめろ!そいつには手ぇだすな!!」



おにいちゃん、
おにいちゃん、いたいよ くるしいよ


懸命に伸ばしたちっちゃな手は、
けれど周りの無情な人間達によって地面に這いつくばらせられた兄には届かなかった。



以前メモで話していた愛され花礫妹で原作沿い。妹も花礫と一緒に親に売られ、あの座礁した船の中に乗っていた。下卑た笑いを浮かべる大人達に囲まれ、蔑まれ、耳に入るのはいつだって罵詈雑言の嵐。時には憂さ晴らしや暇つぶしと称して暴力だって振るわれる事だってあった。寒さに震え、食事も儘ならず日に日に弱っていく幼い妹。花礫はそんな妹を、大人達から必死になって自分が盾になり身を挺して守っていた。


おにいちゃん、もういいよ、もうやめて、おにいちゃんがしんじゃう


同じく痩せ細った身体に、痛々しくも増えていく痣。自分を庇っているせいで倍以上の痛みをその身に受けている花礫に、名前は耐えられないとばかりにボロボロと涙を溢して泣きすがった。わたしもなぐられたっていい、おにいちゃんがもういたいおもいしないんなら、わたしもいっしょになぐられる。そう時折嗚咽を混ぜながら拙くも言った妹に、花礫は不機嫌そうに眉を顰めた。


「ばーか…これくらいのことで俺がしぬかよ。いいから、お前は俺の後ろにかくれてろ。何がなんでも絶対出てくんなよ」


くしゃりと些か乱暴に髪を撫でてくれた手は、肉が無く骨張っていて少し痛かったのです。

それから数日してまた食事の時間がやってきた。いつも通り片隅に除け者にされる兄妹二人。空腹は限界だったが、あの食事を口にする都度に徐々に気が狂っていく大人達の様子を窺っていて、ただ事ならぬ裏の思惑を感じ取った花礫は自ら奪い取って食べようとも思わなかった。しかし自分は良くても妹は、名前はそうはいかない。このままでは餓死してしまう。もはやグッタリと力無く自分にもたれ掛かる妹の様相を見て、花礫はこの上ない焦燥に駆られた。クチャクチャ。心ない大人達が下品にも食材にかぶり付き、咀嚼する不愉快な音が辺り一帯に響き渡る。
無力な自分にはどうにもできない。やり場のない苛立ちを紛らすために舌を打ったら、連中の中でも一際ガラの悪い男がその音に気付いて身を寄せあう花礫達に近付いてきた。


「なんだァ?その反抗的な目は…」
「………」
「だんまりかよ、生意気なガキの分際で…」


胸倉を掴まれ、男の拳が振り上げられた。すると「やめて!」と花礫の服を掴む男の腕を抱き付くような形で押さえ、弱々しくも懇願する声を絞り出す妹の姿。即座に花礫は瞠目し、「っバカ、出てくんなっつったろ!」と怒声を張り上げる。ビクリと恐怖にますます震える名前の肩。同時に、今まで事の成り行きを見ていた男がニィ、と口角をイヤらしく吊り上げた。


「…そうか、チビも居たんだよなぁ…」
「…っ」
「来いよ、テメェには特別に俺様のメシを分けてやるからよォ」
「やっ、いた…っ!」
「、名前!!」
「へーへー、お子ちゃまは地面でおねんねしてようなー」


ぞんざいに髪を鷲掴まれ、無遠慮に引きずられていく名前を見ながら、花礫は地面に軽々と伸され何一つ身動き出来なかった。痛みに泣く悲痛に歪んだ顔、否が応でも無理矢理流し込まれる飲み物に噎せる苦しそうな姿。助けようとどんなに足掻いて暴れても、所詮子供の力。上回る大人の力で捩じ伏せられるだけだった。



そんなこんなで原作沿いへ移行。妹はあの後花礫と共にツバキに拾われ、二人揃って彼女の世話となることに。ツバメやヨタカといった新しい兄姉も出来て、花礫も自分ももう誰かに虐げられることはない。どんなに貧困で生活が苦しくとも、名前にとってあの船の中に居たときと比べれば此処はさながら天国も同然だった。
だけど母のようにも慕っていたツバキが突然亡くなって、お爺ちゃんも入院してしまって。──花礫も、名前にさえ何も言わずある日忽然と姿を消してしまった。

