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＠揉み手すり手の懇願
『平門。折り入ってお前に頼みがある』
「……なんだ、珍しく電話してきたと思えばそんなしおらしい態度で。飲み会なら暫くやらないぞ」
『いや、今回はそうじゃねえ。お前なら、昔から誼のあるお前だからこそ今日限り俺の切実な願いを許可してくれるだろうと見込んで電話したんだ』
「…………言ってみろ」
『俺は今猛烈に癒やしが欲しい』
「却下だ」
『まだ途中だろ！？』
「俺が許したところであの花礫が許す筈無いだろう。イージスの盾だぞあいつは」
『安全は保証するし、明日になったらちゃんとそっちまで送るからさ！ 頼む！ 一日、一日だけ懐芽を貸してくれ！！』
「……朔。お前は酒を飲めば大半のことはけろっと忘れて癒やしも何も無いだろうに。何故いきなり懐芽を貸せとそう粘る？」
『だって俺、昨日誕生日だったし。けど仕事でそれどころじゃなかったしー』
「…………あぁ……」
『忘れてたろお前。薄情なヤツめ！』
「切って良いか」
『待て待て待て！ ったく、冗談通じねえんだからよー……短気は損気だぜ？』
「切る」
『あぁあ悪かったって！ 後生だからさ、懐芽を俺に預けてくれよ……マジ干からびそうなんだって』
「勝手に枯れていろ。……と、言いたいところだが」
『……うん？』
「……まあ、俺も忘れていたしな。今回は特別に免じて目を瞑ってやる」
『、よっしゃ！ じゃあ喰には俺から連絡入れとくから、兄貴の方の説得は任せた』
「それが一番困難なんだが」
『ははっ。過保護溺愛だかんな、花礫も』
「俺達も、な」
『違いねぇや』
＠保護者の合意？求めてませんが何か。
「懐芽ちゃ〜ん、居るー？」
「っじ、喰くん…！？」
「ヤダなぁ无君、僕を見るたびそんなビクビクしないでよ。幾らなんでも傷付くよ？」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ良いけど。それで、肝心の懐芽ちゃんは？」
「……懐芽に何の用だよ」
「あ、花礫君も居たんだ……厄介だな……」
「あ？」
「いや、独り言だから気にしないで。此処は君達の部屋だから居てもなんら不思議では無いよねごめん。ちょーっと懐芽ちゃんが朔さんからお呼びが掛かってね、そこで僕がお供役に任命されたってワケ」
「ハァ？ なんだソレ……本人の居ないとこで勝手に決めてんなよ」
「残念ながらもう決定事項なんだ。花礫君がどうこう言おうが懐芽ちゃんは預かっていくからヨロシク」
「っざけんな、誰が渡すか……！！」
「花礫、そんな大っきい声出したらナツちゃんが」
「んぅ……？」
「あ……」
「……成る程、无君のベッドでお昼寝してたんだね。おはよう懐芽ちゃん、起きて早々悪いけど今から僕とお出かけしようか」
「……んん、お出かけ……？ そと……？」
「そう、外。正確には朔さんのところ」
「オイッ、人の話聞けよ！」
「花礫君は黙ってて」
「つき……なんで？」
「朔さんがどうしても懐芽ちゃんに会いたいんだって。昨日あの人誕生日だったんだけど、結局日付を跨ぐまで一人仕事してて寂しかったから今日は懐芽ちゃんに相手して欲しいんだってさ」
「は……良い歳こいて寂しいとか、ガキじゃあるまいし……」
「それは僕も思……んんっ。とにかく、そういうことだから。一緒に来てくれる？」
「ナツちゃん……今日いないの……？」
「行かせねーって言ってんだろ。懐芽、頷くなよ」
「……ん、んー……でも、」
「懐芽ちゃんは、どうしたい？」
「……つきに会いたい」
「懐芽っ？」
「ん、決まりだね。それじゃ、懐芽ちゃんは貰ってくから！ 文句があるんなら平門さんに言ってね！」
「な、〜〜のヤロウ謀りやがったな……！」
「……今日は俺たちといっしょに寝ようって約束したのに……」
「……クソメガネんとこ行くぞ、无」
@久し振りのご対面
「クッションはココで良いウサ？」
「おー。あ、それと、そろそろココアも持って来といてくれ。確か大好物だった筈だから、舌火傷しないよう温めでな」
「了解ウサッ」
「うし、後は……」
「──朔さーん、連れて来ましたよー」
「つきっ！」
「懐芽っ！」
ガシィッ！
「……挨拶より先に抱擁かよ……ハイハイ、その格好親バカみたいで正直見てられないんで離れてください、朔さん」
「親バカ上等」
「やめろ」
「つきー、つきー……会いたかったー……」
「俺も会いたかった……ああ癒される」
「……これは確かに花礫君が此処に来させたくなかった理由も分かるな……」
「俺がプレゼントしたポンチョ着て来てくれたんだな、似合ってるぞ！」
「ん！ かわいい？」
「当然。可愛くないなんて言ったやつは俺直々に性根叩き直してやる」
「うっわホント親バカだよこの人」
「ん、あれ喰まだ居たのか？ ご苦労だったな、もう帰って良いぞ」
「用が済んだらお払い箱ですか。腹立つなそのキョトンとした顔」
「何とでも言え！ 今の俺は無敵だ！」
