03






「…」

蒼井も来い、と上層部の人に呼ばれたので取り敢えず会議に出席したは良いが、全くもって面白くない。
それとなく出席者たちを見回してみるが、自身と太刀川、冬島さん以外は皆真剣に話を聞いているようだ。真面目だねぇ。
その会議の内容だが、近々行われる近界遠征についての目的、詳細等が話し合われている。

「近日中に行われる遠征のメンバーについてだが、…」
「太刀川隊、冬島隊、風間隊、そして蒼井。今回は君たちに任せる」

眉根を寄せて話す忍田さんに続き、城戸さんが今回の遠征メンバーを呼び上げれば、自身以外の皆が「はい」と了解の声を上げた。
呼ばれた時点で察してはいたが、そうか…遠征か。残りの余生をのらりくらりと過ごそうと思っていたのに。
…いや、余生なんて呼べる程、自身に時間はないのかもしれない。
今回の遠征を最期に、というのも大いに有り得る。だと言うのになんて面倒な。




「なあハルさん。この前うちの出水と戦ったって本当?」

会議が終わって早々、そう話し掛けて来た太刀川に一つ頷き肯定を示す。

「米屋もいたけどな」
「マジかよ。ズリィんですけど」
「あ?」
「俺もハルさんと戦りたい」

この後どうすか?と問うて来る太刀川を数秒程見やり、まあ良いか、と溜息を吐く。

「お前面倒だから3本勝負な」
「面倒って酷い」
「うっせー。先行ってろ」
「うぃーす」

しっし、と追い払うように、邪険に手を振ったのだが太刀川は生き生きとした様子でC級ブースへと向かって行った。
個人ランク戦にはもう暫く参加していないため、先日の出水、米屋もそうだが太刀川などと戦うのは久方ぶりになる。
そして相手は現A級1位の男だ。不足はないどころか、やり甲斐しかない。
…とまあ、そんな楽しみは一旦置いておき、先に目的を果たすとする。

「オウ迅。ちょっとツラ貸せ」
「ハルさんそれどこの悪役?」

太刀川と一度別れた後、同じく会議に出席していた迅を呼び止め少し付き合うように言う。
そして急に話し掛けたにも関わらず、驚きも疑問にも思っていなさそうな迅の様子からして、恐らくサイドエフェクトで視ていたのだろう。
ならば、きっとこの先の話も予知しているはずだ。話が早くて助かる。

「…んで、ハルさんはこの実力派エリートに何用でしょう」
「どうせ視て知ってるんだろうから単刀直入に言うぞ」

場所を変え、人目を気にしつつ話し出す。迅は少しだけ表情を変えた。

「お前に視える未来の中で、俺の最善の死に方ってなんだ」
「……ハルさん何言ってんの?」
「どんな死に方をすれば一番ボーダーの為になるかって聞いてる」
「…、…」

淡々と問い質す自身を前に、迅はぐ、と押し黙る。

「近いうちに死ぬのはわかってる。別に気にしない」
「……そっか。サイドエフェクトか…」

視線を足元に落とし、ぽつり、とそう呟いた迅。だが、すぐに顔を上げ「…でも」と言葉を続けた。

「死ぬと決まったわけじゃない。ハルさんが死なない未来だってある」
「…そうか。だけどお前はその未来を選ばないだろ」
「、…」

迅のように未来を視ることはできないが、それでもわかる。
きっと自身の命と他者の命とが天秤に掛けられる時が来るのだろう。

最善か最悪か。生か死か。

その未来への分岐点で迅は俺を選ばない。

「なあ迅。俺はどうしたら良い」

敵はなんだ。何が俺を殺す?
別にそんなものはなんであっても良い。
自身の死が何かしらに役立つなら…なんでも良いと思った。







「お。やっと来た。ハルさんおっせーよ」
「うるせー太刀川」

C級ブースに着くなりプンプン、怒ったように近付いて来た太刀川を弧月の鞘で突く。

「…んじゃ、さっさとやるか」
「おっしゃー!」
「俺が勝ったらなんか奢れよ」
「えっ逆じゃね??それ俺のセリフじゃね?」
「お前A級1位だろ。貫禄見せろ」

そう言って「えー」と声を上げる太刀川を対戦ルームに押しやり、自らも隣のルームに入る。
…さて、やるか。





襲い来る二刀を紙一重で躱し、隙を突いてこちらも弧月を振るう。だかそこはさすがのA級1位。攻撃を予測していたらしく簡単に受け止められ、そのまま鍔迫り合いへと持ち込まれる。

「相変わらず鋭い太刀筋っすね…!」
「余裕そうなツラしてよく言うぜ」

弧月を両手で押さえ、ギリギリ、と火花を散らして迫る二刀の猛攻を凌ぐ。だが、このままでは分が悪い。

「っ!?」

ガンッと太刀川の横っ腹を蹴り上げて後退させ、自らもその勢いで飛び退く。そしてそのままイーグレットを換装し、着地前に引き金を引いて弾を撃つ。

「っくそ…!」

見事、弾は太刀川に命中した。
元々遠距離狙撃用に作られているライフルはかなりの威力を持っている。それを近距離で受けたのだ、被弾した太刀川の片腕は面白いくらいに大きく吹き飛んだ。…この距離だ、別に狙わなくても中る。

「ッ…その使い方反則だぜハルさん…!」
「言ってろ」

片腕から繰り出される旋空を体捌きで避け、太刀川の首目掛け弧月を勢いよく振るった。

「…、…」


ハルさんは強いね。


あの時迅はそう言っていたが、決してそんなことはない。俺は強くない。

今更死が怖いとは思わないが、それでも死ぬのは嫌だ。弟子のことも含め、まだやり残したことがいくつもあるんだ。

そんな思いが少しでも救われるようにと俺は迅に縋った。
死に方がわかっていればそれまでに覚悟が決められる。それが最善の死だと言うのなら尚更にだ。

俺は、弱い。

「…チッ、負けかよ」
「あぶねー…っ!」

結局勝負は1対2で太刀川が勝利した。先制されたあと取り返したのだが…やはりA級1位は伊達ではなかった。

「マジハルさん強いわ…」
「負かした奴に強いとか、なんだ嫌味か?」
「違うって!」
「遠征でも足引っ張らないように頑張ります」
「ハルさん勘弁して!」

両手を合わせ、ガバッと頭をさげる太刀川を暫くジト目で見ていたが、込み上げる笑いに耐えきれなくなり肩を揺らす。

「本当強いなお前。…これからも頑張れよ」
「?…おー」

そう言って肩を叩いてやれば、太刀川は少し不思議そうに首を傾げていた。

「…よし、じゃあ飯でも行こうぜ」
「えっ俺の奢り?」
「馬鹿野郎。俺が奢る」
「!やった!さっすがハルさん!」

自身にも余裕で勝利する太刀川がいればボーダーはきっと大丈夫。

俺がいなくなっても、大丈夫だ。



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