ヨタカお兄ちゃんにね、訊いたんだ。お兄ちゃんはわたしたちをおいてどこに行っちゃったんだろうって。そしたらヨタカお兄ちゃんは途端に怖い顔になって、


「…あんなヤツのことなんて忘れろ!これからは俺が、ツバメも名前も守ってやるから」


って言って、詳しいことをわたしには教えてくれませんでした。


忘れるなんて出来るわけがない。あんな優しい兄を、わたしを守ってくれた強い兄を、そんな、裏切るような。もしかしたら見捨てられたのはわたしかもしれないけど、おいていかれたことには代わりないけど、でも。


はやくかえってきて、おにいちゃん。


名前はずっと待っていた。いつか必ず帰ってきてくれると信じて、また頭を撫でてもらえる日が訪れると疑わず、子供ながらに一生懸命日々を過ごしていた。そんな時、


「ヨうやく、みツけたヨ」


これでやっとオレも手柄が挙がる大金星だこれでウロ様にも褒美を与えられルこれでこれでこれでこれでコレデこれでコレデ此でコレデこれで


背筋に戦慄が走るほどの低く澱んだ声がふいに耳朶を打って、目の前に立ち塞がる人ならざる物の形をした化け物に、名前は尻餅を付いて後ずさった。帰ったらみんなで食べようと思っていた林檎が手からこぼれ落ちて地面に転がっていく。

縫い付けられたかのように怖じ気付いて動けない名前に、化け物は骨が露になっているその食指を伸ばす。(ころされる、)ぎゅっと目を瞑った。──ら、全身に降り注いだ生ぬるい液体。恐る恐る目を開けて見てみれば、赤い、赤い───


「…………!!」


幼い名前にとって、その光景は衝撃的なものだった。化け物の心臓を貫く剣。次第に化け物は綺麗な粒子となって空に散っていく。けれど、自分にかかった血は紛れもなく本物で。容量オーバー。あたかも糸が切れたように、名前はその場で意識を闇に落とした。


「……この子は、」
(能力者が狙っていた……?いったい、)




→それから二転三転と状況が進み。一波乱も二波乱も越えて名前は強制的に貳號艇に保護(という名目の監視)されることになる。




「…この娘には確かに能力者の細胞が組み込まれている。が、それ以外身体にこれといって著しい変化は見られない」
「つまり能力者化はしない、と?」
「分からん。先のことまで予測は出来ん。…しかし細胞を組み込まれてもなお能力者化しない、あまつさえ細胞を無効化するというのなら、能力者たちがこぞってこの娘を捕らえようと狙ってくる理由には…なるかもしれない」
「…名前の身体を調べれば火不火の手懸かりに繋がる上、ひょっとしたら能力者化した人間を元に戻す方法も得られるかもしれませんね」


企てるのは平門さんの役目です。一見酷く見えるけどちゃんと色々考えてるからこそ(笑)


「名前ちゃ〜んっ!!」
「…よぎ、おもい」
「うっ、ゴメン!」
「ちょっと、あんたのデカイ図体で突っ込んでったら名前が潰れるでしょ!名前、大丈夫?ケガは無い?!」
「ない……へーき…」


「名前ちゃん、一緒にお菓子食べない…?今日看護師の人にマフィンもらったんだけれど、もし良かったら」
「…!たべる…!」
「!ええ、おいで」


この通り貳號艇ではある意味マスコット的存在として可愛がられてます。わりと内向的?大人しく控えめな性格。口数は少ないですが思ったことは率直に口にします。そこは花礫とそっくり。決して頭が悪いわけでは無いが、花礫ほど本を読むわけでは無いので喋り方も意味を頭の中で確認しながら。なので若干たどたどしいです。因みに花礫とは4歳差くらい(毎度のごとく曖昧)


「お兄ちゃんっ」
「──…な、名前?なんで此処に…!」


その後无と一緒に保護された花礫と再会、一悶着からの…
と、いう感じの原作沿い(笑)ただ花礫くんの優しさを全面的に出したかったのと愛され妹が書きたいだけ。基本キャラに甘やかされたい方向けの連載です|ω・)


ALICE+