「あーあーやっぱり懐芽ちゃん連れて来なきゃ良かったなー」
「悪かった感謝はしてる」
「当たり前です」
「つき、誕生日おめでと」
「おっ、サンキュ。いやあ、懐芽から祝われるほど嬉しいことはねーわ」
「良い歳したオッサンがデレデレして……」
「まったくですう」
「！ キイチッ！」
「お久しぶりですねぇ、懐芽さん。元気そうで何よりですぅ」
「キイチまで……なんだなんだ、お前ら揃って俺の一日遅れの誕生日でも祝ってくれんのか？」
「いえ。二人が到着したと先程兎から訊いたので顔だけ出しておこうと思いまして」
「僕は懐芽ちゃんのナイト役なんで」
「……お前らの正直なとこが好きだわ俺」
「キイチっ、キイチッ！」
「っあぁもう何ですっ？ 何処にも行きませんから裾引っ張らないでくださぁい！」
「……ごめんなさい……」
「うっ……（罪悪感が）べ、別に分かれば良いんです分かれば。裾じゃなく、手なら……ほら」
「！ キイチぎゅーっ！」
「！？ 調子に乗らないでくださいっ」
「二人とも本当に微笑ましいなぁ……キイッちゃんも妹が出来たみたいで満更でも無さそうだし……って、朔さん？」
「ん？」
「何やってるんですか？」
「とりあえず片っ端写メって保存してる」
「キイッちゃん今すぐその子連れてこの人の目の届かないとこに逃げて」
@恐怖の対象
「つき、あーん」
「あー……ん、」
「美味しい？」
「ああ、美味いよ。懐芽が食わせてくれたから尚更」
「……えへへ、よかった」
「〜〜くぁわいいなこいつっ！」
「ぐぅっ、つき、くるし……」
「……あー朔さん？ 懐芽ちゃん本気で苦しそうなんで事あるごとに力強く抱き締めるのは控えてください」
「大の大人が見苦しいですぅ……」
「喰、並びにキイチ。俺は懐芽が可愛すぎるのが悪いと思うんだ」
「つまり自分は全く悪くないと」
「反省もしなければ改めもしないと」
「正解」
「ふざけんな花礫君に言いつけるぞ」
「言ったろ、今は怖いもの無しだって」
「……ビクともしないなんて……」
「もう既に手遅れって感じですねぇ……」
「……ぐるし……」
「朔、懐芽が限界ウサ」
「っとと、悪い調子乗り過ぎたな。大丈夫か？ 具合悪くなったりしてないか？」
「だいじょぶ……」
「その割りには顔真っ青だけど……体調悪くなったら痩せ我慢はしないで直ぐ僕達に言うんだよ？ 燭先生の所連れてくから」
「！？ いいっ、だいじょぶ！」
「ぶっ、メチャクチャ首振ってんな……そんな燭ちゃんのこと苦手か」
「ちがう……注射……やだ……」
「あー……燭先生容赦ないから……だけどどこかの誰かさんみたいに泣きベソかかないだけ懐芽ちゃんは偉いね」
「與儀さんが子供なだけでしょう」
「でも終わったら與儀とぎゅってしてる」
「あぁ、その光景見たことあるかも」
「與儀もなぁ……最近仕事を理由にして健診サボり気味だっつってたからな」
「だから燭先生の機嫌も悪いんですね」
「まぁそれだけじゃねーと思うけど」
「ん……？」
「……懐芽は気にすんな」
「ところで懐芽さん、兎がココア淹れてありますけど召し上がりますかあ？」
「っのむー！」
「あっ……懐芽……」
「良いとこキイッちゃんに持ってかれましたね朔さん。御愁傷様です」
@夜の帳が空を包む
「……あれ、そういや懐芽っていつも何時ごろ眠ってるんだ？」
「いつも……は、もう寝てる……」
「そっか、なら俺に気を遣わないで寝て良いんだぞ？ それとも眠くないのか？」
「おひるねしたから……」
「成る程なー……んじゃ、眠くなるまで懐芽のことでも訊かせてもらうとすっかな」
「わたしのこと？」
「そう。例えば……そうだな、懐芽にとって貳號艇の奴らはどんな存在だ？」
「貳號艇……は、あったかい。平門も、ツクモも與儀も、イヴァもみんなやさしい」
「花礫や无は、どうだ？」
「无も……いっしょに居て楽しい。お兄ちゃんはかっこよくて、やさしくて、でも怒るとものすごく怖い」
「くっ、そうか……じゃあ、俺達は？」
「キイチは、お兄ちゃんといっしょでおこりんぼ。でもかわいくて強くて、すごい。喰は草ばっかり触ってるけど、おもしろくて、ツクモのことが大好き……？」
「喰……お前こんな認識持たれてるぞ……間違っちゃいねーけど……。俺は？」
「つきは……つきも平門とおんなじ。やさしいけど、たまに怖い」
「ん？ 俺、ナツに何かしたっけ？」
「ううん……そうじゃない……お兄ちゃん達とはちがう″怖い″」
「──……」
「つき？」
「……いや、兄に似て鋭いなと思ってよ」
「……お兄ちゃん？」
「っはー……おったまげたわ。しっかしまさか懐芽にそう思われてたとはショックがでけぇな……」
「、？ ごめん、なさい？」
「懐芽が謝る必要は無いさ。むしろ本心話してくれてありがとな」
「んう……」
「……さ、もう寝ろ。明日寝不足で帰したら平門から説教食らっちまう」
「……ん。おやすみなさい」
「おやすみ、懐芽」
（子供の観察力も、侮れない）
（正直ビビったわ……表に出してるつもりは無かったんだけど、な）
（寝顔は天使なのにおっかねえ）